桜の記憶

 実際、桜と初めて出会った時に体感していることでもある。


 あの廃病院で俺を引き倒した時の力は、どう考えても華奢な女の子のものではない。


 本人曰く、あれでも優しくはしたつもり、らしいが。


「雄くん」


 問題の打開策に俺が頭を悩ませていると、ふいに横から声をかけられた。


 首だけを動かしてそちらを向くと、見慣れた人物が笑顔で側に立っていた。


「有紀か。何か用か?」


 そこにいたのは、同じクラスの白峰しらみね 有紀ゆき


 彼女は俺の幼なじみでもあり、ガキの頃からよく一緒に遊んだりしている間柄だ。


「ごめんね、邪魔しちゃったかな?」


 俺と桜を交互に見比べながら有紀が言うので、俺は首を横に振ってみせる。


「別に。こっちの話はもう終わったから」


 言って、桜の様子を窺うと相変わらず口をモゴモゴさせながら有紀の方を眺めているだけだった。


 そんな視線を気にする素振りもなく、有紀は俺の机に両手を乗せ顔を近づけてきた。


「ねぇ、雄くん。今日の放課後なんだけど、何か予定ある?」

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