第25話 簡単な解決法
クロードはバルにだけは知らせておこうと思い、皇帝の下を去ってからひとりバルの自宅にやってくる。
するとまたしてもミーナににらまれるハメになってしまった。
「もしかしてわざとか?」
「……そんなわけないがだろう。お前がバルの家に定期的に顔を出している可能性なんて、たった今思いついたくらいだ」
敵意を浴びせてくるミーナの問いにクロードはあきれながら答える。
「ならばいい」
彼女が下がったところでバルが彼に問いかけた。
「今日はどうしたんだ? 何やら深刻そうだが」
同時にミーナが防音魔術を展開する。
「ああ。率直に言わせてもらおう。帝国の次期後継者についてだ」
クロードがはっきり言うと、バルとミーナがそろって顔をしかめた。
「我々が立ち入っていい話じゃないはずだぞ」
「ところがザビャという男から個別に相談を受けたんだ」
彼が肩をすくめると、ふたりは真顔になる。
ザビャが皇帝の本名だと彼らはもちろん知っていた。
その皇帝がギリギリな手を使ってまで相談を持ちかけてきたとなれば、悪い予感がしてならない。
「バルよ、アドリアン殿下とリュディガー殿下、どちらが皇帝にふさわしいと思う?」
クロードの問いかけにバルは正直に答える。
「当代陛下の治世のおかげで二等エリアの住民には笑顔が多く、安心して暮らせている。アドリアン殿下ならば政策を受け継いでくださると安心できるが、リュディガー殿下でも同じかどうかは、かなり不安だな」
彼の答えを聞いたクロードはホッとした。
この男がアドリアンを支持するならば何とかなるという思いがある。
「ミーナはどうだ?」
「バル様のお好きなほうで」
クロードはミーナにも聞いてみたが、彼女の回答は単純かつ予想していた通りだった。
「言ったら悪いが、お前たちふたりが支持してくれるなら勝ち目がある」
「……そんなに悪いのか? 人望ではアドリアン殿下のほうが上だと聞いたことがあるのだが?」
バルの疑問にクロードはうなずく。
「そのはずだったが、支持する貴族の数でリュディガー殿下のほうが有利らしい。アドリアン殿下の親族たちはあまり野心がないのが、この場合不利に働いてしまっている」
「……皇族の外戚たちに野心がないのは好ましいと思っていたが、時と場合によりけりか」
彼の答えを聞いたバルは舌打ちをする。
「そうだな。どうすればいいのか、陛下も困り果てている」
「臆病者らしいですね」
ミーナはきっぱりと言い、クロードににらまれた。
「お前に何かいい案はあるのか?」
「簡単な解決法ならある。誰も血を流さないというわけにはいかないだろうけども」
彼女の答えを聞いた彼は、表情を歪める。
「陛下はなるべく穏便にすませたいとお考えなのだ」
「私に言わせれば愚かなことだ。身の程をわきまえない強欲な輩に何を配慮する必要がある?」
ミーナの考えは帝国のしがらみがあまりないエルフだからこそだった。
「遠慮をしてはいけない相手、状況というものはあるわけだな」
バルが言うと彼女はこくりとうなずく。
「クロードには悪いが、私はミーナに賛成だよ。リュディガー殿下とその一派に譲歩しても、事態が好転する見通しはないと思う」
クロードはとっさに何も言えない。
彼らの言い分の正しさを分からない男ではないからだ。
「もしもの場合は私が相手になろう。それでも立ち向かってくるかと伝えてみるといい」
バルの発言にミーナが素早くつけ加える。
「バル様が出ていくなら当然私も出よう」
「バルトロメウスとヴィルヘミーナと同時に戦うなど、八神輝でも避けたい悪夢だな」
クロードはため息をつきながら答えた。
言葉とは違いその表情は何か悪い憑きものが落ちたような、晴れやかなものになっている。
「最悪の場合、八神輝の数が一時的に減ってしまうかもしれないな」
ミーナが言うとクロードは苦笑する。
「恐らくそれはない。お前たちだけではなく、私とマヌエルもアドリアン殿下を支持すると分からない奴はいないだろうから」
「マヌエルの確認はとったのか? あいつが身分や権力を振りかざすリュディガー殿下を支持することはないと思うが」
バルに問われて彼はうなずいたが、若干顔色が悪い。
「ああ。八神輝ならリュディガー殿下を殺しても反逆罪には問われないと言い出したから、止めるのが大変だった」
冒険者あがりのマヌエルが実は一番過激だったようだ。
「マヌエルの奴らしいな」
バルはミーナ以上に過激な発言を聞かされて苦笑する。
八神輝同士だから苦笑で済む内容であり、皇族や貴族には間違っても知られてはいけない。
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