婚約者に浮気されたので、人間の男を信用するのはやめました。

ちえ

第1話

「もう女に見れなくなった」


10年付き合った彼氏は、そう言ってわたしのもとを去った。

せっかく結婚に踏み切った矢先だった。

会社の若くてかわいい女の子と浮気していたのを知ったのは、振られたあとすぐ。

わたしに女としての魅力を感じられなくなったのを理由に別れておいて、本当はその子と浮気していた罪悪感を薄れさせるための救済措置。

ありえない。情けない。

10年も付き合った男がこんなにちっぽけな器量の人間だったなんて。


わたしは、男性不振になった。


女友達だけいれば、それで十分!毎日ハッピー!!


と思っていた。

毎夜毎夜親友の理沙子には飲みに付き合ってもらっていた。

一生独身を謳歌すると約束していた。


まさか、理沙子までいなくなるなんて。


絶望するわたしに理沙子が何度も頭を下げる。


「ほんとにごめんって。わたしだって結婚に興味なかったけど、出会っちゃったんだもん。ずっと一緒にいたいなって人と」


「裏切り者~!わたしを置いていくなんて、ひどい!!」


恨み節を言い続けて、すでに1時間は経つ。ここまで付き合ってくれた理沙子もさすがに堪忍袋の尾が切れた。


「もう!いつまでもそんなこと言ってないで、わたしのこと祝福してよ!あと、あんたも男探しなさい!!」


会社ではグループをまとめる長をやっているだけある。理沙子の喝はこちらに有無を言わせぬほど圧力があった。

だから、わたしは泣く泣く押し黙るしかなかった。


「とにかく、この一年間男との接触をことごとく避けてきたからリハビリが必要ね。さ、いくわよ」


理沙子がわたしの腕を引っ張った。

わたしは、恐る恐る尋ねた。


「一体、いずこへ・・・?」


「そんなの決まってるじゃない。異文化交流会よ」


理沙子がわたしにウインクした。異文化交流会なんてもう死語なんじゃないかと思ったが、問題はそこじゃない。

わたしは慌てて腕を振り払った。


「むり!むりむりむりむり。いきなり、知らない男と話せって言うの?!そんなの無理に決まってる」


わたしは駄々をこねる子供のように理沙子に訴えた。

会社は女性が半分以上で、男性は年配者が多く同年代がいても既婚者だし部署的に関わる機会はなかった。

それに加えて、10年も一人の男性と付き合っていたから、新しい出会いも初対面の男性と話すのも、恋愛対象と考えると10年ぶりだ。

そんなの、心臓がもつはずがない。

男なんて、二次元で十分だ。わたしのことを絶対に傷つけないし、裏切らない。いつでも女の子として扱ってくれる。


「そんなこと言ってたら孤独死するよ?!まだ32歳の今のうちに考えなきゃ、後悔してからじゃ遅いんだからね!」


理沙子の喝は飛び続ける。

でも、嫌なものは嫌だ。

諦めの悪いわたしに、理沙子は冷ややかに言い放った。


「あんたが失恋したときに毎日付き合ったのは誰だったっけ?」


逆らえない一言。

わたしは、全身に入れていた力をすっと抜いた。

理沙子に満面の笑みが浮かぶ。


「よろしい」


理沙子には当分逆らえない。


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