サポート魔法をカンストして無双するなんて思い付かないわな。

皇 将

プロローグ

第1話 地下迷宮での戦闘

「おい! 盾だ!」

「『シールド』!」

 二人の声がほぼ同時に地下迷宮ダンジョン木霊こだまする。

 巨大な等身のトロールがその手に持つ、人の身長ほども長さのある重い棍棒を、ゆっくりと振り上げゆっくりと振り下ろす。緩慢な動作だか破壊力を秘めた凶悪な一撃だ。

 ガィィィンッ!

 魔法障壁に阻まれ棍棒は弾かれるものの、魔法障壁の展開が一瞬遅かったため、細かな木片が戦士に二・三欠片ほど降り、戦士の頬にわずかなかすり傷を作る。

「テメェ……。やりやがったな!」

 激昂した戦士は、そのままなりふり構わず突進していく。敵の真っ只中だ。

「あ! ちょ……」

 慌てて僕は、革のウエストポーチの中から呪符を三枚取り出す。

「『武器強化エンチャントウェポン』! 『ストレンクス』! 『速度スピード』!」

 武器と身体能力を強化された戦士は、トロールのわき腹を一刀両断に斬りつける。その一撃が致命傷となった。

 ドズンッと倒れるトロール。最後のトロールを倒してこれで三匹、全てを討伐した事になる。チームのみんなは、安堵のため息をつく者と、戦闘で動いて上がった息を落ち着けるように深呼吸をする者、ふたつにわかれた。


────────


 戦闘が終了し、ひとまずは治療にあたる。治療術師ヒーラーが魔法を使って、傷を負った者たちを治癒して行く。もっとも、ほとんどのメンバーはかすり傷程度しかケガをしていないので、時間はそれほどかからなかった。


「ったくよぉ……。テメェが盾を張るの遅かったから、余計な傷ができちまったじゃねぇか……」

 ボヤキにも似た独り言を声を荒げて言うものだから、地下迷宮ダンジョン内によく声が響く。その言葉を向けられたのは、間違いなく僕だ。

「あれが僕の、最速の『シールド』の展開速度だよ。あれ以上は不可能。それ以上を望むなら、『先読み』のレアスキルでも持ってないと」

 僕が諭すように言うと、ムカついたようにツバを吐き捨てて、そっぽを向く。それっきり沈黙が周囲を支配した。


───────


 討伐のあかしとして、トロールの中指を切り取って持ち帰る。これで本当に討伐は完了だ。


 後は帰るだけ。転移の魔法陣が書き込まれた巻物スクロールを広げ、魔術師ソーサラーが力を込める。すると風景が歪み、地下迷宮ダンジョンの外の風景に変わって行く。事前に魔法陣を刻んでおいた外の地面の所に、戻ってきたのだ。ようやく緊張から解き放たれる感覚がした。

 「ほおっ」とため息をひとつ吐き、早速帰る準備をする。とは言っても、野営していたテントの一部を畳んで背中に担ぎ、荷物を運ぶ荷車の上に置くだけ。後は手で引いて持ち帰るだけ。その役割は僕の担当だ。


 帰り道の長さを考えて少しイヤになりながらため息をついても、誰も手伝ってはくれないので、気合いを入れ直して荷車を引く。道中は幸いにも晴天で、魔物の出てくる気配も無かった。それだけが救いだった。


 

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