第2話 第1章 不思議な老人

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 あと一週間ほどで中学最後の夏休みがはじまろうとしているある日の午後、金太は家で昼食をすませたあと、釣り竿を持って友が淵公園のなかにある池に向かって自転車を走らせていた。

 あまり勉強が得意でない金太は、長い時間机に向かっているのがニンジンのサラダを食べるより苦手だったため、学校から帰ると母親の目を盗んで釣り場に向かう。

 小学校の頃からこの池での釣り場はいつも決まっていた。見慣れた景色のせいか、ここに来て池のなかで揺れ動くウキを眺めていると、なにもかも忘れることができた。

 あれから2年になる―――。

 近所の遊び友だちの袴田孝弘(通称ネズミ)とお爺ちゃんの畑の片隅に土木業者が置いて行った作業場を利用して秘密基地を作った。その入り口には板切れに黒のマジックで『ロビン秘密結社』と書いた看板を打ちつけた。

 その後福岡から転向して来た同じクラスの柳田トオル(通称ノッポ)がイジメに遭っているのを助け、そのあと同様な目に遭っていた早乙女愛子(通称アイコ)も救済したことでメンバーが一挙に4人になり、当時毎週のように土曜日になると6帖ほどしかない秘密基地に集まって楽しい時間を過ごした。

 しかしそれもいまになっては遠い思い出となってしまった。来年は高校受験が控えているので、これまでのように遊んでばかりはいられない。1学年下のネズミでさえ塾通いで忙しくしている。

 金太だってそれくらいのことはわかっている。母親からも、2つ上の姉・増美からも耳が痛くなるほど聞かされているからだ。人間誰しも苦手なものがある。それがたまたま金太の場合は勉強なだけだ。ようやく、いつの間にか自分だけがみんなとは違う別の脇道を歩いていることに気づいた。だが、勉強のことを考えると頭が締め付けられるように痛くなる金太は、こうしてこの池に来て水面を眺めるのだ。

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