第8話  殺人鬼と巨人① ~バトルパート~

――まず気を引きつけるしかない!


 弾丸のように一直線に走ってくる夜津木に、スララが真っ先に起こした行動は、囮となることだった。

 怖がっている彩斗を戦闘に巻き込まないよう、スララは全力で駆け出す。

 二対一という不利な状況だが、幸いなことに戦場では岩がいくつも存在している。隠れながら戦えば、すぐにやられることはない。スララは、そう思っていた。

 だが――。


「ヒヒハハハっ!」


 魔鳥のように両腕を広げた夜津木が、横薙ぎにコンバットナイフを振り回す。


「え!?」


 想定していたよりずっと速い夜津木の疾走に、スララは反応しきれない。

 鋼の刃が一閃される。その先端にあるのは死神の鎌のような輝き。銀閃を描いた斬撃が、スララの肩口をかする。


「きゃっ」


 体勢を崩されたスララに、夜津木はなおも容赦をしない。

 刃が閃く。

 銀に輝く凶器が、何条もの軌跡が、夜津木の哄笑と共にスララの全身へと襲いかかる。

 懸命にスララは距離を取ろうとするが、引き離すことができない。右に避けようとした先に刃が、左に避けようとした先に刃が、下がって跳躍しようとした瞬間、悪魔のごとく突き出された刺突が彼女の肩に容赦なく放たれる。


「わ、ああっ」


 寸前で、リコリスで防ぐも、たたらを踏んでスララは倒れてしまう。

 夜津木が大きくナイフを振りかぶる。

 ごろごろと転がって距離を取ろうとしたが、夜津木は速い。彼の動きはあまりに速い。獣のごとく伸びやかな跳躍をすると、


「ヒッハハーっ! 動け、動け、殺される前に動け! 逃げようとする奴を刻むのが、楽しくて仕方がねえっ!」


 爛々と狂気を瞳に宿して、愉快に笑う。大上段からの振り下ろしを、スララはかわした。しかし夜津木は、地を舐めるように身を屈めてから一転、体のバネを利用して斬りかかる。その動きは、曲芸師も驚きの速さだ。

 斬線を残してスララの背後に周り、斜めから一撃、返す刀で一撃、追い打ちとばかりに鋭い刺突が、スララの二の腕に迫りゆく。


「きゃ……」

「いい声だぜぇ! もっと鳴け、もっと叫べっ! この瞬間だけが俺を楽しませ、生きてるって実感をくれるんだっ!」


 スララは紙一重の動きでかわしたが、何発かはかする。そのたびにスララは短く声を上げ、劣勢一方にならざるを得ない。

 反撃に、スララはリコリスを伸ばす。半透明の長い房が、鞭のごとく、ヒュッと風を切り襲いかかる。

 だが夜津木は屈んでかわしきると、しなやかな動作のまま、横殴りにコンバットナイフを振り回す。


「ヒ――ハハハっ!」


 リコリスの鞭と銀閃が交差する。楽しくて嬉しくて仕方がない――そんな興奮を隠しもせずに夜津木が哄笑する。

 スララが毅然とした顔のまま、リコリスを伸ばした。

 二つある房のうち、時間差を使っての攻撃だった。

 しかし、夜津木は信じられない速度で横に回避するや、滑るように走り込み、肘打ちを一発入れる。


「……速い~!」

「ひはは! お嬢ちゃんは遅過ぎるぜーっ!」


 とても人間とは思えない動きだった。

 少なくともスララには捉えきれることができなかった。

 スララとしては、必中のはずの時間差攻撃だったのだ。リコリスを鞭のようにして放つ攻撃は、並みの人間ならかわすこもできず直撃をくらうはずった。


 にも関わらず、容易にかわした夜津木は明らかな異常だ。スララだって彩斗以外の人間と接したことはある。人間には無理な動きやかわせないタイミングを、完璧ではないが知っていた。

 だが魔法も魔法具もなしに、簡単に避けて、なおかつ反撃すらしてきた夜津木は人体の限界を超えている。


「そらそらそらぁっ! ラァァァァァッシュっ!」


 狂ったようにナイフを乱舞させる夜津木に対し、なけなしの気迫を振り絞ってスララはリコリスを伸ばす。

 しかし当たらない。夜津木の乱舞の隙を縫うように伸ばしたリコリスは、彼の眼前に迫るやいなや、完璧に見切られ、完全なタイミングで避けられ、かすりもしない。


「ど、どうして……?」


 こめかみへの斬撃をぎりぎりでかわし、小さくよろめきながらスララは問う。


「おかしいよ、どうしてそんなに、速いの~」


 ぐるっと回転し、袈裟懸けに刃を振り下ろした夜津木の攻撃をリコリスで受け、スララは困惑に顔を染める。


「あん? 何を驚いてんの? こんなんどこにでも売ってるっつーの。ちょっと改造すれば、すいすい走れるようになるぜー」


 言われて、スララは夜津木の足元を見た。彼の靴を見た。

 秘密は、それだった。金属でできたローラーが、夜津木の靴の裏側についており、それが回転することで人の限界を超えた疾走や回避ができているのだ。

 スララにはそれがローラーブレードだという知識はもちろんない。けれどそれが恐るべき機動力を発揮しているのは、なんとなくだがわかる。

 けれど、それがわかっていても、攻撃が当たらなければ夜津木を倒せないことには変わらない。


「俺の世界の最新式のブレードだぜ。高かったけど殺人には持ってこいの代物だよなっ。おまけに改造すれば悪路も水辺も関係ねえ。俺の殺戮は、何にも邪魔されねーんだよ!」


 まるで旋風のように、夜津木の足元が駆動して彼は突貫する。

 いよいよ夜津木の斬撃は、猛ラッシュの域に到達していた。環状、線状に滑り込み、銀線を閃かせながら切り刻む姿は残虐という他はない。時に回転し、時に魔鳥のごとく両腕を広げて優雅に走る夜津木は、殺戮のために生まれてきた生粋の殺人鬼。血が大好きで、斬る感触が忘れられず、湧き上がる狂気に従いナイフを振り回すことだけが生きがいの、血に飢えた鬼。

 彼の前ではアルシエル・ゲームは最高の余興だった。訪れた不幸にはならず、ひたすら己の衝動のままに突き進める至高の舞台。


「ぞくぞくする。ゾクゾクするぜっ」


 死神の生まれ変わりのような笑顔を見せ、夜津木は恍惚とする。


「こんなに斬っても誰にも文句を言われない。刻んだ後にサツの目を掻い潜る必要もない。好きなだけ刃を振り回せるのが楽しくて、楽しくて仕方がないぜ。サイレンなんて怖くない。ここは理想だ。斬るぞ、俺は斬る。殺戮バンザイだ!」


 狂気に彩られた銀閃がいくつもスララを襲う。旋風となって走り回る夜津木をスララは止められない。刃、刃、また刃。哄笑が辺りに響き渡り、凶刃が雨のように振るわれる。


 幾筋もの銀閃がスララにかする。直撃はぎりぎりのところで回避しているが劣勢は誰の目にも明らかだ。


「こ、これじゃ……っ」


 スララは、上段からリコリスを叩き降ろした。とっさに夜津木が後ろに下がる。その隙を利用して、なんとか岩の影に身を隠そうと考える。

 開けた場所では、あまりに不利だ。ローラーを使った夜津木の動きはあまりに速い。スララはそう思い、駆け出しかけたのだが――。


「――お前の相手は、一人だけではない」


 轟然と、叩き折ろされた金属棒に、ハッとスララは飛び退る。


 ぎりぎり体には当たらなかったはずだった。だが叩き下ろされた一撃は、尋常ならざる威力と速度であり、砕けた地面の欠片が、散弾のようにスララを襲う。


「きゃっ」


 衝撃波が追い打ちのように吹き荒れる。翻る岩の破片と風に体を打たれながら、スララは土煙にまみれ、数メートルも吹き出される。

 リコリスを伸ばし、地面へと付着させる。そうして勢いを殺した。未だ回転しようとする体を無理やり停止させ、スララは攻撃してきた方向を仰ぎ見る。


 巨体だった。

 ヌッと――スララの視界を覆うように屹立する不気味な影。巨木のような腕が見えた。盛り上がった筋肉が毒々しい深緑の色で覆われており、ごつい手に握られているのは、人間より何倍も大きな金属棒。紅く妖しく光る単眼が、スララを虫けらのように見下ろしている。


「このサイクロプスを忘れて戦うか。愚かだな。潰れるがいい、小娘」


 大きく振り回された金属棒が、暴力の塊となって叩き下ろされる。

 スララはかわそうと思ったわけではなかった。本能的に、体が動いたのだ。それほど巨人の放った一撃は強烈であり、圧倒的な恐怖を呼び起こした。


 地面が、爆裂する。

 金属棒の直撃地点が隆起して砕け、何十の土塊となってスララを打つ。暴風が起こる。逆巻きに上がった土煙と突風が嵐のように吹き荒れて、地響きと共に周囲を薙ぎ払う。


「きゃあ……っ」


 激しく渦を巻く衝撃波に、スララの視界はゼロになった。飛ばされて岩へ背中から当たった。追撃の金属棒が、大気ごと押し退けて横薙ぎに振るわれる。とっさに身を伏せてスララはかわすも、背後の岩がまとめて砕け散り、スララは引きつった顔でその様子を見る。


「岩が……すごい威力~」

「はっはー、すげーぜ、サイクロプス! でもよ、威力はもう少し抑えてくれよー。俺の方まで土煙飛んでくるわー」


 ぺっ、ぺっと顔をしかめて夜津木が言う。サイクロプスは「すまん」とぞんざいに告げた。大きく振り上げた金属棒をススラに向け、勝利を確信した声を放つ。


「夜津木。仕留めるぞ」

「あいあいよーっ!」


 粉塵の壁を突っ切って、夜津木が狂笑を浮かべ疾走する。

 スララは吹き飛ばされた後、まともに距離を稼ぐこともできなかった。夜津木が笑いながら、コンバットナイフを振り回す。斬撃、斬撃、斬撃、銀閃がいくつも走り、スララの腕を、胸を、脚を狙って閃いていく。


「フィニッシュだ! くたばりなぁぁぁ!」


 そして、ふらついたスララの頭上に、サイクロプスが大きく金属棒を振り上げて、轟然と叩き落とす。

 闘技中最大の地響きが、コロシアムを襲った。

 粉砕された地面の欠片が、飛沫のごとく撒き散らされては宙を舞う。暴風と粉塵の壁。強すぎる一撃は、直撃した地面にクレーターすら作り出した。


 あまりの威力に、観衆場で何人かが思わず顔をそむけた。それほどサイクロプスの打撃は強烈なものだった。

 誰もが、スララの敗北を悟ったことだろう。

 夜津木は笑っていた。サイクロプスは金属棒を担ぎ上げた。観衆場の中の強者たちまでもが、夜津木の勝利を確信し切っていた。

 しかし――。


「もう、怖かったよ~」


 土煙が完全に晴れて視界が戻ったとき。陥没した地面から、そんな呑気な少女の声が聞こえたのだ。


「――あ?」

「なん……だと?」


 コロシアム内の夜津木と、サイクロプスから、戸惑いの声がつぶやかれる。観衆場の目が、一斉にその呑気な声の元へ引き寄せられた。

 クレーターの中央、スララは五体満足のまま、少し困ったような顔をしていた。


「ひどい人たちだよ~、わたしが弱いのをいいことに、やり放題。いい加減にしてほしい~」


「あ、あれ? どうなってんだ?」

 夜津木がつぶやき、


「小娘、なぜ立っていられる」

 サイクロプスが疑問を投げかける。


 スララは――無傷だった。何十もの夜津木の斬撃をくらい、サイクロプスの打撃を受けてなお、彼女は、体のどこにも傷を負ってはいなかった。


「あれ? 言ってなかったかな~?」


 戸惑いの表情を浮かべる二人へ向けて、スララは何でもないかのように言ってみせる。


「わたしに、『打撃』と『斬撃』は効かないよ~。全部リコリスで、無効化しちゃうから」


「な――」


 衝撃的なスララの発言に、夜津木もサイクロプスも驚愕を隠せない。観衆席の間から、どよめきがいくつか起こった。


 事実だった。

 誰が見ても致命傷な攻撃を受け、劣勢一方だったスララは、それでもぴんぴんしている。

 華奢な腕も、

 細い脚も、

 可愛らしい顔のどこにも傷は負っていない。彼女は、闘技の開始時の状態そのものだった。サイクロプスの金属棒で撒き散らされた、土埃でさえ、彼女の体には付着していない。


 誰もが息を止めて見つめる中、


「――あ、わかった、あの変な膜だ、あれで体中を覆っているんだなっ!」


 夜津木の声に、皆がスララを凝視する。


 よく見れば、彼女の全身には半透明の膜が貼られていた。頭の先から足の先まで、まんべんなく、潤いのある薄い膜が覆っているのだ。

 そして皆はもう一つ気付いた。その薄い膜はスララの半透明の房の付け根から広がっており、それが拡散して体の隅々まで行き届かせている。


「わたしの種族は、半透明の部分を薄く伸ばすこともできるんだよ~」


 半透明の膜を揺らめかせて、スララはにこりと説明する。


「どんな打撃も、斬撃も、わたしには届かないの~。『リコリス』。えへへ、これがわたしの一族の、誇りだよ~」


 朗らかな表情で言うスララの頬に、高く舞い上がっていた小さな土の塊が降ってきた。

 するとスララの半透明の膜はわずかに波打ち、次の瞬間、彼女の肌は瑞々しいままの状態を維持させる。

 打撃を吸収し、斬撃を受け止め、汚れも跳ね除ける――潤いの鎧。それが、スララの武器。


「……なーんか、斬ってる途中でおかしいなとは思ったんだよなー」


 夜津木がコンバットナイフを弄びながら、独りごちる。


「女の子を斬ってるにしても、やけに柔らかいなーと。まあ特別ぷりぷりの肌ってことで、納得していたんだけど」

「夜津木」


 強張った顔を浮かべつつ、一つ目の巨人が促す。


「わかってるってー。サイクロプス、いくぞっ」


 殺人鬼と巨人が歯を剥き出しにして襲いかかる。空を裂いて夜津木の凶刃が、サイクロプスの金属棒が、無慈悲なまでに振り下ろされる。

 だが、スララには、かすり傷すら与えられない。

 夜津木のコンバットナイフがリコリスの膜に受け止められる。轟然と叩き下ろされたサイクロプスの金属棒は、わずかに半透明の膜をへこませるだけで、奥のスララには届かない。

 衝撃だけはリコリスでも殺しきれず、スララは吹き飛んだが、それだけだ。コンバットナイフの斬撃も金属棒の打撃も、吹き飛んで地面に当たった時の衝撃でも、彼女に傷は負わせられない。


 スララが、転がった後にぴょこんと跳び跳ねる。

 優雅にリコリスを振り、ふわりと笑顔を彼女は浮かべる。


「わたしにそんなもの、効かないよ~」

「小娘がっ! 調子に乗るなぁッ!」


 巨影が翻る。

 金属棒が高々と振り上げられる。

 こめかみに青筋を立たせたサイクロプスが、フィールドごと砕けよと叩き下ろす。

 巨大な蜘蛛の巣を思わせる亀裂が縦横無尽に発生する。地震と砂嵐すら発生させた巨人の一撃は、苛烈と呼ぶべきものであり、地形すら変えてしまう。

 飛散した岩の欠片が雨のように降り注ぐ。濛々と立ち込める粉塵が遥か天井付近にまで到達していった。


 しかし、それでも。


「痛くないよ~。どれだけやっても、わたしは平気、へっちゃら~」

「馬鹿な……こんな、馬鹿な……」


 愕然と表情を崩れさせ、サイクロプスは総身を震わせる。


「こんな小娘にかすり傷すら与えられないだと? 嘘だ、こんな……こんな……」


 夜津木の武器は、コンバットナイフ一本のみ。加えてサイクロプスの武具も、金属棒のみ。

 共に魔法は使えない。ゆえに、スララに傷を負わせる手段は存在しない。


「ハ――」


 絶対の不利の状況に、それでも夜津木は狂気に笑ってみせる。


「ハハハハハ!? すげえ、何だよお前! 斬っても斬っても殺せない? そんな相手は、お前が初めてだっ!」


 コンバットナイフを握り、奥歯まで剥き出しにし、体を仰け反らせて夜津木は興奮する。


「その半透明の鎧を斬り刻みたい! なんて夢のような不思議な鎧! なあ、なあサイクロプス、やっちまおうぜ、俺の刃とお前の金属棒で、あの女の子がどれだけ耐えられるか、試してやるんだ!」

「馬鹿が、考えなしに突っ込むな――」


 制止させようとするサイクロプスだが、夜津木は止まらない。高笑いしながらコンバットナイフを掲げ、スララへと肉薄するのみだ。

 爛々と瞳を輝かせる夜津木に対し、スララは応戦する。リコリスが伸びた。房の先端から半透明の膜を全身に行き渡らせたまま、二房の長さを増させ、太さも倍にし、真っ向から夜津木に向けて振り回す。

 伸縮自在にして弾力性ある半透明の鞭。うなり、くねり、不可思議な軌道を取って、夜津木の側頭部に殺到する。


「うおっ!?」


 興奮して刃を振り回すことに意識が回っていた夜津木は、先ほどのようにはリコリスをかわせない。スララは前進した。半透明の房が円状に、線状に、不思議な線をいくつも描き、怒涛のように夜津木へ直撃する。


「うおお、おおおおっ!?」


 体勢を崩され、強引にナイフを突き出した。スララには通じない。人体を容易く貫くはずの切っ先は、半透明の膜に阻まれ、返ってくるのはふわりとした反発感。


 ここだ――という間隙を見出して、スララは猛攻を加える。

 宙を踊りながらリコリスの鞭がいくつも振るわれた。夜津木の耳に、胸に、脚に、複雑な軌道を乗せながら雨あられのように鞭が命中する。

 ぐらり、と夜津木が大きく仰け反った。機を見逃さず、スララはリコリスの形状を変化した。鞭よりなお鋭く、細いシルエットを持つ――槍と化す。


「ええいっ!」


 気迫のこもった一撃が、まさに夜津木の胴体のど真ん中――そこへ矢のように直撃する。

 弾け飛ぶ夜津木、手放されるコンバットナイフ。

 一瞬の空白を置いて――。


 どさっ、という落下音と共に、殺人鬼は地面に伏した。


『ウオオオォっ!』


 盛大な歓声がコロシアムの監修席のあちこちで沸き起こる。完全な予想外、夜津木の敗北、スララの目の覚めるような猛攻に、数多の強者と魔物たちが、万雷の喝采を贈っていく。

 飛んでいたコンバットナイフが、ガチンと落下した。


 その様子を、離れた岩陰から彩斗は呆然と眺めていた。


「す、すごい……」


 あまりの光景に彩斗は呆然と呟く。ややあって、胸の底から歓喜が湧き、諸手を上げて破顔する。


「やったっ、すごいよ、スララっ!」


 歓声が一つに集まり、三つの文字と成す。スララ、スララと幾人の人々が、魔物たちが、熱烈なコールを呼び起こす。


「彩斗ーっ、やったよーっ」


 スララが彩斗へ向けて、大きく手を振る。


「わたし、夜津木を倒した~」


 満面の笑みで、

 まるでひまわりのような表情で、

 彼女は全身から喜びの感情を表していた。


 しかし――。

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