第48話  火山地帯



新月が訪れる日、リズたちはいつものように朝を迎えた。


スピネルの巣がある火山地帯はそこまで遠くないが、スピネルが巣を離れるのは夜の為、余裕を持ってここを出るらしい。




「夜に卵を採集するのか?眠気が襲ってきて無理そうだが……。」


「スピネルの巣から少し離れた場所で夜までキャンプする予定だ。」




キャンプする予定とは言っても、火山地帯はとても蒸し暑く、最悪命を落とす場所だ。


そんなところで悠長に眠っていられるのか?




「火山地帯で眠るの?すごく心配なんだけど……。」


「安心してくれ。ちゃんと対策はある。」




キキョウは棚から5人分の小さな便を出した。


瓶の中には何やら紅掛空色の液体が入っている。




色的には美しいのだが、これを飲めと言われたら……怪しいやばいクスリに見える。


多分察するに、これはリズたちが飲むものなのだろうが…




「もしかしてこれ飲むの?」




ソレイユがまさかそんなわけないだろう、と言いたげな顔でキキョウに問う。


しかしキキョウはきょとんとした顔でソレイユに現実を突きつける。




「火山地帯で命をおとした奴もいるらしいからね。でもこの薬さえ飲めば大丈夫!火山帯なんかお茶の子さいさい。」




リズたちはがっくりと項垂れたが、まだ見た目が毒々しい緑じゃないだけましなのかもしれない。


しかし、キキョウの説明によると今飲んでしまうと卵の回収の前に効果が切れてしまう恐れがある為、火山地帯に入る直前に飲むらしい。




「とにかく火山帯まで行こう。」




リズたちは火山地帯に向けて足を動かした。




ーーー



火山地帯手前。


リズたちは目の前の光景に目を白黒させて驚いた。



それというのも、目の前は赤褐色が一面に広がっているのに対し、後ろを向けば緑色が一面に広がっているのだ。





現実とは思えない光景ではあるが、そもそも魔法などというもの自体が不思議なものなのだ。


現実離れした風景があっても今更という感じだが、リズたちの世界では魔法は日常生活でも使われている為、さほど不思議に思わないのだろう。




「みんなこれを飲んで。」


「本当に飲むの?これ。」





不味そうだし、味が良かったとしてもあまり飲みたくない。




「何が入ってるんだ?原材料は?」


「あんま聞かないほうがいいと思うけど…。」




せめて飲んだ後に聞いたほうがいいと思うと言われた。


結局リズたちは原材料について聞かなかった。





ーーー




「この薬すごいね。」




リズが感動したように呟いた。


キキョウの渡した薬は体内の熱を一定に保つ薬だった。




入れる素材によって一定に保つ温度が変わってくるらしく、作るのが面倒らしい。




「この辺で一休みしよう。」




リズたちは火を起こし、あらかじめ持ってきておいた非常食で昼食をとることにした。


非常食は時を止める魔法がかかっている缶詰めだった。




缶詰めの中に入っていたのはシチューで、どちらかというと夕食などに食べそうなものだったが、火山帯に生物を持ってきても腐るだけなので仕方がない。




リズたちは黄昏時までの間、体を休めることにした。




ーーー




時刻は黄昏時になった。


リズたちはスピネルの巣がある場所まで歩いて行った。




ーーー




スピネルの巣である洞窟が見えて、卵の親ドラゴンからは死角になる場所でスピネルが巣から飛び立つのを待っていた。




「いつくらいに巣から出てくるの?」


「わからない…。」




顔をそらして気まずそうな声を出すキキョウ。


目を大きく見開き、リズは小声で焦りを口にした。




「えぇ!?本当に大丈夫なの?」


「スピネルだって自分の餌を採ってこないといけないから大丈夫。…のはず。」




チェスは思わずため息をついてこめかみを押さえたい気持ちになった。




ーーー




空が暗くなり、新月のため月も出てこない。


そろそろスピネルが卵を産んだ頃だろうか?




リズたちが眠さに争い、目をこすりながら耐えていたり、スピネルが出てくるところを今か今かと待っていると…




壮大な全身が赤褐色のドラゴンが洞窟から出てきた。


急に出てきたドラゴンにより、リズたちは眠気が吹っ飛んだ。




スピネルはその大きな翼を広げ




<バサバサ>




と、その場に音を響かせ空へと飛んで行った。


しばらくその姿を見ていたが、やがて目視できないほどまで遠くに行ってしまった。




「今のうちに卵を回収するぞ!」




スピネルが帰ってくるまでの正確な時間はわからないため、ここからは時間との勝負になった。


洞窟の中に入っていくと、体内の温度を一定に保つ薬でも暑いと感じるほど温度が高かった。




「あつ…。」


「なるべく早く回収して逃げるぞ。」




せっせと足を動かしていると、ひらけた場所にたどり着いた。


ひらけた場所の中央には藁に似た黄金色の植物が積み重なったものがあり、かすかに卵らしきものが見えた。




近づいていくと、卵は特に変わったところもなく、リズたちでもよく見たことがあるような食用の卵。を大きくしたものだった。




ーーー




卵が思っていたよりも大きかったため、一つもらうだけでも少しの時間を要した。




「よし、さっさと出るぞ。」




レオの声とともに戻ろうとした時




<バサバサ>




洞窟の入り口から、今リズたちがいる場所まで音が反響して聞こえてきた。


5人全員とも冷や汗を流した。




この場所には隠れる場所もなく、風の魔法で自分達を転送しようにも、風の属性を持っている人もいなく、持っていたとしても転移魔法の使い方がわからない。




どんどん足音が近ずいてくる。


リズは唾を飲み込み、これから起こるかもしれないことが穏便に終わることを願った。




スピネルが巣のある最深部まで帰ってきた。


スピネルはリズたちを見た後、ソレイユが自分の卵を持っていることに気がついた。




<グォォォォォォォ!!>




大きくて恐ろしい怒号が聞こえた後




「なぜ其方が私の卵を持っている!!」




スピネルの怒りを含んだ声が洞窟全体に広がった。

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