第38話  アルフ



「まぁ、なんとなく理由はわかるが……。」


「でもやってみなきゃわからないよ!試す前に諦めるだなんて…。」




チェスはラタムが行ったことの意味がわかり、納得しているようだが、リズは反対した。


試す前から無理だと決めつけるのはおかしいと思ったからだ。




「確かに試してみなければわからぬこともあるが、今回の場合そもそも試すことも危険、やめといたほうが身のためじゃ。」


「どうして?」




リズの意見にラタムが反対したため、リズは不思議に思って間を空けずに質問した。




「そもそもアルフは人間が好きではない、妾達も仲がいいわけではない。危害を加えられない可能性の方が低いのだぞ?汝等に怪我をされても困る。」




リズの疑問にスパッと答えたラタム。


リズはなんとも言えなくなり、苦い顔をしながらも声を出すのをやめた。




「明日には目がさめるじゃろうが、交渉の余地もないじゃろうな。」


「………。」




ラタムの厳しい言葉を聞いた後、今夜は寝ることにした。




ーーー




翌朝、リズは騒がしい声で目を覚ました。




「おい!今すぐこの縄を解け!」


「嫌に決まっとろう。後ちょっとで妾は怪我するところだったわ。」




怒るアルフに煽るラタム。


朝から不思議な光景を見たリズは反応に困った。




「グッ!お前の主君にお前の暴行を伝えるぞ!いいのか!?」


「キュランならわかってくれるに違いないじゃろうな。妾はなんの罪も無い童を守っただけじゃからな。」




綺麗な、そして黒い笑顔を向けたラタム。


しかし、アルフは悪びれることもなく口を開いた。




「どうせ人類は滅びるのだ。今子供の1人2人消えたところで結局は同じだろう?」




考え方の違いにリズたちは目を見開いた。


神様の使いともあろう者がこんなことを言うとは




「それは汝の主君が勝手に言いだしたことであろう。そもそも決定権は彼奴に無い。」


「決定権がないのはお前の主君も同じだろう。」




ラタムはアルフを落ち着けようとしているようだが、ラタムが口を開くごとにアルフが反撃してくる。




「今ここで喧嘩すんなパム!」


「おや?ついにパームが切れたか。」





先ほどまで黙っていたパームが遂に口を挟んだ。


ラタムはクスクスと笑うが、アルフはそうではなかった。




「誰かと思えば悲しみの神リエンの使いじゃないか。弱い神には弱い使いしか来ないんだなぁ。」




嘲笑しながらアルフはパームに言葉をぶつけた。


すると




「リエンは馬鹿にするなパム。今ここでお前と戦ってもいいんだパムよ?」




静かに怒りをあらわにした、普段のパームではないパームにリズたちは動揺した。


アルフはパームを煽るのをやめ、急に大人しくなった。




「で?俺を煽るために俺を捕まえたわけじゃないだろう?何の要件だ。」


「わ、私たちに協力して欲しいの!」




リズが勇気を振り絞り、アルフに向かって叫んだ。


アルフは少し考えるそぶりを見せ、おもむろに口を開き、リズたちに言葉を放った。




「してやってもいい。但し、条件がある。」




「え!?」




ダメもとで聞いてみたら、何と引き受けてやってもいいと言うではないか!


ラタムには交渉の余地もないと言われていたと言うのに、どうゆう風の吹き回しなのだろう?




「条件?まさか実行不可能な内容じゃないだろうな?」




レオが疑いの目でアルフを見ると、アルフは少し笑った後




「まさか!実行できないようなことを言う訳がないだろう。それともあれか?俺の言うことが信用出来ないのか?」


「信用出来てたらこんなことは言わない。」




挑発的に言葉を投げかけてくるアルフに、レオは苛立つこともなく対応した。


アルフは条件内容を話し始めた。




「貴様等がフェード達を説得する事が出来たらお前達の手伝いをしてやろうじゃないか。但し、ラタムとパームは手伝うな。あくまでもお前達4人だけの力で説得する事。」




「それはさすがに!」



パームが焦りを含んだ様子でアルフに食ってかかろうとしたが、ラタムに止められた。




「わかった。やってやろうじゃないか。」




チェスが了承し、リズ達はフェードの暮らす街へ進んでいった。




ーーー




「大丈夫かな?正直心配だよ。」


「フェード達のことはあまり知らない。そもそも彼らが人間に友好的かもわからないからな、警戒しといたほうがいいだろう。」




リズが不安を口にすると、チェスが自分の考えを話した。


レオも何も知らないようで、チェスが何か知ってるかと聞くと、首を横に振った。




フェードの街を探しながら歩いている間、リズ達は置いてきたオスマンのことや、今戦線がどうなっているのか、活発に動き出すのはいつぐらいかについて議論していた。




ーーー




リズ達が去った後、残されたパームとラタムはアルフと話していた。


話していた、と言っても、平穏で何気ない会話をしていたわけではなく、殺伐とした雰囲気が辺りを包んでいた。




「リズ達だけでフェードを説得に行くのはさすがに無理があるパム!」




パームは大きな声でアルフに訴えた。


パームが何故そこまで焦っているのかと言うと




フェード達は昔、人間に住処を追われ、新しく森の中で暮らせばそこからも追い出されると言う悲惨な過去を送ってきたため、人間に好印象を抱いていない。




昔の人間がしたことだし、全員が全員悪い人間ではないとわかっていて割り切っている者もいるが、今でも人類のことを恨んでいる者が大多数を占めているので、リズ達だけで行くのはかなりのリスクを背負うことになる。




「必ずしも無理な条件じゃないだろ?あいつ等が何とか説得するかもしれないんだぞ?信じないのか?」


「パーム、今は童等を信じて待つのみじゃ。」




「リズ………。」




フェード説得に向かったリズ達が無事であることを祈りながら、パームはラタムと共に他の神獣の居場所を探すことにした。

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