第29話  母国へ帰る

それから5日が経った。


サイネリアから森の入り口付近の様子を聞くと、もう大丈夫とのこと。




「今まで泊めてくれてありがとう。おかげでこのあたりに来た兵士たちに見つからずに済んだよ。」


「感謝されるほどのことをした覚えは無いよ。僕はただ僕の望む未来の為にやっただけだからね。」




沢山リズたちを助けてくれたのに、あくまでも自分のしたいことをしただけだと言うサイネリア。




「この先に待ち受ける壁はきっと今よりも辛いかもしれないが、折れずに自分をしっかり持つといい。」


「じゃあもう行くね。」




リズはサイネリアにお別れの言葉を送り、チェスたちと共に森を抜けて行った。



ーーー




「これから先は隠密行動が多く多くなるだろうな。」


「できれば変装とかをするといいのかもしれないけど…。」




レオの言葉にソレイユが零した言葉はリズも思ったことだ。



変装と聞くと、アニメとかでしそうなイメージだが、まさか自分がすることになるとは…。


リズがワクワクしているのがわかったのか、チェスが言った。




「変装って言ったって、どうしようもないだろう。髪の毛を染めようにも染料がないし、服を変えようにも金がない。」


「う゛っ。」




変装しようにもできないようだ。


できない理由を2つ、簡潔にまとめられてしまったら反論のしようもない。




「パム。それならパムに任せろ!今はサイネリアからもらったコートのおかげで服装もちょっと違うし、そもそもオルムの王様から新しい服をもらって今着ているパムだろ!出てきた頃の服とは違うパム!」




そういえばそうだ。


実はオルムの王から服をもらっていた。


ついでにシャワーも浴びていた。




「確かに服装は変わったけど…顔と髪の色でバレてしまうんじゃないかな?」


「そこはパムに任せればいいパム!パムは物知りだから髪の色くらい染めることができるパム!ついてきて!」




どうやらパームは元気が有り余っているらしい。


リズたちはパームの勢いにちょっと苦労してそうだ。




「パム!パムに不可能はあまりない!」




ーーー




「なにこれ?」


「テトの実だな。確か染色用に使われる実で、色は紫だが…染料にするにはちゃんとした作業が必要だぞ?まさかとは思うが…。」




リズの疑問にチェスが答える。


チェスは自分の知っている限りの情報を出した後、不安そうな目でパームを見ると




「染料にして髪に塗り込めば一発変身パム!」


「おいおいまじか……。」




パームの答えにレオが苦い顔をする。



結局染料を作ることになり、なんとかできた。



これは余談だが、本来テトの実は1日間かけて、約45度のお湯に浸してから色をとるそうだが…


本来はやらない方がいいことをしてなんとか一時間で染料が完成した。



そもそもお湯を入れるための鍋はどうしたかって?


サイネリアの時と同じように何故かパームが持っていた。



リズは見たことのある風景に突っ込みたくもなったが、自分たちより魔法と一緒にいた時間が長いため、なんでもありなんだろうと、無理やり自分に教え込んだ。



その後、リズたちは藤紫色の染料によって髪の毛の色を変え、自分たちの母国に戻って行った。




髪の色が変わるだけで別人みたい!でもちょっと違和感がすごいわ……。」


「ソレイユは割とこの中では変化が少ない方だと思うけど…僕とかレオくんとかは結構変わったからね。」



藤の花の色、藤紫に染められた髪の毛は、普段見ることのできない色なので思わず目がパチクリした。




元々の髪の色は、リズは空色、ソレイユは少し茶色がかった黒色、オスマンは錆御納戸色、レオは黄土色、チェスは元々藤紫色だったので、パームが作ってくれた紺碧色の染料をつけた。




「いつ紺碧色の染料なんて作ったんだ?」


「君たちが藤紫の染料を作ってる間にパムの魔法で作ったんだパム!」




紺碧色の染料は失敗したようには見えない。




リズは思った。


最初からパームがやってくれれば失敗せずに済んだのに!




なぜパームは私たちに片方の染料づくりを任せたのか。




「最初から君がやればよかったんじゃないのか?」




「パムはレオみたいに体力があるわけじゃないパム。魔法ってすごく体力を使うんだぞ!この場にない素材を魔法で作ったりしたから1個作るだけでヘトヘトパム!」




魔法の中でも複雑さなどが違い、複雑なものほど体力を使うため、体力のないものは1つ複雑な魔法を使うだけで立てなくなってしまうこともあるらしい。




どうやらパームは創造魔法を使ったらしい。




創造魔法で染料を出せばいいじゃないかって?


創造魔法はそこまで便利ではない、そもそも作りたいものの性質や、素材を知らなければ作り出すことができないのだ。




大きさによっても体力を多く使うため、滅多なことでは使わない。


そもそも1部のオプティルトしか持っていないらしいが。




「パーム創造魔法なんて持ってたの!?」


「パム…そんなことより抱っこしてくれパム〜。」




どこか拗ねた子供みたいに見えるパームは、リズの方までトコトコ歩いてきた。


リズはつい抱き上げて、あやすようにしていた。




「ありがとねパーム。おかげで国に入りやすくなったよ。パームのおかげ。」


「パム〜みんなの役に立ててよかったパム〜。」




頭を撫でると嬉しそうにそう言うパーム。




「まぁ、髪の毛の色も変わったし、多分すぐにバレるってことはないだろう。」


「国に帰る、お母さんに会えるかなぁ…。」




「リズ、エレンさんに会いたいのはわかるが、流石に顔をあわせるのはまずい。」




せっかく親に会えるかと思ったらチェスに止められた。


なぜ止められるのかわからなかった。




リズがわからなくなるのもわかる。




エレンはとても穏やかで、そもそもリズが幸せな道を歩める方をサポートしてくれるような人だ。


だからこそ、リズが戦争に駆り出されることはあってはならないと、そうならないようにしてくれた。




ホームシックにでもなったのだろうか、胸にぽっかり穴が空いたようだ。

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