第25話  アドバイス



「は?」



想像することもないようなことを言われ、呆然とした。



それもそうだろう。そもそも世界が無に返される。簡単に言うと世界滅亡のことを考える機会なんて、よっぽど何か絶望するようなことがない限りありえないだろう。



「と言っても、君達のような純粋な心を持った子達がいてくれたおかげでその計画話しになったんだがね。今の所は。」


「今の所って…。」



事はとても重大な事だったらしい。




読者の皆様はこれが運命などと言う不確定要素なのだと思うかもしれないが、仮に運命というものがあったとするなら、彼らには重すぎる運命だろう。




「正直言って僕はこの計画には反対だが…悲劇が起こってからは取り返しがつかなくなってしまうからね。どちらかを選ぶしかなかったんだよ。」



寂しそうな、悲しそうな声色でサイネリアは言った。




リズは、神様ならなんでもできるのでは?と、考えていたが…


神様とて完璧ではないだろう。


完璧だったら今回のようなことは起こらないよう、未然に防ぐ事が出来たであろう。




「…僕たちに力を貸してくれませんか?」



オスマンがサイネリアに言った。



「貸すことはできるにはできるが……僕一人の力だけでは力が足りない。君達がこれから行く天界の者達への協力申請の手伝いなら僕一人だけでも足りるさ。」


「つまり使い魔を全員集めろと?」



レオがサイネリアに訪ねた。



「いや、別に強制ではない。ただ本当に世界を変えたいなら僕たちの力があったほうが幾分かやりやすくなる。」


「方法を教えてください!」



リズがサイネリアに聞く。



サイネリアは説明してくれた。



「8人の神様はそれぞれ使い魔を連れているんだ。僕がその一人。あと7人の使い魔を説得する必要がある。」



8人の神様とは、愛、怒り、嫌悪、喜び、悲しみ、驚き、恐怖、信頼、を司っている。



「他の7人の場所を教えてあげたいんだが…あいにく一人しか僕は知らないんだ。仲の悪いものもいるからね。そしてーーー」



その夜。サイネリアは私たちに食事と寝床を提供してくれた。


季節は夏の終わり、これから秋になるため少し肌寒さがあったが、サイネリアが上着をくれた。


これはどうしたのか?と、聞いたら



『森のオプティルト達が君達を心配して、上着の素材となるものを採って来てくれたんだ。それを僕の魔法で君達が着れるようにしたのさ。』



とのこと。



リズは寝るときに考え事をしていた。



『そして僕が知っているのは信頼の神の使い魔である猫又。名前はラタム。彼女は僕と同じで計画反対派の一人だったんだ。きっと快く君達に力を貸してくれると思う。』



サイネリアが言うに



『彼女は今天界にいるらしいが、彼女は変装が得意でいたずら好きだらしい。


探すのには一苦労するかもしれないが、彼女が変装するときは必ず髪が長く赤色だからすぐに見つかると思う。メリアに赤髪はいないからね。』



だそうだ。



あと6日間はここに止まらなければならない。


この機会に仲直りしようと、リズは心に刻んだ。




朝、リズは珍しく早く起きた。


あたりはまだ薄暗く、冷たい風があたりを覆い尽くしていた。



なんだか胸がざわつく…



今の気持ちを考えないようにしようと思い、リズは近くの湖まで歩いて行った。



「ふぅ〜。」



顔を洗った、さっぱりした。


冷えた空気のおかげで頭もスッキリしていた。



「あぁ、起きていたんだね。」


「うわぁ!?」



湖の中から急に出て来たサイネリアに話しかけられ、リズは咄嗟に後ろへ下がった。



「おや?驚かせてしまったかい?」


「そりゃまぁ…急に目の前にいなかった人から話しかけられたら…。」



誰だって驚くだろうと、リズは心の中で言った。



「…心がざわついているね。」


「へ?」



急に現在の心境を当てられ、心臓がドクンと脈打った気がした。



「どうにも相手と仲直りすることができない…そうだろ?」


「はい…実はーー」



リズは自分の悩みを話した。



自分はチェスと喧嘩をしてしまい、お互いの考えの違いや相手に期待してしまったからか仲が拗れてしまったこと。



一度話し合ったが意見が真反対だったのと、自分の頭が冷静な状態ではなかったためチェスの考えを一切聞かなかったこと。



ソレイユのおかげで冷静になれたので、チェスの意見も取り入れて妥協案を出そうと思ったが、チェスが自分を避けてくるようになってしまいまともに話すらできなくなってしまったこと。



「僕にも昔、同じことがあった。」


「え?あなたにもおんなじことが?」


「あぁ、僕たちだって喧嘩くらいするさ。」


「どうやって仲直りした?」



リズは何かアドバイスが欲しかった。


昔から中の良かった幼馴染であるチェスと、また元の関係に戻りたかった。



「まず一緒に話がしたいって彼に言ったなぁ…。彼は最初こそ渋々と言った感じだったが、しっかりと僕の気持ちや考えを素直に彼に打ち明けたんだ。」


「素直に?」


「あぁ。しっかりと僕の考えを伝えたら、彼も僕に伝えてくれたんだ。あのとき自分はこう思っていたとか、こう考えていたってことをね。」



リズは少し考えた。




素直に気持ちを伝える……




「相手のためにもいち早く君の気持ちを伝えた方がいい。何時迄も後回しにしていると取り返しのつかないことになる。そうなったら後悔してもしきれない気持ちになるかもしれない…。」




相手のため……




「ありがとう、私頑張ってみる。」




サイネリアからのアドバイスを受け、リズはサイネリアにお礼を言って走り去って行ってしまった。




『後悔先に立たず』という言葉が世の中にはあります。


リズはその言葉を知っているのかはわかりませんが、後悔することを恐れて先延ばしにすることは挑戦することができなくなってしまうことです。




サイネリアはリズに『挑戦することなどを恐れて後悔する』ということになって欲しくなかったのでしょう。

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