ひとはひとりじゃ生きられないって本当?

ちびまるフォイ

ひとをひとりじゃ行かせない

「ちょっとトイレ行ってくるね」

「待って。私も行く」

「う、うん……」


トイレを済ませると、ふと気になっていたことをぶつけた。


「あのさ、別に無理して付いてこなくていいんだよ?」


「無理なんかしてないよ? どうして?」


「トイレくらいひとりで行けるっていうか……」


「ひとりよりも、みんなでいるほうが楽しいじゃない」


自分が気になっていることはわかってもらえなかった。

わざと時間をずらし、ひとりで学校を出た。


「よしっ。誰もいない、と」


友達が誰もついて来ていないことを確認する。

別に友達が嫌というわけではない。


いつもずっと一緒にいるのでたまには一人になりたい時がある、というだけ。


「ねぇ、あなたひとり?」


「え!?」


顔を上げると上級生が立っていた。


「ひとりなんて寂しいよ。私と一緒に帰ろう」

「いや、あの……」


待ち望んでいた静寂はあっという間に流されてしまった。


「ひとりで帰るなんて可愛そうに。友達とケンカしたの?」


「いやそういうわけでは……」


「じゃあどうして? ひとりでいるなんておかしいじゃない」


「あーー! ちょっと買い物忘れてましたーー!!」


強引に先輩を振り切って近くのスーパーに飛び込んだ。

どうしてひとりにしてくれないのか。


「はぁ……用はとくにないけど、なにか買って証拠にいしよう……」


「おや、お嬢さん。ひとりで買い物かい?」


カートを押してやってきたのは知らないおばあちゃん。


「ひとりで買い物なんて寂しいねぇ。

 ほら、おばあちゃんが一緒に買い物に付き合ってあげるよ」


「あ、いや結構です。私ひとりで色々選びたいんで」


「無理して強がることはないよ。人はみんな助け合って生きていくものさ」


「し、失礼しますっ」


自動ドアにぶつかりながら店を出たときには息も絶え絶えになっていた。


「もうなんなのよ……」


自分ひとりで少しほっとする時間がほしい。

それだけなのに。


「いらっしゃいませ。1名様ですか?

 カウンター席ならすぐにご案内できます」


「お願いします。喉乾いちゃって……」


店に入って水を飲み干すと、カウンターの向こう側からグラスがスライドしてきた。


「えっ……」


「あちらのお客様からです」


「ベイベー☆ ひとりでカフェで水を飲むなんてワケありだね。

 だがそんなミステリアスな女、嫌いじゃないぜ。話してみな、オレの胸筋に」


「もうひとりにしてください!!」


店を出てボート乗り場に向かう。


「お、お嬢ちゃんがひとりでこのボートを漕いでいくのかい!?」


「はい!! もう誰も来てほしくないです!」


「そんなの無茶だ! ガイドを用意しよう。無人島までは距離もあるぞ」


「いいんです!」


ボートを強引に漕ぎ出して陸地を離れ、絶海の孤島へ。

到着すると無人島とは名ばかりで豪華な館が立っていた。


「そんな……ここでもひとりになれないの……?」


「無人島に流れ着いてしまった人がひとりだと寂しくてかわいそうだからね。

 今ではたくさんの名探偵さんがこぞって訪れる有名なスポットになってるよ」


館の店主はにこやかに答える。

すでに無人島の前には「元」の文字がついていたようだ。


「お嬢さんはこんな遠くまでひとりで来たのかい?

 それはさぞ寂しかったろう、辛かったろう。さぁ館に上がって。

 メイドがつきっきりで君のお世話をしてくれるよ」


「もうほっておいてください!!」


店主の差し出したてを振りほどいて館を離れる。

断崖のへりに立つと打ち寄せる波しぶきがほおにかかる。


「や、やめろ! 早まるんじゃない!」


「どうして……どうしてみんな私をひとりにしてくれないんですか!」


「人は一人じゃ生きられないんだよ!

 人を拒絶した人生に幸せは訪れない!」


「私はひとりで生きていきたいの! 邪魔をしないで!」


「ひとりで生きてゆく人生なんて、ひどく寂しくて、単調で、つまらない!

 人に囲まれて、みんなから見てもらえている人生のほうが豊かに決まっているだろう!」


「もういい! 誰も私をひとりにしてくれないなら、こんな人生いらない!!」






崖下の大きな岩には糸の切れた操り人形みたいなポーズで女が死んでいた。

やがて高い波が岩にあたって死体をどこかへ流していった。


店主は申し訳無さそうに電話をかけた。


「すみません、やっぱり死んじゃいました……」


『あれほど死体クローンから目を離すなと言っただろう!

 あいつら放っておけば、本体の人生をたどろうとすると知ってただろ!』


店主は額ににじむ脂汗をハンカチで拭いながらつぶやいた。


「もうさっさと殺人を認めれば楽なのに……」


『なんかいったか!? ああ!?』


「いえ何も……次の死体クローン監視はじめますね……」

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