第76話 歪み

セバスチャンの午後はイルメス馬具商会と坂路コースの往復になった


イルメス馬具商会では王室が購入した馬に三人の専属厩務員を付けて世話を行っている。セバスチャンは先日、書簡に能力確認試験当日は試験一時間前には引き運動を行って欲しいと書いておりエイダンは厩務員たちに指示を行い昼前には一頭ずつ運動を行う。おかげで商会から王城に行くまでの区間を早足で駆ける事が出来て時間の短縮になった


「さてと馬達も坂路を走るのは初めてだろうから全力とはいかないがある程度の力を見せてもらわないといけないのでソコソコ追わないとね」


王城に入り坂路コースに入る前に第三厩舎の放牧場周りを一周してウォーミングアップが済んでから坂路を走り出す


「この鹿毛は力強いな。初めて走るだろうにプリンセスリンと同じ位のスピードで走っているよね」

鹿毛の牡馬は力強く走り、タイムもプリンセスリンが本調子に近い時に出したタイムと変わらないので高い評価になる。セバスチャンはタイム測定に連れて来ていたミシェルに評価を伝えメモをさせる


「ミシェル、厩舎の増築が済んだら第三厩舎に入るからそれまで待ってくれ。楽しみは取っておく物だよ」


「では楽しみにしていますので来たらライアンより先に乗せて下さいセバスチャン様」


坂路コースを走り終えた後は並足の速度で帰りイルメス馬具商会の厩務員と交代してセバスチャンは次の馬に跨る


「この鹿毛馬は良い走りをしていたが少しバランスが悪い様なので蹄を確認して欲しい。それと引き運動が終わったら少しでも冷たい水で足元を冷やして欲しい。するとしないでは馬の脚の怪我が少なくなるのから。これは王城でも行っており実証されている」


「「「畏まりましたセバスチャン様」」」


セバスチャンは二頭目の栗毛の雌馬を早足で駆けさせる


栗毛の雌馬はスピードタイプで気性も激しいようで坂路コースに入ると猛烈なスピードで駆けて行くが残り二百メートル位でバテてしまう。坂路から降りるとミシェルに短距離に向くタイプの馬であると伝えながら馬に水を与え少し休憩してから商会に戻る


商会の厩務員達に「ここの栗毛は気性が荒くないか?神経質そうなのだが」とセバスチャンは伝えると厩務員から「そうです。この馬と芦毛の馬は担当を決めて対応しています。三人の中で一番相性の良い者が担当しています」


聞いて納得したセバスチャンは「猛烈な勢いで走ったのでしっかり引き運動を行って欲しい。それとバテて王城で水をかなり飲ませているから」と伝え三頭目の鹿毛雌馬に跨り王城に向かう


三頭目である鹿毛の雌馬は可もなく不可もないタイプで雌馬にしては大人しく騎手の合図に素直に答える優等生タイプだ。坂路コースに入り追い出すと勢い良く走るが先程の二頭と比べるのものはないがサーバインやグラムよりは全然早い


「ミシェル、今日はこの馬で終わりだ。この馬は普通だよ。うちの厩舎にいる馬よりは早いけどプリンセスリンには敵わない位のレベルだな」


感想を伝えるとセバスチャンはイルメス馬具商会に戻り此方にも感想を伝え自分の馬に乗り換え引き上げる際に「明日は四頭走らせますので宜しく頼みます」と伝え王城に戻る



第三厩舎に戻るとミシェルは調教作業に就いておりメモは執務室の机の上に伏せて置いていた。それをセバスチャンは自身の意見を書き込み纏める。全頭の能力試験が済んでからレポートにする


その後セバスチャンはロワイヤルを執務室に呼び厩舎長の行う業務を簡潔丁寧に教えて行く。ロワイヤルも聞きたい事が沢山あったようでその都度設問に対応して答え

納得が行くまで付き合う


夜の飼い葉付けの時間になりロワイヤルが業務に戻る時に皆に先に帰る事を伝え王城を後にする




屋敷に戻るとダイジンがホールに立っておりセバスチャンが帰るのを待っていたようだ。ダイジンが「セバスチャン様お帰りなさいませ」と挨拶をしてきたのでセバスチャンは屋敷の進捗状況の報告は出来るか?」と聞くと「大丈夫です」と返事があったのでセバスチャンの執務室に向かう



執務室に入り椅子にかけるとダイジンは進捗状況の報告を行う。そして満を持す様にセバスチャンに話し出す


「セバスチャン様、私は無能ですか?何故ジャスミンを雇われたのですか?あいつを見ているだけでイライラします!ジャスミンがいるなら私はセバスチャン様にお暇を頂きたいです!」


ダイジンは歪んでいた。その歪みを作ったのはセバスチャンだった。ジャスミンの雇用の真意を話しておけばこんな事にならなかった筈だったとセバスチャンは苦悩しながらダイジンと向き合っている。皆を信用していると言いながらセバスチャンは信用していなかったのだと・・・・・





「ダイジン、お互いに本音で話し合おう。私もお前に話していない事があるからな。まずはそこから話そう」





短い時間でのやり取りだがその間は途方もなく長く感じられた


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