第74話 焦り

ターシャが部屋に来て紅茶を入れる。「セバスチャン様この紅茶は領地で新しく栽培した茶葉のファーストフラッシュです。旦那様がセバスチャン様に飲ませろなんて乱暴な言い方されていましたが評価して欲しいと思います」



ターシャの手慣れた手つきでファーストフラッシュは部屋中に香りを漂わせ少し心が安らぐ気がする。そして通常の紅茶より熱い湯で入れられたファーストフラッシュが机に運ばれてセバスチャンはひと口飲む



「流石ターシャ、私の好みを把握しているね。改めて席に座って」



ターシャも自分のティーカップにファーストフラッシュを注ぐと席に着き話しを聞く体制になる



「まずはターシャ、最近の屋敷でのセバスチャン邸移動組の様子を聞きたい。多少は把握しているが重複しても構わないので」


「回りくどいのでダイジンの話から行きます。ご存じだと思いますがダイジンはかなり焦っておりジャスミンを敵視して目の敵にしています。そして失敗して報告を行ったフットマン達に激しい叱責に心無い言葉を投げかけて自分の不満をぶつけている状態です。現場を目撃して二度ダイジンに注意を行い次に同様の行為を発見した時は重たい処分を科せると伝えています。同様にフットマン達の心のケアも行っていますがキツい言葉で注意を受ける事はあってもフォローを忘れなかった先輩が別人になったようにいつも険しい表情で周囲の険悪を巻き散らかしていると被害に遭っているのに心配をしております。なのでジャスミンを除くセバスチャン邸移動組は移動を拒否したいと解雇を覚悟に申し出た者もいます。私からお話出来る現状は以上です」



セバスチャンの予想以上に状況が悪い。当然、父上、母上の耳にも入っているはずだ。ジャスミンは王妃宮で派閥争い等に巻き込まれているので使用人達との付き合い方は分かっている。それは先日、面談した時に分かっていた事でダイジンはまだ精神的に子供だと言う事だ。ダイジンはルクレール家で使用人として一から教えて領地でモトコの講義を受け、ルイスの補佐をしていたのに出世欲なのか焦りなのかは本人に聞かないと分からないがジャスミンが来てから性格が変わっている。特にジャスミンに対する嫉妬は表現出来ない物がある。対するジャスミンは与えられた仕事をこなし新しい職場での人間関係を構築している様に見える。けして派閥を作るとかでなく普通に同僚としての付き合いをしているだけである



セバスチャンはターシャに「最悪、降格や移動を考えないと行けないのかなターシャ。それは私の管理不足にも繋がるので避けたい。でも管理不足なのは言われても仕方ない。皆にまかせっきりだからな。本当に最低限、行動を見ているだけなので何日かしたら父上に呼び出される事は間違いないよ。それと聞きたいのだけどターシャ、ジャスミンとの距離感はどうなのかな?共に王城侍女として仕え母上の結婚と共にルクレールに仕える事になったターシャ。そして自らの結婚を機に王妃宮筆頭侍女の職を辞してうちに転職してきたジャスミン。昔から繋がりがある二人が居る事でダイジンの不安を膨らませたとは考えられないか?」



「それはありますね。最初の何日かルクレール家のしきたりや旦那様達の癖や好みを教えていた頃から少しずつ疑心暗鬼というか何故、教育係になれないのかと言う様な雰囲気が出ていましたが終われば治まると思っていたのですがジャスミンと一緒に居ないのですが見える物が全て気に入らない様になったみたいです」



「なるほどな。分かったよターシャ、まずはダイジンが必要な人物だと私から直接話す事にする。そこでダイジンの心の闇を聞いて晴らしてあげたい。それでも駄目な時は父上に言われる前に私からダイジンの件を話すよ。明日にでも時間を作り話すから少しでも刺激を与えない様にダイジンは明日一日、セバスチャン邸の現場に向かい進捗状況の確認と家具等の必要備品の計上を行う様に私から伝えて動かすから何時ものダイジンの仕事はターシャ悪いが頼むね」



「畏まりましたセバスチャン様。ではジョエルに軽食の準備を伝えておかないと行けないですね」


「だね。では頼んでおくよターシャ」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る