第19話-縁故-

 私は皆が寝静まった頃、再びDr.ラヴァの元へ向かっていた。最初に通された部屋の扉をノックする。暫くして扉がゆっくりと開く。

「やあジャック。何か用かい?」

「遅くに済まないね。実はひとつ頼みごとをしたいんだ」

「ほう? まあ、取り敢えず入るといい」

「ありがとう」

 彼は私を部屋に招き入れ、椅子に腰を掛けた。私も向かいの椅子に腰を下ろす。

「それで、何だい? 頼みというのは」

「私は君達がシラクチと呼ぶあのセルを殺したいんだ」

「それはまた何故なんだ? 我々が挑みさえしなければ無害だよ」

「ああ、それに君達の研究対象であることも承知の上なんだけどね。それでも奴だけは見過ごす訳にはいかないんだ。あなたなら察してはいるだろうけど、因縁の相手なんだよ。私やキングにとってはね」

「やはりそうか」

「奴にあの傷をつけたのは私達の師だ。奴が生きている以上、あの人はもう……」

「とは言え、戦闘に精通している人間じゃない私にも分かることだが、今の状況でシラクチを倒すのは、いささか無謀だと思うがね」

「その通りだ。だから、協力して欲しい」

「協力?」

「態勢を整えて再度討伐に来たいと考えているんだ」

「つまり、それまでシラクチを見張っていればいい訳だな?」

「そんな所だね。勿論、タダでとは言わない。状態までは保証できないけど、討伐後の奴の身体はあなたに引き渡す」

「成る程……悪い話じゃない」

「それと、黒樹のスキャンデータも付けよう。どうだい?」

「ふむ、交渉成立だ」

「仲間の事といい、恩に着るよ」

「構わんさ。これも何かの縁だ」

「明日にはここを立つよ。世話になったね」

「そうか。なら手土産を持って行くといい」

「手土産?」

「研究材料にと奴らの死骸を幾つか保管してあるんだ。もう調査もし終わっているから、私にとっては無用の長物だ」

「そういう事ならありがたく頂戴するよ。あと、これを持っていて欲しいんだ」

 私は彼に機体に積んであった予備の通信機を手渡した。

「これで連絡が取れる。何かと必要が出て来るだろうし渡しておくよ」

「通信機か。君達とは長い付き合いになりそうだ」

「私も同感だよ。いい出会いだと思ってる。えっとそれで使い方だけど……」

 彼に通信機の使い方や仕組みを伝え、私は部屋を後にした。そしてキングが目を覚ましたのは、翌日の日が高く昇った頃だった。

「兄貴!」

 ずっと傍についていたレンジの声と共にキングはベッドから身を起こした。

「大丈夫かい?」

「迷惑かけたな、皆。もう大丈夫だ。動ける」

 そう言うとキングは顔を少し歪めながら、立ち上がる。

「まだ無理はしない方が……」

「そうよ、治った訳じゃ無いんだから」

「こんなもんじゃ死にゃしねぇよ」

「何はともあれキングも目覚めたことだし、ナラクに戻ろうか」

「あいつはどうすんだ……」

「今の状態じゃどうにもだよ。またリベンジしに来ればいいさ」

「そうか……そう、だな」

「そうっすよ! その頃には俺らも今より強くなってるっすよ!」

「ふん、どうだかな」

「ちょ、酷いっすよ!」

「はは、私は期待しておくよ。ああ、そうだ。ドクターが手土産をくれるそうだから見に行ってみようか」

「手土産、ですか?」

「なんなのそれ」

「取り敢えず、撤収準備をして外に出ようか」

 私達は荷を持ち、間借りした部屋を出た。廃校舎から校庭に出ると、ドクターとハイロの姿があった。

「やあ、お目覚めかキング。寝覚めはどうだー?」

「見ての通り絶好調だ」

「それは何よりだねー」

 相変わらず間の抜けた様に、ハイロが冗談交じりにキングを気遣っている。

「もう行くんだな」

「うん。改めて世話になったよ。それで、例の物は?」

「ああ、こっちだよ」

 私達はドクターに案内され、校庭に建つ倉庫の様な建物に入った。中に入るとそこがかつての体育館だった事が分かる。しかし、そんな事よりも驚くべき光景が眼前に広がっていた。そこにあったのは無数のセルの死骸で築かれた黒い山だった。

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