第6話-抗う術-
けたたましく目覚ましが鳴る。私はのっそりと手を伸ばし音を止めた。
「んん……痛っ」
上体を起こそうとすると体のあちこちが痛い。筋肉痛なのか打ち身なのか痣なのか、きっと全部だろう。昨日の組手の過酷さを痛みが物語っている。でも成長の証の様なものだと思うと悪い気はしない。ベットから這い出て、昨日の帰り際に貰った地上探索部隊の隊服に着替える頃にはある程度身体が慣れたのか十分動けそうな感じがした。
取り敢えず朝食を摂ろう。お腹ペコペコだ。ネストを出て食堂に入るとゼロの姿があった。
「おはよう、ボロボロね。大丈夫?」
「あ、おはよう。はは、ボロボロなのはお互い様だろ?」
「それもそうね」
絆創膏やら湿布やらが貼られた互いの顔をみて私達は顔が綻んだ。
「よう!二人とも!」
間の抜けた騒がしい挨拶に振り向くとレンジが手を挙げていた。
「おはようレンジ」
「おう。それにしてもお前ら酷い面だな。はははっ」
「あんたは元々酷い面でしょ」
「はあ?お前とは決着をつけないといけねぇな」
「まあまあ、二人とも。取り敢えず何か食べよう」
「何だいあんたら朝から元気だね」
軽口を言い合う私達に気が付いたのか、リズさんが厨房から顔を覗かせた。
「それにしてもキングから聞いてたけど、こっ酷く可愛がられたもんだね」
「はい、それはもう」
「やっぱキングの兄貴は強いっす。全然歯が立たなかったっすよ」
「そりゃそうさ。場数も経験も段違いなんだから。要は年季が違うんだよ」
「それもそうっすね」
「でも指摘は的確だったし、私達も成長できると思います」
「ああ、そうだね。あいつら馬鹿だけど根は仲間思いの大馬鹿だからね。悪い奴らじゃないよ。さて、飯食って行きな!」
朝食を済ませた私達は作戦室に向かった。
「やあ、おはよう。三人とも」
「昨日は良く眠れただろう、お前ら」
作戦室には既にジャックさんとキングさんが居た。
「おはようございます」
「爆睡だったっすよ」
「お陰様でね」
「ははは、キングから聞いたよ。熱心だね君たちは。心強いよ」
「早速だが本題だ。本来なら今日お前達の適正を見る予定だったが、昨日ので大体分かった。ジャックとも相談した結果、今から本格的に訓練を開始する。今から十日間、みっちり個別にお前達に基礎を叩き込む。奴らと戦う基礎をな」
個別?ジャックさんとキングさんで二人。もう一人は誰が見るんだろう。
「あの。個別って言うなら教官が一人足りないわよね」
「そういや、そうだな」
「他にもいらっしゃるんですか?」
「それなんだけどね。今からお願いに行こう」
「レンジ、お前は俺が見る。ゼロはジャックだ。そしてハング、お前にお誂え向きな教官が居るんだよ」
「さ、付いておいで」
そう言うと二人は私達を連れて作戦室を後にした。そして向かったのは。
「え?ここ食堂っすよ?」
「まさか……」
「リズさんなの?」
「ご免くださーい」
「リズは居るか」
「なんだい。あんたらぞろぞろと。飯食いに来た訳じゃなそうだね」
「ちょっとばかり私達のお願いを聞いてくれないかな?」
「嫌な予感しかしない。まあ良い、言ってみな」
「十日間でハングに基礎を叩き込んでやってくれ」
リズさんは大きな溜息をついた。
「あのねぇ。あたしはただの食堂の亭主だよ」
「今は、だろ?」
「リズ先輩、私からもお願いするよ」
ジャックさんの言葉に私達は目を見合わせた。
「先輩ってどうゆうこと?」
「ああ、あのね。リズさんは元々、私達と同じ地上探索の実務部隊にいたんだよ。その当時の先輩って訳さ」
「マジすか?リズの姉さんすげぇ!」
「あ、姉さん?」
「本当なんですか?リズさん」
「昔の話だよ。もう何年も前だ。ブランクもあるんだから無茶な話さね」
「あんたがそう簡単に腐るかよ」
「リズさん。未だに訓練施設にちょくちょく来てるの私、知ってるんですよ?」
「……ああ、もう。分かったよ!ハングちゃん、その代わり覚悟しなよ。あたしはスパルタだからね」
「はい!望むところです!」
「これで教官は揃ったな。十日間の訓練の後にちょっとした試験的な模擬戦をやるからな。お前ら、そのつもりで励めよ」
「それじゃ、各々頑張ろうね」
それから私は十日間、朝早くから晩まで必死でリズさんの特訓に食らいついた。圧倒的な強者を打倒し、生き抜かなきゃいけないんだ。足手まといにだけはなりたくない。それに二人の様に強くなりたい。その一心だった。
生身であの怪物にどう太刀打ちするか、動きを止めるには、無力化するには、時間を稼ぐには、逃げるには、死なない為には、そんな様々なことを学び、体にしみつかせていると十日間という期間は存外あっという間だった。血の滲む様な訓練を終えた私達は遂に例の模擬戦を迎える。
「みんな、訓練ご苦労様だったね。お待ちかねの試験模擬戦だよ。詳しくはキングから聞いてね」
「よし、それじゃ、模擬戦の内容を説明する。機体に乗った俺を倒して見せろ」
思わず言葉を失った私達に追い打ちをかける様にキングさんは更にこう続けた。あの笑みを浮かべて。
「殺す気で来い。俺もそうする」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます