第五章 赤エルフと青エルフ

112, 5-01 列車からの景色

前回のあらすじ

 エロフだぞ!!



「すごい!すごいぞジョニー!!」

家出令嬢がはしゃいでいる。うざい。

列車からの景色は草原か森、たまに山が見える。

何も凄い事はないのだが、列車での移動ということでテンションが上っているのだろう。

俺は異世界転生者だ。自動車にも電車にも乗った事がある。

時速何キロ出ているのかわからないが、動力源が魔石というだけで魔法具列車に新鮮さは感じない。

最初にちょっと懐かしいと思ったが、もう3日目だ。

そう、家出令嬢はもう3日もはしゃいでいる。はしゃぎ過ぎだろ。



この3日・・・。

首周りにうろこがあるセクシーなお姉さん。

体につたを巻きつけたエッチなお姉さん。

なぜかバニーガールの衣装を着ていた兎人のお姉さん。

様々なお姉さんを見かけ妄想しようとすると必ず家出令嬢に妨害される。

どう妨害されるのかといえば殴られる。

なぜ殴ってくるのか。全く妄想をできない。

前世で見たアニメのツンデレキャラなどは鈍感系主人公を殴ったりしていたが、実際に暴力受けるとかなりムカつく。

前世で暴力を受けたことなどなかったし、開拓村の生活は厳しかったが両親は優しかったし、孤児院でエロシスターはエロかったし、イケメン師匠との訓練も最初にちょっと木剣を弾かれたりしたが体を打たれるなんてことはなかった。

モンスターとの戦いでも攻撃はすべて回避している。

前世と今生を合わせても俺に暴力を振るってきたのは家出令嬢だけだ。

親父にも殴られたことないのに、だ。

そもそも家出令嬢は殴ってくるだけで一切デレないのでツンデレではない。ツンボコ?ボコボコ?

家出令嬢じゃなく暴力令嬢と呼んでやろうか。

商家の令嬢ではなく貴族の令嬢だったが、家出中らしいから家出令嬢でいいか・・・。



痴女銀狼は相変わらずセクハラしてくる。

今大人しいのは保存食を与えているからだ。

食い物を与えておけば大人しくなるという食いしん坊キャラみたいな奴だ。

列車での食料品の値段は街のそれと大して変わらないのだが、保存食はそこそこの値段で俺が娼館に通うために貯めていた金が少しずつ消えていく。

痴女にエサをやるためにお金を貯めていたわけではないというのに。

空腹銀狼と呼んでやろうか。

しかし、油断するとセクハラをしてくるのでやはり痴女でいいだろう。



列車の旅で不便なことは風呂に入れない事と食事だ。


列車に風呂はないので浄化の魔法を使っている。

浄化の魔法がどういう魔法なのか俺もよくわかってないのだが、たぶん細菌の繁殖を抑えるとかそういう力が働いている。

泥で汚れた服に浄化の魔法をかけても汚れは落ちないが、汗が染みた服に浄化の魔法をかけ続けてやると汗臭さがなくなる。

眼光エルフは魔力汚染に浄化の魔法を使うと言っていたし、魔法はイメージなので使用者や使用対象によっては全く違う効果だったりするのだが、とても便利であり、自己回復魔法の次ぐらいに使われている。

列車に乗るのは運賃を払える程度に稼いでいる人間ばかりなので普人なら魔法は使える。

他の多くの種族も魔法が使える種族のほうが多いらしく、そんな理由からなのか風呂がない。

浄化の魔法を使えばある程度は衛生的なのだが、俺はゆっくり湯に浸かりたい。


食事は食堂車がない。

車内販売のワゴン台車が一日に二度来るのだが、調理された食品ではなく野菜や肉をそのまま売っている。

弁当とか売ってくれればいいのにそんなサービスはないらしい。

これは携帯調理用の魔法具というのがこの世界にはあり、旅をするなら当然持ってるよね、というぐらい常識的な魔法具だ。

金属製の水筒のような形で材料と水を入れ魔法具を起動すると一時間ほどでスープが出来る。

種類によっては蒸し焼き機能などがついた便利なものもある。

カナリッジにも売っていたのだが、金貨50枚と高く、安い中古品が出回ったら買えばいいかな、と考え買わなかったのだ。

まさかこんな急に旅に出ることになるとは思わなかった。

なぜ貴族と決闘をする事になったのか未だにわからない。

家出令嬢に一度聞いてみたら殴られたからな。

本当にわけがわからない。

だから食事はジャムをったパンや、干し魚や干し肉をもしゃもしゃと噛んでいる。

栄養バランスを考え生野菜や果物なんかも食べるのだが、冷たい食事でわびしい気持ちになる。



そんな列車は日に数度、街の近くにある駅に停まる。

停車時間は一時間。

駅につくと汽笛が鳴り街の住人に到着を知らせる。

蒸気機関ではなく魔石で動いているのだが異世界転生者のこだわりだ。

観光してみたいが、降りるのは無料で乗る時に金貨10枚かかる。

移動距離に関係なく乗車に金貨10枚。

鉄道オタクの異世界転生者は切符を作りたかったようだが制作の手間や販売コストの関係で却下されたらしい。

一時間の観光で金貨10枚も払いたくないし、乗り遅れたら次の列車が来るまで20日ほど待つ必要がある。

安いのか高いのかわからないが魔法具列車ビジネスは赤字であり、商人の寄付で成り立っている。

列車移動はかなり便利だし、なくなったら困るんだろう。

実際、乗客の多くは商人だ。

乗車時に金がかかるので列車から降りず窓から取引している。

魔法の袋があるので大量の商品をやり取りできる。

カナリッジの武器屋でもナイフを買う時、見本のナイフがあり、「これを5本ください」と言うと商人がカウンター奥の棚に置いてある魔法の袋からナイフを取り出し売ってくれた。

街の中の土地は限られているのだが魔法の袋のおかげで倉庫などなくとも大量の商品を管理出来るのだ。

持ち運びが便利なんてレベルじゃなく魔法の袋があるおかげでこの世界は成り立っている。



観光もできず、景色もつまらないので、本を読んで暇を潰す。

街でも娯楽は少なかったので変わらない日々だ。

ただし俺の読書は半日に一度の頻度で邪魔される。

「ジョニー、今日も現れたぞ!」

興奮した様子の家出令嬢が指差す先には大型モンスターが。

家出令嬢だけなら無視すればいいのだが、他の乗客も騒ぎ出す。

校庭に犬が侵入しはしゃぐ児童のような反応だ。

『さぁ、やってまいりました本日の冒険者クランは~~~、わんわんブラザーズです!!』

魔法具を使った車内アナウンスが流れる。

魔法具列車には大型モンスターを討伐できる機能があるのだが燃費が悪く緊急時にしか使わないそうだ。

大型モンスターを発見したら停車して護衛契約している冒険者クランが倒す。

列車の速度は速く、大型モンスターは鈍いので、そのまま通過すればいいのでは?と思うのだが、攻撃魔法を使ってくるような個体を放置して後ろから撃たれたら大事故だ、なので必ず倒す、という建前だが実際は娯楽だ。

格闘技イベントみたいなもんだろうと考えている。



冒険者クランに所属している人は必ずしも冒険者ではない。

冒険者を名乗っているのに変な話だが、戦闘能力がある人々が作るちょっと大きな組織を冒険者クランと呼ぶ。

異世界転生者のアイディアだろう、始まりは冒険者が集まった組織をそう呼んでいたのだが、冒険者ギルドの仲介なしで依頼人と契約するようになり、今では冒険者でない構成員だけで結成される冒険者クランも存在する。

護衛依頼などは冒険者ギルドではなく冒険者クランに依頼されることが多い。

冒険者ギルドだと誰が依頼を受けるかわからないし、冒険者ランクも当てにならないし、商人がパッと見で、こいつはすごい実力だ、なんて判断できないからだろう。

依頼が成功すれば評判もよくなり仕事も舞い込んでくる。

失敗すれば評判も悪くなり契約を切られたりする。

まぁ、護衛依頼なら失敗の場合大抵死ぬので評判もなにもないのだが、森の奥深くに存在する貴重な薬草を採取してくれ、とか、生きたまま動物を捕獲してくれ、という依頼もある。

俺も昔、『護衛依頼で馬に乗ることもあるかもしれない』とイケメン師匠に乗馬を習ったが、イケメン師匠は俺がいつか冒険者クランに所属する事を考えて乗馬訓練をしたのかもしれない。

冒険者クランどころか、俺はソロ冒険者なので乗馬の機会など全くない。

変な女が二人ついてきたが・・・パーティーを組んだ覚えはないのでソロ冒険者のはずだ。



そんな冒険者クランと大型モンスターの戦いに沸き立つ乗客達。

街から出ない人が大型モンスターなど見たら腰を抜かすだろうが、列車に乗っている人々は好奇心旺盛で皆楽しんでいる。

カメレオンのような頭と胴体、二股のトカゲの尻尾を持った6本足の全長8メートルほどのモンスターに犬人が群がる。

そこそこ速い長い舌や尻尾での攻撃がメインで、攻撃魔法を使えない個体のようだ。

ムチのように動く舌を大盾を持った犬人が防ぎ、ロングソードや槍を持った犬人が胴体を刺している。

見ていても面白くないのだが、乗客たちは楽しんでいる。家出令嬢もうざい。

カナリッジ周辺に出現する大型モンスターは硬い甲殻を持っており、普通の剣では攻撃が通らないらしいので俺には倒せないモンスターだが、あのカメレオンの外皮はそれほど硬くないのか魔力で強化されてない武器の攻撃も通っている。

時間をかければ俺一人でも倒せそうだ。

大型モンスターの魔石は金貨30枚~100枚なのでカナリッジ迷宮ダンジョン大鬼戦士オーガソルジャーからロングソードを強盗したほうが稼げる。

舌や尻尾の攻撃を大盾で防ぎ、胴体をひたすらぶっ刺すという単調な作業を30分ほど繰り返した犬人達。

モンスターが弱ったところで首を切断し始めた。

手慣れているのか危なげなく大型モンスターを討伐した冒険者クランは乗客の歓声を浴び列車に戻ってきた。

「すごかったなジョニー。私達もいつか挑もう」と盛り上がる家出令嬢。私達とは何なのか。

「アタシならあんなのワンパンだぜ」とアピールする痴女銀狼。勝手にやってくれ。



列車は夜も休まず走っている。

夜中に駅に停まっても容赦なく汽笛を鳴らす。

街の住人に迷惑じゃないのか?と思うのだが、駅近くの街の住人には日常らしい。

椅子の背にもたれシーツを被って寝ようとすると、痴女銀狼が度々侵入してくる。

追い出すと諦めてふて寝するのだが、毎日続くのでストレスが溜まる。



そんな列車の旅も15日目で遂にエルフの街に到着した。

伝説の娼館者への道が始まる―――。

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