075, 0-43 幕間・毒舌プリーストの日常

・エミリアの日常


前回のあらすじ

 えい!えい!えい!



私の朝は早い。

ジョニーが起きる前に目覚め、お風呂に入って、身だしなみを整える。

ジョニーが部屋から出てくるのを待って、一緒に朝食を食べる。

ジョニーはソロ冒険者になりナイフ投げの練習をしている。

一緒にパーティを組みたかったけど、ジョニーも私も回復魔法が使える。

別々に行動したほうが人助けが出来る。

私は、義足のお爺さん、ジャイルズさんの紹介でいろんなパーティに助っ人として入り、支援魔法を使って人助けをする。

ジョニーの帰りを待ち、一緒に夕食を食べる。

そして一日の終りにファタリーノ様へ祈りを捧げ、眠りにつく。



たまにジョニーとデートをする。

行く場所は武器屋や防具屋だけど、私達は冒険者だからこれが普通だと思う。

道具屋でお揃いの魔法の袋を買う。



ジョニーは1人でダンジョンのモンスターを倒せる。

でも、たまに畑護衛の仕事をしている。

理由を聞くと「畑護衛の仕事は人気がないからな」と言うジョニー。

だから私も時間がある時は畑護衛の仕事を受ける。



ある日、男性受付のジェロボームさんが体調を崩し冒険者ギルドを辞めてしまった。

数日後、もう1人いた男性受付のトリストラムさんも「俺だけじゃ無理だろぉがァァァ」と叫び、次の日から来なくなってしまった。

女性受付のプルネラさんはスタンプを押す事しか出来ない。

だからギルドマスターが夕方、受付で報酬の受け渡しをするようになった。



ジョニーは体調を崩した男性受付のお見舞いに行くという。

だから私も一緒に行くことにした。

「ジョニーにエミリア・・・、どうしたんですか?」

「体調を崩されたと聞いたのでお見舞いに来ました」

「わざわざそんな・・・じゃあ、入って下さい。お茶くらいしか出せませんが・・・」

体調を崩したと聞いたけど元気そうに見える。

ジェロボームさんがお茶を出してくれると、ジョニーは小箱を差し出した。

「これ、つまらないものですが」

「つまらないもの・・・ですか?」

「美味しいお菓子です」

「ありがとうございます」

ジョニーはたまによくわからない言い回しをするけど、すごく気遣いが出来る人だ。


ジェロボームさんは「せっかくですから皆で食べましょう」と言って小皿の上にお菓子を並べる。

お菓子を一口食べ「なんだか久しぶりに甘いものを食べた気がします」と言い、お茶を飲む。

そして、気遣わしげな声で言う。

「あいつは元気にしてますか?」

「あいつ?」

「トリストラムです。私が辞めてしまって、彼一人で大丈夫かどうか・・・」

「その人もギルドを辞めました」

「え!じゃあ受付は・・・」

「ギルマスが頑張っています」

「ギルマスが・・・。私も復帰したほうがいいかもしれませんね」

「それは止めた方がいいでしょう」

「いえ、もう体調も良くなりましたから」

「復帰したらまた体調を崩しますよ。別の仕事を探したほうがいい」

「しかし・・・」

「そもそも何故冒険者ギルドはあんな体制なんですか?」

「それは・・・」

「もし困っているならビブリチッタ様の教会に行くといいですよ」

「ビブリチッタ様・・・ですか?こう言ってはなんですが・・・、ビブリチッタ様は祈っても何もしてくれない神様では?」

「ビブリチッタ様の教会にはよく衛兵が訪ねて来るので相談するといいですよ」

「衛兵ですか・・・。そうですね、気が向いたら相談に行きます。しかしこれからどうするかな。新しい仕事が見つかるかどうか・・・」

「きっと大丈夫ですよ」

「まぁ、見つからなくても兄の宿屋で雇ってもらいますよ。ヒゲの看板の―――」

ジェロボームさんが宿屋の宣伝を始めて、ジョニーと私はお菓子を食べながらその話を聞く。

ジェロボームさんは、冒険者ギルドの受付では見た事のない生き生きとした表情をしている。

ジョニーの言う通り、冒険者ギルドの受付には復帰しないほうがいいと私も思った。



お見舞いから帰る途中、変な人達にからまれる。

「おいあんたら、さっきギルド職員の家から出てきたな。何を聞いた」

「ギルド職員?いいえ、そんな人の家には行ってませんよ」

「は~~~っ!ジェロボームの家から出てきたのはわかってんだよ!」

「彼はギルドを辞めたので、元職員ですね」

「屁理屈こねてんじゃねぇよ!」

1人の男がジョニーに向かっていく。

ジョニーは、男の足を引っ掛け転ばせる。そして変な人達に笑顔で言う。

「俺の師匠は、今日は犯罪者を一人殺した、二人殺したと嬉しそうに話す衛兵なんですが・・・」

「やべぇ奴じゃねぇか・・・」

「久しぶりに会いたくなったので皆で会いに行きませんか?きっと喜んでくれると思いますよ」

「い、いや・・・。どうやら勘違いだったみたいだ!俺達はもう行く。悪かったな!!」

変な人達は逃げ出し、転んだ男も慌てて立ち上がり逃げていった。


「今の人達なんだったんだろう・・・」

「さあな。でもまぁ、街の治安維持は衛兵の仕事だ。冒険者が関わるべきじゃない」

「そうだね・・・」

ジェロボームさんがビブリチッタ様の教会に行けばきっと解決する。

「ジョニーはもしかしてビブリチッタ様の孤児院で育ったの?」

「ああ、言ってなかったか?」

「うん、初めて聞いた・・・」

(シスター・リリスがいる教会・・・、やっぱりジョニーは運命の人!)



14歳になった私達はDランク冒険者になり、中級階層に入るようになる。

私は、オーガとの戦いに苦労している冒険者パーティを支援魔法で助ける。

ジョニーは1人でオーガを倒している。ジョニーは凄い。



そんな凄いジョニーは、ジャイルズさんの頼みで新人の面倒を見るようになる。

ジョニーは、新人冒険者が亡くなるのに心を痛め、手引書を作るほど熱心だ。



ある日ジョニーは、3人の新人冒険者と依頼掲示板の前でめていた。

「畑護衛って拘束時間が長いし、大して儲からないし、他の仕事が良いんですけど」

「そうそう、半日拘束で金貨1枚でしょ。ダンジョン行きましょうよダンジョン」

「ずいぶん強くなったし、俺らオーガぐらい倒せますよ」

少し気が大きくなっている新人にジョニーが言う。

「いや、オーガは無理だ、止めておけ。普通に死ぬぞ」

新人冒険者は、ジョニーの言うことに納得がいかないようで騒ぎ出す。

そんな新人にジョニーは畑護衛の大切さを話す。

「みんな飯は食うだろう。畑護衛は大事な仕事だ」

「そんなの俺らの知ったこっちゃねぇっすよ。衛兵だって護衛してるし、別に俺らがやらなくても―――」

ジョニーは鞘に入った剣をベルトから外す。

「な、なんですかジョニーさん。まさかここで訓練を―――」


ジョニーは剣を掲げて叫ぶ。

「野菜は俺のもんだぁあァァァアァァァァァ!!!!」

冒険者ギルドが静まり返った。

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