065, 0-33 幕間・生意気男子の魔法

・デュークの魔法


前回のあらすじ

 感じる・・・



俺たちは、ジョニーと一緒に川原に来た。

「魔法は凄い力だが、万能ではない。練習も必要だ。とりあえず、誰でも使える魔法からだな。健康な自分を想像して魔力を使ってみろ」

「健康な自分?」

「ちゃんと食事をしていた時の自分だ。さっき飯を食ったが、ずっと飯を食わずにいたのなら、気づかない程度でも体調を悪くしているはずだ。魔法はイメージだ。適当でいい。使ってみろ」

俺は言われた通りにイメージする。

「な、なんか・・・体のだるさが無くなったような・・・」

「成功だな。それが自己回復魔法だ。簡単だろう」

「う、うん。凄いな魔法って・・・」

アデラも成功したみたいで、自分の体の色んな所を触って体調を確認している。

「次は身体強化だが、これは少し難しい。注意点も多いが、冒険者ギルドの本にも載っている。今から説明するが、忘れたら後で読み返せ」

「わかった」「はい」

「身体強化は体を強くするイメージだ。体に魔力をまとうと成功だ。一部だけでなく、全体をな。これは長時間の維持が難しい。そして、身体強化をするとブーツも強化されてしまう」

「それっていい事なんじゃないのか?強くなるんだろ?」

「魔力をまとうと、大抵の物は壊れやすくなる。例えば―――」そう言いながらジョニーは石を拾い、「こんなふうにな」と言って石を指で潰した。

「す、すごい」「ジョニー力持ち」

「今のは力で潰したわけではない。魔力をまとった結果だ。魔力コントロールが上手くなるまでは魔法を使うな。練習だけにしろ。せっかく買ったブーツが駄目になるぞ」

ジョニーは、腰のポーチから木の器を取り出すと、川の水を汲んだ。

「さっき、一部だけでなく全体を強化しろと言ったが、それは最終的にだ。

俺は身体強化をイメージする時、体をオーラがまとっているイメージをする。オーラは水みたいな物としてイメージしろ。

手で水をすくうと、水が手を少しの間おおう。これをオーラ、魔力をまとう感覚だと考えて、体が強くなるイメージをする。

指の一つ一つまで細かくイメージ出来れば、ブーツや武器の破損は防げるだろう。宿屋の部屋でも出来る。この訓練も今日からするといい」

ジョニーが1本指を立て「上手くコントロール出来ると」と言うと、指先に小さな火の玉が浮かんだ。

2本目の指を立てながら「こんな事も」と言うと、指先に小さな水の玉が浮かんだ。

3本目の指を立てながら「出来る」と言うと、指先に小さな光の玉が浮かんだ。

「ここまで出来る必要はないが、魔力コントロールが上手くなれば身体強化の持続時間も伸びる。これは集中力の問題だ。普段の集中力と戦闘中の集中力は変わってくる。最低1時間が目安だな。それだけ出来れば冒険者としては問題ない」

ジョニーの指先にあった3つの玉は、グルグルと回りながらのぼっていき、消えてしまった。

「魔力は、体にまとっている分には問題ないが、今のように体から離れていくと消費する。魔力がなくなると、回復するまで魔法は使えなくなる。魔力の回復速度は健康状態によって変わるし、個人差もある。

魔力を魔石から取り込める奴もいるが・・・、お前達、お互いに向かい合って、相手の魔力を意識してみろ」

「魔力を意識?」

「魔法はイメージだ。これも適当でいい。相手の魔力を感じ取れるか?」


「俺は、わからない。アデラはどうだ?」

「私もわからない」


「では、お前たちは普通の魔法使いだ。体から魔力が離れる魔法はあまり使うな。魔力量とイメージ、そして集中力さえあれば使える。万能ではないが、便利ではある。それが魔法だ」

「ジョニーはどれぐらい魔法を使えるんだ?」

「俺は、身体強化は常に使っている」

「常に?」

「ずっとだな。寝る時意外だ。今も使っているし、さっき食事していた時も使っていた」


「ジョニーすごい」とアデラが言う。


「まぁ、俺も最初は身体強化を使って転んだからな。最初から出来たわけじゃない。お前達も地道に頑張るといい。これから畑護衛の依頼を受けて解散だ」

「畑護衛?」

「街の外にある畑で働く農民の護衛だ。半日の護衛で金貨1枚だ。午前と午後に分かれている。

採取が上手いと採取のほうが稼げるし、モンスターを倒せるならダンジョンに行くほうが稼げるから、拘束時間も長いしあまり人気がない。

だが、モンスターが来ないとボーッとしてるだけで金貨1枚だ。よく襲ってくる犬型のモンスターは動きも速く、結構危ないから油断しないようにな」

「わかった」

「特に監視は付いていないが、依頼を受けて護衛をサボると、普通に詐欺で捕まるからな。金に困っても絶対にするなよ」

「わ、わかった」



俺たちは街の外に来た。

みんなで辺りを警戒する。

最初は、本当にボーっとしているだけだったけど、ジョニーが「来たな」と言いナイフを投げた。

農民を襲おうとしていた犬型モンスターにナイフが当たる。

「こ、こんなに離れてるのに・・・ジョニーすごい」とアデラが驚く。

アデラもナイフ投げの練習をしていた。きっとあれが冒険者になるための訓練だったんだと、今更気づいた。

「身体強化を使っているからな。狙いはともかく遠くへは飛ばせる。空を飛んでいるモンスターにも当てられる。犬型もゴブリンと同じで群れで動くからな。5、6匹だが、あっちだ」

ジョニーが指を差す先には、4匹の犬型モンスターがいた。

「あいつらは油断しているが・・・、この距離でも当たる」

そう言ってジョニーが投げたナイフは全て命中した。

「ジョニーすごい」とアデラはまた驚いている。

俺もナイフ投げはよくわからないけど、一度も外さないのは凄いって事はわかる。アデラは練習中、何度か外していた。

そしてジョニーは、さっき襲われていた農民の元へ向かい、ナイフを拾って言った。


「大丈夫ですか?」

「あ、ああ・・・助かったよ・・・あんたすげぇな。・・・あんた前にも助けてくれなかったか?」

「そうですか?畑護衛はたまに受けるぐらいですよ」

「あんたならダンジョンで稼げるんじゃないか?」

「まぁ、稼げますけど・・・畑護衛は人気がないですからね。俺も飯がえなくなったら困りますから・・・」

「あんた、変わってるな」

「そうですか?御飯は誰でもべるでしょう。それよりその手、ちょっと見せて下さい」

「え?ああ~擦りむいちまった。でもこれぐらいなら―――」そういう男の人の手をジョニーが握ると、擦り傷は消えて無くなってしまった。

「なっ!あんた、回復魔法が使えるのか!!」

「まぁ、これぐらいなら魔力もほとんど消費しませんからね」

「そんな事言ったって、俺は金貨5枚なんて払えねぇぞ」

「街の中で回復魔法や魔力感知でお金を稼ぐには登録しないと・・・、登録せずに金をとったら俺が衛兵に捕まっちゃいますよ」

「ここは街の外だぞ」

「そういえばそうでしたね。でも畑も街の一部じゃないですか?この辺の境界線ってどうなってるんでしょうね」

「そんな事考えたこともねぇよ。やっぱりあんた・・・変わってるな」

「俺は常識人ですよ」

「いや、変わってるよ。変わってるけどイイ奴だな」

「街の人間も、基本皆いい人ですよ」

「はは、確かにそうだ。悪い奴なんて滅多にいねぇ」

「俺からすればあなたも十分変わってますよ。じゃあ、美味しい野菜をたくさん作ってください」

「おお、任せとけ!」


ジョニーは4匹の犬型モンスターの元へ行く。親切なジョニーにアデラは聞く。

「回復魔法や魔力感知って・・・、もしかしてジョニーは、さっき言ってた魔石の魔力を使える魔法使いなの?」

「そうだな。普人では一万人に一人と言われている魔力干渉魔法使いだ」

「ジョニーすごい」

「お前は、さっきから凄いしか言っていないな。教会のシスターも神父様も魔力干渉魔法使いだったぞ。地域性があるのか、昔より増えているのか知らないが、統計学なんて、そもそもあるのかどうか・・・適当に一万人、と言われているだけだ。そう、特別でもない気がする」

「そんな事無いよ。ジョニーすごい」

「そうか。まぁ、俺も色々努力した結果だ。お前達も頑張れ」

「うん、がんばる」

「モンスターの死体は農民が片付けるからな。これは、冒険者や衛兵が護衛に集中するためだ。

本当は今日の予定だったが、色々あって剣術は見れなかったな・・・。ゴブリン退治の依頼があったら、挑戦してみるか。また来週、酒場にいるから声をけろ」

ナイフを拾いながらジョニーがそう言うと、「うん」とアデラは元気よくうなずいた。



ジョニーは変で、親切で、すごい奴だった。

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