056, 3-10 女戦士と村娘
前回のあらすじ
奇人のジョニー
金を楽して稼げるようになった俺は、冒険者ギルドの酒場で飯を食う。
この街の食事は安い。
両手の平サイズのバターロールが2個で銅貨1枚、野菜がたっぷりで肉が少しの香辛料で味付けされたスープが銅貨1枚、一食銅貨2枚ぐらいで食える。果物1個は銅貨1枚、デザートつけても銅貨3枚だ。
川から取れる魚や養殖したザリガニもうまい。米もある。肉が高いのは、家畜を育てるのに土地や餌を使うからだろう。ステーキは一気に値段が上がって、金貨1枚だ。
備蓄食料は殆ど無いとの話だが、自然災害や病気で畑が駄目になる、という事はない。ルービアス大陸の気候は穏やかで、台風とかない。農作物の病気は魔法で治せる。余裕があるほど肉が安くなる。
一年中食糧生産しているから、街の人間が食う分は確保出来ている。孤児院でも、おかわり自由で腹いっぱい食えた。
眼光エルフは『それなりに栄えているいい街だ』と言っていた。つまり、この街の食料事情は、平均より少し上、ぐらいだろう。
食糧事情はよく、土地も限られているので、スラム街は無い。スラム街なんて出来た日には、イケメン師匠が喜び勇んで住人皆殺しにしそうだ。
宿屋の宿泊料や魔石代金なんかと比べると異常に安く、「これで農家はやっていけるのか?」と心配になるが、そこは悪徳領主、畑は全てこいつの土地で、農家は月給制だ。
開拓村でも、畑は全て悪徳領主が買い取っていた。なにか、悪辣な手段で稼いでいるに違いない。さすがやり手のブラック経営者だ。
そんな安値の食事も、冒険者ギルドでは一食銀貨1枚だ。完全にボッタクリである。しかし、美味い。
酒場の親父は元冒険者。ロマンスグレーの髪を切り揃え、バーテンダーの服を着て、紳士っぽい見た目だが、頭は悪く、言葉遣いは粗暴で、料理の味付も大雑把だ。大雑把なのに、周辺の宿屋や食堂より美味い飯を作る。キャラがブレ過ぎである。
帳簿を付けず、細かい仕事はギルマスに丸投げだったが、「なんだか大変みてぇだし、帳簿ぐらい付けてやるか」と帳簿を付けだすも、間違いが多く、ギルマスの負担を増やしている。
給仕の女はミニスカの給仕服を着たオレンジ髪の女だ。ツリ目で、気が強そうだ。こいつも元冒険者、女戦士として活躍していたらしい。
酔った冒険者がよく尻を触り、ぶん殴られて喜んでいる。
「まさかっ、封印されし闇が解き放たれたのか!」と思ったが、殴られる事ではなく、尻を触るのが目的のようだ。
女戦士、なんだか響きがエロい。
そして俺の妄想が始まる。
「ふっ、いい加減観念して、魔法の袋の隠し場所を吐くんだな」
「誰がお前みたいな盗賊に!」
「そこまで反抗的なら仕方がない。これは・・・エッチな悪戯をするしか無い!!!」
「
「強がっていられるのも今のうち―――」
「待ちなジョニー」
「あ、姉御シスター!」
「女王様と―――」
(くそっ、静まれ俺の闇よ!)
女戦士なら、くっころ一択。そう思って妄想したが、やはり酷い事はするもんじゃないな。封印されし闇が妨害してきた。
まぁ、この世界に盗賊なんていないが。街の中だと集団化する前に衛兵に殺されるし、村を拠点にしようとすれば騎士団に殺されるし、壁の外ではモンスターに殺される。犯罪者にも厳しい世界だ。
俺が、封印されし闇をどうすべきか・・・、エッチな妄想をするにはどうすべきか!真剣に考えていると、親切爺に呼ばれる。
「おーい奇人の、ちょっとコイツラの面倒見てやってくれ」
そんな呼び掛けに考えを中断し、酒場のカウンターまで行き、親切爺に注意する。
「お爺さん、その呼び方はやめてくださいと何度も言っているじゃないですか」
「ハッ、二つ名を嫌がる冒険者なんてお前ぐらいのもんさ」
「その二つ名が嫌なんですよ」
「いい二つ名じゃねぇか」
「何処がですか」
奇人、要するに変人だ。俺は変人ではない、ただの異世界転生者だ。
「奇人なんて呼ばれて喜ぶ人はいませんよ」
「まぁ、呼び方なんてどうでもいいじゃねぇか。ちょっとコイツラの面倒見てやってくれ」
奇人呼びを流され、紹介された少年と少女。少年のほうが俺の名を呼ぶ。
「ジョ、ジョニー!」
(何処かで会ったか?)
少年を見ても思い出せないが、少女はなんとなく見覚えがある。
亜麻色の髪を一本の三つ編みにしている。なんか村娘っぽい。
(村娘・・・、涙目女子だな。という事は、少年は生意気男子か)
俺の悪口を孤児院で言いふらした、開拓村出身の孤児達だ。
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