032, 2-08 この世界の魔法

前回のあらすじ

 未来からやってきた青い狸



魔法が使えるようになった時、これで俺強えぇ!できるかと思った。

だが使えば使うほど、この世界について学べば学ぶほど、それは無理だなと思うようになった。


この世界のモンスターは、この世界の人間と比べて強すぎる。俺もモンスターを倒したことはあるが、あんなのは雑魚だ。ダンジョンのボスモンスタークラスだと人間はまず何も出来ない。

なんと言ってもダンジョンは、神が遊ぶために作ったアトラクション施設だ。神の力があって初めて倒せるようなモンスターばかり。

攻略されてないダンジョンを放っておくと、ボスがモンスターを率いてダンジョンから出てくる。ダンジョンパニックと呼ばれている。小さい国はこれでいくつか滅びている。

防ぐ方法はダンジョンのモンスターを間引くこと。モンスターが一定数増えるとダンジョンパニックが起こる。最後のダンジョンパニックは800年前で、今は獣人の国と呼ばれている場所で起きた。当時の獣人は部族集落が縄張り争いしていただけなので、とある集落がうっかりダンジョンの間引きをサボってしまったそうだ。当然その集落は滅んだ。

ダンジョンパニックで溢れたモンスターはダンジョンの外で生態系を築く。ボスモンスターが死ぬと周辺を魔力汚染する。開拓村が崩壊した原因だ。魔力汚染は魔法が使えない普人が死ぬ以外にも、周辺に生息している生物を魔物に変質させる。そうやってモンスターが増えていく。

今はもう長い間ダンジョンパニックを防いでいるので、ダンジョンの外で活動しているボスモンスターは少ない。別に倒して減ったわけじゃない。寿命だ。そしてゼロではない。

ボスモンスターが一箇所に留まるのはまだいい。フィールドボスになり、その付近に他のモンスターが近寄らない安全地帯が出来る。刺激しない限り人間にとってもありがたい。

厄介なのは移動型、倒せないモンスターがウロウロするのだ。街に来たら住民は全滅。出来ることは街に近寄らないように囮になって誘導するだけ。これは冒険者ではなく騎士団の仕事だ。どれだけ死人を出さずに誘導できるか、という訓練を普段しているそうだ。死人が出るのは最初から決まっている。

そして、ダンジョンを攻略する方法は、ボスモンスターを倒してダンジョンコアを破壊すること。このダンジョンコアには神力が宿っているらしい。人間には使えないどころか観測すら出来ない。コアも見た目はザラザラした黒い石で宝石としての価値もない。

カナリッジの街の近くのダンジョンは攻略済みだ。弱いボスモンスターというのも当然いる。神が攻略してリセットしなかったダンジョンなどもある。

しかし、ほとんどのボスモンスターは人間がどれだけ集まっても倒せない強さで、ダンジョン攻略はボスを倒さなければいけない。クソゲーだ。

この世界がレベル制だったり、アニメや漫画の登場人物が使う必殺技、それこそ異世界小説のチート持ちみたいな規格外の能力があれば倒せるんだろうが、この世界の人間が使う魔法はそれに比べると随分しょぼい。


例えば普人の平均魔力量は直径十センチのファイヤーボール100発分だ。100発も撃てると思うかもしれないが、直径十センチのファイヤーボールなんてゴブリンすら倒せない。身体強化を使ってぶった切ったほうが早い。

じゃあもっと強い魔法を使えばいいと思うかもしれないが、魔力が無くなったら回復するまで魔法は使えない。当たり前だが大事なことだ。身体強化すら使えなくなる。

自分の魔力を魔石に貯めておいて後で使うということも出来るが、一月に一度ぐらいしか戦えなくなってしまう。

普人の冒険者にも貯めた魔力を使って強い魔法をバンバン使う、攻撃魔法使いと呼ばれる者もいるが、数は少ない。

普人の国の王城には普段魔力を貯めて、いざという時に大きな魔法を使う、王城の魔法使いという役職もある。

魔力干渉魔法使いなら自分の魔力でなくともある程度使えるが、魔石費用がアホみたいにかかる。現実的じゃない。

身体強化は体に魔力をまとっているだけだから、ほとんど魔力が減らない。消費魔力はファイヤーボール一発以下だ。結局、身体強化で近接戦闘するほうがいい。

だがそんな身体強化すら魔力をすべて使えるわけじゃない。俺は45発分ぐらい。イケメン師匠は50発分ぐらいだ。魔力コントロールが上手ければもっと増やせる。普人は60発分ぐらいが限界だ。


この世界には生まれたときから魔法を使える種族もいる。魔法が得意な種族と聞いて思い浮かぶのは、やはりエルフだろう。

しかし、そんなエルフも平均魔力量はファイヤーボール800発分ぐらいで、身体強化で使える魔力はファイヤーボール70発分ぐらいが限界。普人より余裕があるため攻撃魔法も結構使えるが、ボスモンスターを倒せるほど高火力の魔法は使えない。

精霊は見えるが、見えるだけ。精霊魔法なんて使えないし、大気中にある魔力を取り込んで魔法を使うなんてことも出来ない。この世界でエルフは強い種族だが、ファンタジー作品に出てくるエルフとしてはかなりしょぼい。

エルフより強い種族もいるが、そいつらもボスモンスターには勝てない。


じゃあこの世界の人間に強くなれる要素がないかと言えば、そんなことはないと俺は考えている。

魔法言語は魔法具作りぐらいにしか役に立たないと言われているが、研究して様々な組み合わせを模索すれば、今みたいにイメージに頼る魔法ではなく、魔法言語を使った高度な魔法理論が生まれるかもしれない。

魔法具の性能も昔より今のほうが優れているし、魔法刻印を利用した儀式魔法や魔法陣、みたいなものも考案されるかもしれない。実際、既に似たような技術はある。

エルフの国は精霊研究をしているようだが、精霊の正体は神モドキに聞いてしまった。精霊魔法はおそらく無理だろう・・・。

それに前世みたいに科学技術を発展させれば、この世界のモンスターも駆逐できるかもしれない。

ただ現時点では、この世界の人間が使う魔法はしょぼくて、強いモンスターには勝てない。



だが魔法自体がしょぼいのかと言えば、そんなことはない。神モドキ、あいつが使う魔法は凄い。

エルフは魔法言語が見えるらしいので、おそらく魔力も見えているんだろうが、普人に魔力を目で見るなんてことは出来ない。

しかし、神モドキを見て普人の小さな子供が喜んでいた。間違いなくキラキラ見えているんだろう。あいつがキラキラ光っているのは魔力がアホみたいにあるからだ。

バトル漫画などで「なに!目に見えるほどの魔力だと!?」「くらえ!これがみんなの力だ!!」みたいな事はこの世界の人間には出来ないが、神モドキはそれを自然にしている。まさに神の力を持った存在だ。

以前、俺が幽霊探偵の話をした時、神モドキは手で銃の形を作って『くらいやがれっ』と言いながら、空に向かって魔法を撃ったことがある。空にある雲を撃ち抜いて消し飛ばしたのだ。『どうだ似てるか』とドヤ顔だったので、俺はちょっと引きながら『似てる似てるチョー似てるよ』と褒めてやった。

あんな規格外の力があればボスモンスターも倒せるだろう。



そして、神モドキはそんな力を俺にくれるという。『お前ならうまく使えると思うんだよ。空を裂き、大地を砕き、海を割る、そんな神の力が』などと物騒なことを言っているが、異世界の知識がある俺ならうまく手加減して使えるだろう、という意味だ。

出会ったときに「私は神だ。お前にチートをやろう」とか言われたら「ぜひ下さい」と言っただろうが、俺はもうこいつと友だちになってしまったのだ。

かなり変わった、人間じゃないこいつと。いや、むしろ人間じゃないから友だちになれたのかもしれない。最初から価値観が違うと一歩引いていたから、うまく付き合えたのだ。

俺はこの世界の人間、あくまで今はこの街の普人だけだが、おそらく他の街の普人とも、別の国の種族とも友達にはなれない気がする。


たとえばイケメン師匠。彼は少なくとも10人以上、人を殺している。

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