023, 0-13 幕間・謀略女王の玉座

・ルクレーシャ=クロトーの玉座


前回のあらすじ

 謀略の担い手



私はグリゼルと一緒に、隠し通路を使って王の寝室に行く。

寝室の前には一応、近衛騎士がいる。

目の前で寝室のドアがひとりでに開いたら流石にバレるので、隠し通路を使っているのだ。


ピンクのウィッグを付けて、顔を伏せる。

そして王様に声をかける。

「あなた、起きてください、あなた」

王妃様がどんなふうに呼んでいたのかもリサーチ済みだ。

そんなピンク髪を見て王様は喜んでいる。

「おお・・・おお!やっとか!やっと迎えに来てくれたのか。遅かったじゃないか」

凄い嬉しそうだ。

当初の台本では「よくも浮気しやがって!」と殺す予定だったのだけど、これでは幸せに転生しそう。

愛する妻に浮気を責められるのも、彼にとっては惚気でしかない。

だから私はウィッグを脱いだ。

王様は、突然現れたドス黒い赤髪と、異常なまでに黒い目をした少女に怯える。

動揺する王様に私は笑顔で言った。

「さよならお父様」

そして王様が悲鳴を上げる前に、その喉首を持っていたナイフで切り裂いた。

これ結構練習したんだよね。なんだかんだで初めて自分の手で人殺したけど気分がいい。テンション上がる。人殺し楽しー。


王様が結構大きな声を出していたはずなのに、寝室のドアが開く様子はない。

グリゼルが遮音の魔法を使ってくれたわけではない。

近衛騎士にはやる気がない。私が王宮で殺し合いをさせる前から王の子は100人以上いたのだ。

そんな状態で近衛騎士には任せられないと、護衛は愛人たちの実家が用意していた。

そうして長い間怠けまくったのだ。

唯一の護衛対象は王様なんだけど、近衛騎士隊長のライナス=ヨークなど享楽的な王に嫌気が差し、王城の玉座の間にいて剣持ってるだけ。

「王様が仕事しに王城にきたら守ってやんよ」そんな態度でいるらしい。王様が何処にいるかすら把握していない。

サボって給料もらえるとか超ホワイトじゃん。なんかムカつく。


そんなムカつくライナスさんがいる玉座の間に行く私。

殺すためじゃないよ。勘違いしないでよね。私そんなサイコな女じゃない。



玉座の間では東と西の公爵勢力、大臣たちが罵り合っていた。

一体次の王は誰にするのか、皆死んでしまったぞ、と。

大臣たちが騒いでいる玉座の間へ、返り血浴びて、ナイフを持った私が、王宮の通路から現れる。

ギョッとする大臣たちを前に、グリゼルをお供に現れた私が玉座に座る。

悪役令嬢が私の赤髪を思い出したのかキーキー喚き始める。

そう、結局この人、生き残ったのだ。すごいね。

だから台本にも登場させてあげた。


悪役令嬢が私を玉座から引きずり降ろそうと近づいてくる。

「お前のような平民の、気味の悪いメスガキが!」

そんな興奮している彼女を私が見ると、彼女は痙攣して倒れた。「う~う~」とうなってる。苦しそうだな。

そんな彼女に手に持っていたナイフを投げつける。もちろん外れる。ナイフ投げの練習なんてしてないからね。

でも関係ない。私は言わなきゃいけない。私は叫んだ!


「女王様とお呼び!」


静まり返る玉座の間。

そこで西の公爵が何があったのか察したらしい。

「王は?」

「王は死んだ」

私の言葉に慌てるライナスさん。仕事サボってるからだよ。玉座の間から出ていく。きっと王様の生死を確認しに行くのだ。

彼が戻ってきて事実を告げる。

「王はお亡くなりになられていました。ナイフで首を切られたような跡があり・・・」

そう言い私を見つめるライナスさん。情熱的だな。もしかして惚れちゃった?ごめんね。私はイケメンハンターになるって決めてるから。

私にフラレたのがショックだったのか、ビクビクと震えだし私に剣を捧げる。

「ルクレーシャ=バジル=カス=クロトー様に剣を捧げます」とか言って私をカス呼ばわりする。

だから私は「名前などどうでもいい。これからもルクレーシャ=クロトーだ」と言ってやった。

う~んしかし、付き合えなくてもお側においてください的な?純愛なんてろくなことにならないよ。


ライナスさんのちょっとメンヘラ気質にツッコミを入れていると、東の勢力の一人が悪役令嬢を回収しようとしていた。

そいつも痙攣して倒れた。私は言った。

「この不敬な女は奴隷とする」

そんな私の言葉に東の勢力は騒ぎ出す。でも助けようとしても次々倒れていく。喚く彼らに私は叫んだ!


「うるさい黙れ!従わないものは出ていけ!死にたくないものは出ていけ!」


そして少しして、彼らは悪役令嬢を置いて出ていった。捨て台詞を残して。

「こんなことをして、ただで済むと思うなよ・・・」

わかってるよ。王妃様を殺したのって東のぜん公爵なんでしょ。

悪役令嬢も東の公爵令嬢。こいつらは殺そう。


西の公爵はそんな顛末を見て言う。

「兵を集めましょう。おそらく戦争になります」

だから私は頷いて「好きにしろ」という。

その言葉に喜ぶ、西の公爵。

なんだかよくわからないことが起きているが、癇癪持ちの子供が玉座について東の公爵は出ていった。実権を握るのは私だ!とか思っているのかもしれない。

考え甘いな~。世の中、予想を超えて厳しかったりするもんだよ。でもまあ戦争したがってるし、好きにさせてあげよ。

玉座に座りながら今後の展開を考えほくそ笑む私。

きっとこれからも大勢死ぬ。ハードモードな人生を用意した頭のおかしな神への復讐だ。




のちに謀略女王と呼ばれることになる8歳の少女が玉座に就いた年――普人の国クロトー王国で王都を中心とした東西勢力の内戦が始まる。


東の公爵・エリファレット=キーファ=マロニーは言った。

「理由なく幽閉された我が娘を取り戻せ。正義は我にあり」と。


西の公爵・トニー=レス=モースは言った。

「若き女王を守るため我らは反逆者と戦う。正義は我らにあり」と。


謀略女王・ルクレーシャ=クロトーは言った。

「私だけが正義だ」と。


しかしこの内戦はあっさりと終りを迎えることになる。頭のおかしな謀略女王の残虐な手によって―――。

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