017, 0-07 幕間・謀略女王の動揺

・ルクレーシャ=クロトーの動揺


前回のあらすじ

 神様、女神様、イケメン様。



「この赤子があなたが一生面倒を見る御方です」

少し飾り気をもたせた黒くスラッとした服を着た、キリッとした顔のキャリアウーマンみたいな女性が、少女に話しかけている。話しかけ続けている。

侍女長らしい。パワハラ上司かな。くどくどと、小さな少女になにか言ってるけど、少女全く聞いていない。すごいな少女、ガン無視だ!

少女はずっと私を見ている。赤ちゃんな私を。

(わかるよその気持ち。赤ちゃんカワイイもんね。カワイイは正義!私は正義!!)


「ちょっと、聞いているのですか、あなたは」

「はい、聞いております」

そう言いながらも私からは目を離さない。

侍女長は呆れたように言った。

「じゃあ、任せましたよ。まぁ、先程は一生、と言いましたが、そう長くはないでしょう・・・」

(堂々の解雇宣告!)

不穏な言葉を残し、部屋から出ていく侍女長。部屋に残った赤ちゃんと、赤ちゃんに夢中な少女。



解雇宣告も無視して私を見る少女は、とうとう私のほっぺたをプニプニし始めた。

(やめて!やめてくださいお願いします。プニプニはやめて!)

抵抗できない私を弄ぶ少女。

私はなんとかやめてもらおうと、言う。言ってしまった・・・。

「やめて!」

固まる空気。固まる少女。固まる赤ちゃんな私。


ですよね~。やっぱおかしいですよね~。赤ちゃんなのに言葉がわかる、てゆうか異世界なのに言葉がわかる。

これはきっと、異世界言語のスキルを持つチートな私だからこそだろう。

この世界の赤ちゃんが話をするのが普通なわけがない。


少女はそんな私を気味悪がることもせずに、話しかけてくる。

「あの、お話ができるのですか?」

赤ちゃんに敬語を使うシュールな少女に誤魔化してみる。

「ばぶ~~~」

「ばぶ~?」

駄目だった。赤ちゃんってどんなだったっけ。前世の私は独身どころか処女だった。イケメン彼氏が欲しかった!

「あの、私の前以外では、決してお話になられないでください。御身のためです」

「ありがとう」

私は素直にお礼を言った。「ばぶ~~~」はなかったことにしてくれるらしい。

なんにせよ、悪魔の子め!と殺されなくてよかった。転生そうそう殺されるなんて嫌だ。私は死にたくない!

前世で死にたいと思っていた私はもういない。死んじゃったしね、前世の私。両親に申し訳ないが私は悪くない。


そして気になるのは今生の両親。全く現れない。

こういうときは美人なママとイケメンのパパが現れるものなんじゃ。

まさか・・・!冷遇パターン!悪役令嬢パターン!

気になったので可愛い少女に聞いてみた。

「パパとママはどこ?」

そんな私の愛らしい声に表情を歪める少女。嫌な予感がバリバリする、でも聞かなきゃバッドエンドルートを回避できない。

嫌がる少女に何度も質問する私。セクハラじゃないよ。根負けした少女がとうとう教えてくれた。

「お母君はもう、亡くなっておられます。でも決してルクレーシャ様のせいではありません!」

私の名前がサラッと発覚した。私はルクレーシャらしい。

「パパは?」

「王様はその・・・お歳ですので、後宮で休んでいらっしゃるかと思います」

王様?え、私お姫様!貴族令嬢ぐらいだと思ってたらまさかの展開。これ、悪役令嬢回避できたんじゃないの。

「何歳なの?」

「85歳だったかと」

おじいさんじゃん!いや、ここは異世界、エルフがいるはず。

そう思い、自分の耳を触ってみるも普通の耳だった。イケメンパパに甘えるという私の夢は潰えた。



まぁいいか。両親に期待できないなら自分に期待しよう。なんと言っても私はチート持ち。

出来る女子!目指せイケメンハンター。私は狩人になるのだ・・・。

そのためには強くなる必要がある。赤ちゃんの頃から魔法を使って、魔力量が多い私強い!でしょ。

私は体の中にある魔力を探る・・・。探る・・・。探る・・・。・・・なにもない。

もしかしてこの世界、魔法ないのかな。

そう思った私は少女に聞いてみることにした。便利な少女だな。都合のいい女というやつかな。もっと自分を大事にして!

少女を利用しながら少女の身を案じる鬼畜な私。

しかし、私はイケメンハンターになって、今生ではイケメン彼氏をゲットするのだ。

そのためには少女を利用するのも仕方ない。私は自分がいちばん大事なのだ。



前世、色んな人に気を使って、やりたくもないことを引き受けて、結局、上司の無茶振りを断れず死んでしまった。

だから、今生では自分のことだけを考えて生きていくと決めた。



私は少女を利用する。てゆうか、ただ質問するだけだけど。

「魔法ってどうやって使えるの?使い方教えて」

「魔法ですか?その・・・ルクレーシャ様は、まだ使えないと思うのですが。どうしてもと仰るのでしたらわたくしめが魔力感知を担当させていただいてもよろしいでしょうか?」

「いいよー」

なんの事だかさっぱりだけど知ったかぶりをする私。

でもあれだよあれ、魔法が使える、なんかでしょ。この少女が私に危害を加えるとは思えないし。

少女は私の体に手を触れ、目をつぶる。集中してるみたい。セクハラじゃないよね。

しかし、すぐに目を開けると少女は言った。

「赤子で話されるルクレーシャ様ならもしや、と思ったのですが・・・」


申し訳無さそうにしてる少女にいろいろ質問してくと、私は普人という種族で、10歳ぐらいにならないと魔法は使えないってさ。先に言ってよ。



そうなっちゃうと暇だなー。文字でも覚えて読書でもするかなー。前世も読書が趣味だったし。

赤ちゃんでも本が好きなのは普通でしょ。赤ちゃん用の本とかあるんでしょ。

(処女だからって、馬鹿にしないでくれる?知ってるわよそれくらい!)

まぁでも普通は、絵本を親に見せてもらうとか、そんな感じだと思うけど。

赤ちゃんが言葉を話して、文字を覚えて、自分でページをめくったりはしないよね。そんな赤ちゃん悪魔の子だ!

私が今からやろうとしてることだけど。



この世界の文字は、この少女に教えてもらおう。

教えてもらわなくても、もしかしたら異世界言語スキルで読めるかも。

色々教えてもらったし、そろそろこの少女の名前を聞こうかな。

文字を教えてもらうなら付き合いも長くなるかもだし。

赤ちゃんに夢中で上司を無視して解雇宣告されてたけど。

できればうまく誘導して、彼女が解雇されないようにしたい。

いい話し相手にもなるし、他の人だと赤ちゃんが話してどんな反応するからわからないし。



「あなたの名前教えて」

「あ、あの私は・・・」


何故かためらう少女。ただの名前だよね・・・。

この世界、名前を知られちゃうと奴隷魔法で奴隷にされちゃうパターンじゃないよね。

ルクレーシャって名前、知られちゃってるんですけど!


そんな私の思いが通じたのか、恥ずかしそうに名乗ってくれた少女。

「グリゼルです・・・グリゼルだけです」

なんのプレイだ!私の奴隷になりたいってことかな。私、女王様になっちゃうのかな。

(女王様とお呼び!)

なんといっても今生の私は王族みたいだし。

しかしどうやら違ったようで、少女は謝ってくる。

「平民で申し訳ございません」

なんの謝罪ですそれ。


意味がわからないから色々聞いてみると、普人の国、クロトー王国では偉くなるごとに名前が増えていくらしい。

王様は4つ。王族なら3つ。王族と血縁が深くて、公爵という王様の次に偉い公爵様も3つ。ただの貴族は2つだ。ただの貴族ってのも変な言い方だけど。

しかし、私の母は平民だそうで、王族だけど2つ、ルクレーシャ=クロトー。

私は思った。バカバカしい、なんで名前増やすのかね。覚えるのめんどくさい。私は、自分の名前が個人名と家名の2つだけでよかったと喜んだ。

でも私のそんな感覚は平民感覚らしくて、貴族社会では多いほうがいいって感覚なんだとさ。

大臣たちが、国のなんやかんやを決めてる王城や、王族やその愛人が住んで子作りに励む王宮の中では特にその傾向が強くて、名前が1つしかない彼女は居心地が悪いみたい。

彼女は1つだけだから、平民だね。


私は、気にすることないよ。平民だからなんだよ。前世の私はド平民だよ!

そんな思いで励ましてあげると知りたくない事実が次々出てきた。


「あの、ルクレーシャ様のお母君は平民でいらっしゃいます」

知ってるよそれ。聞いたよ、覚えてる。

「だから、ルクレーシャ様のお名前は2つです」

知ってる、知ってる。くどいよ君。

「そんなルクレーシャ様の侍女は平民で十分だと侍女長が・・・」

ん?なんか様子がおかしいぞ。

「私は8歳です。普人は10歳ぐらいからしか魔法を使えないのに。私は物心つく頃には自然に使えていて・・・。それに一万人に一人と言われる希少な魔力干渉魔法使いでもあります。普人が魔法を覚えるのに必要な魔力感知の魔法も使えます。

しかも魔力量が多いらしくて・・・。家族のいなかった私は村長に『王城の魔法使いがお前を珍しいと欲しがっているぞ』と売られて・・・その方は高齢で私が到着した頃には亡くなっていて・・・。

そんな私を、侍女長ベリンダ様が見咎みとがめて、たった一週間の侍女教育でルクレーシャ様の侍女になったのです。

112人目の、平民との間に生まれた子など、王位継承争いに巻き込まれてすぐに死ぬだろうと。だから、平民のメスガキで十分だと・・・そう仰られて」

え!なにそれ殺されるってこと?112人って多すぎでしょ。そしてグリゼルちゃんチートキャラなの!


そこで思い出す侍女長の不穏な言葉。

『先程は一生、と言いましたが、そう長くはないでしょう・・・』

あれって赤ちゃんに夢中で上司を無視する少女への解雇宣告じゃなくて、私への死亡宣告だったの!



まさかの展開に動揺するも、私は眠ることにした。

だって私、赤ちゃんだし、そんな長い間起きてられないよ。

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