京都大学は燃えているか? ~とある京大生の独り言~

鷹司鷹我

とある京大生の独り言

京都大学の現総長は、霊長類研究者である。早い話、ゴリラとかチンパンジーを研究している。


この京都大学は、10%ばかしの天才と、20%ばかりの常人。残りは40%程の勉強が出来るゴリラと、30%の悪知恵の働くチンパンジーで構成されているので、正直な話、霊長類学者が総長というのは、至極適任であるように思われる。

というか、適任である。


もし彼以外の、そう例えば数学者や物理学者、経済学者のような、机上で空論ばかりを押し並べる人物がこの大学の総長になどなっていたならば、きっとこの大学は今頃、ゴリラやチンパンジーが暴れ回る、統制を失った世紀末さながらの紛争地帯として国土地理院の制作する地図、そのレッドリストに載ることとなっていただろう。それに関しては少しの疑問もない。


訳のわからない専門用語をこれ見よがしに独り言する変質者、時代錯誤の和服を着て自分が古風であると勘違いする学生、なぜ入試を突破できたのか疑問になるほどにケバいギャル、眼鏡をかけたチンパンジー。そんなとても“普通”とは言いがたき者共が跳梁跋扈するこの京大であるが、しかしその光景はある意味、現総長の手腕によって辛うじて保たれていると言っても良い。

霊長類の研究に人生を賭けていた彼だからこそ、京大生という名の、ゴリラからホモ・サピエンスに進化できなかった阿呆共を統率できているのである。


そんな総長であるが、まあ統率者の常と言ったところで、学生達には基本嫌われている。


自由な学風に憧れ入学したのに、蓋を開けてみればそこに広がっていたのは、自由とは縁遠い総長による支配世界。

何をするにつけても『許可を取れ。許可を取れ』。そこにあったのは、学生の自治など存在しない、京大生監視小屋と言う名の、ただの霊長類の檻小屋のみ。


サークル勧誘のための立て看板を路上に置けば景観条例の名の下に撤去を命じられ

ビラを配れば教授達からの迫害を受け、

街頭演説をすれば講義の邪魔だと退去させられる。

あぁ、悲しきかな。京大の自由な学風は一体何処に行ってしまったのか。


夢と希望に胸を膨らませていた多くの学生達の胸は、現実を直視したことにより、夢と希望の代わりに鬱憤を溜め膨張し、“ぱぁんっ”と子気味の良い音を立てて破裂した。


しかしてこれが現実である。

と言うよりも、以前の京大の方が異常であったのだ。


景観条例を無視した立て看。明らかに条例違反である。

誰に配るのかと聞きたくなる量のビラの山。紛れもない環境破壊である。

正門前で行われる街頭演説。いや、普通にうるさい。講義の邪魔である。


現総長の手腕。それにより京大はようやく、チンパンジーの巣窟からホモ・サピエンスの殿堂へと姿を変え始めていたのだ。総長閣下の努力の賜物である。


しかし、それを良しとしない学生達も当然存在する。

彼らは一致団結し、総長に戦いを挑んだ。


彼らは現在の総長による『京大生補完計画』を権力の横暴であると批判し、今の状況を某怪獣映画の題名になぞらえて『シン・ゴリラ』と呼んだ。現総長がゴリラ研究の第一人者である事を踏まえた秀逸なる命名である。

しかしそれだと我々京大生はゴリラと言うことになってしまわないか? 我々など、眼鏡をかけたチンパンジーが関の山だろう。


こうして始まった、“学生”対“大学”の不毛なる争いは苛烈を極めた。

具体的には、立て看板の設置と撤去の応酬、ならびに大学側を批判する内容のビラのばらまき、および街頭演説。そのほかにもエトセトラ。

昼休みが訪れる度に正門前で大学を批判する内容の演説が行われ、それを面白がる者達によって人で溢れ返り、怒号飛び交うお祭り状態。

京大近くの吉田神社におわします神様はきっと、苦笑いを浮かべておられることだろう。


だがしかし、事態はさらに加速する。


歴史だけは異常に重ねた某オンボロ寮。その取り壊しと、それに反対する寮生達による寮の占拠。全国ニュースでも話題に上がったこの事件は、京大生は斯くたるやという姿を、全国のお茶の間に笑いと共にお届けすることとなった。

勘違いしないで欲しいのだが、全ての京大生があんな感じであるわけではない。それだけは念を押しておく。京大生の殆どは、無害なチンパンジーである。バナナでも放り込むと良い。きっと喜んでがっつくだろうから。


さて、現在の京都大学というのはこんな感じであるわけで、この先この異常なる大学がどうなってしまうのかは、この私にもわからない。


もしかしたら、現総長の推進する『京大生補完計画』が成功し、京大は至極真っ当で平凡な東大のような大学となるかも知れないし、もしかしたら、学生達の反乱勢力がこの戦いに勝利して、かつてのような無秩序で自由な京大、もしくはアフリカのサバンナのような、理性無き野生動物たちが暴れ回る弱肉強食の世界が戻ってくるのかも知れない。


正直な話、これを書く私は別に、そのどちらになってもどうでも良いと思っているのだが、しかし一つだけ。一つだけ、思っていることを言わせて欲しいのである。



『こんな大学さっさと動物園にしちまえ』と。

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京都大学は燃えているか? ~とある京大生の独り言~ 鷹司鷹我 @taka1gou

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