糀谷 祐希(コウジヤ ユウキ)の場合③

占い当日約束の7時少し前に到着した。


本当はもっと余裕を持って着く予定だったのに、帰り際にバカ課長が、用事を言いつけてきたため、ギリギリになってしまった。


少し息が切れていたが、ビルに入るとエレベーターがあり、5階に部屋があると書かれていた。


エレベーターの中で息を整え、深呼吸をしたところで、ドアが開いた。


想像では、なんかインドの寺院のようなきらびやかな部屋(かなり偏ったイメージ)かと思ってたが、ただのオフィスビルの体裁で、少し廊下を歩いた一番奥にその部屋はあった。


ノックをすると中から返事があり、ドアがゆっくりと開いた。


「あ、予約した糀谷です。」


出てきたのは、割とカジュアルなパンツと短めのジャケットを羽織った見た目三十代(私より少しだけ年上?)の女性が出てきた。


「初めましてミリヤです。」


正直驚いた。


全然占師らしくない。


その辺を歩いていればなんのオーラもない、OLに見える。


いや、最初ドアを開けてくれた時は占師の秘書かなにかと思ったくらいだ。


「メールで大体のことはお聞きしてます。どうぞお座りください。」


物腰も柔らかく、所謂いわゆるマンガやテレビに出る有名占師のような威圧感も全くない。


勧められて座るとミリヤさんは少し奥にある丸見えの台所でお茶を淹れ出した。


さっきよりは少し大きめの声で


「こちらはなんで知ってくださったの?」

「あ、えーと友人の勧めで。」


「あら、そう。ご友人がいらしたことあるの?」

「あ、いえ、友人とは別の知り合いにこちらに来たことがある方がいて、友人はその方に当たると聞いたと言って私に勧めてくれました。あ、ややこしくてすみません。」


「あー、要は誰かこちらにいらした方が話を広めてくれたのね。」


これ以上説明するとややこしいので、イエスと返事をした。


お茶を二人分淹れるとそれを持って席に付いた。


言ってはなんだが、座った机もただのテーブルに白いクロスがかかっているだけで、普通に人の家に来た感じだ。


「あ、今、なんか殺風景、とか思ったでしょ?」

突然の指摘に慌てた。


「やっぱ、当たりね。」

そういうとミリヤさんはケタケタと笑った。


「大抵初めて来る方は皆ほとんど同じ反応ね。そして次は少し不安な顔をするのよ。」

「…?」


「本当に当たるのか不安になるってこと。」

「あー。」


思わず声を上げてしまった。


また、ミリヤさんはケタケタと笑う。


「そりゃそうよね。ちっとも占師ぽくないし、雰囲気も無いし、これで40分で5000円も取られるんだから、不安になるわよね。」


正直今言われて不安になった。


「さて、前置きはこのくらいにして、本題に入りましょうか。」


彼女は席の横の引き出しからタロットカードを取り出した。


聞いた通りタロット占いのようだ。


彼女の目つきが変わり、無言でカードを並べて出し、いくつかをめくって、残りのカードを傍らに置いた。


「あなたの付き合った男性は5人、一番最初は高2の時ね。相手は…他校の男子で、あ、でも付き合ったのは2週間くらいで、はかない初恋に終わったのね。」


驚きのあまり声が出なかった。


同時に背中に一筋の汗が伝った。


「次は二十歳の時、この彼はいわゆる『初めて』の男性ね。こちらは一年近く付き合ったけど、彼から別れを切り出された。」


そのあと残り3人との成り行きも全て正確に答え


「あ、つい最近も付き合いそうになって…でも相手から断られた人がいるわね。」


正直もういいです、と言いそうになった。


驚きを通り越して過去の苦い思い出が次々蘇り、不快な気持ちになっていた。


「あ、ちょっと不快な気持ちにさせたわね。ごめんなさい。一応すべてを辿たどっておかないと、次の策が立てられないからね。」

「次の策?」


思わず聞き返してしまった。


なんか占いというより、コンサルに仕事の戦略を立てられているような気分になった。


「そう、恋愛もビジネスもある意味戦略が必要、そのためにはまず己を知ること。次に相手のことを知ること。それを元に策を立てて、あとは実行する。」

「そういうもの…ですか。」


「そういうもの…よ。」

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