伊村 梨花(イムラ リカ)の場合④

翌日


「課長少しよろしいですか。」

「お、ええ、大丈夫ですよ。あちらにいきましょうか。」


そう言うと課長は先導して会議室に向かった。


「で、思ったより早かったですが、結論は出ましたか?」

「はい。」


「聞かせていただけますか。」

「はい。今回のお話…。」


「……。」

「謹んでお受けします。」


「そうですか。やってみてくれますか。うん、ありがとう。」

「あ、いえ、お礼を言うのは私です。」


「いや、よく、決断してくれましたね。正直五分五分と思ってたのですが、思ったよりお返事が早かったので、ダメかとも思ってました。」

「本当に悩みましたが、これも何か自分の運命か、とも考えて思い切って挑戦してみようと思いました。」


「そう言っていただけてよかったです。では、早速本社に連絡をして来月人事発令をして再来月から西支店に赴任の方向で調整しますね。」


そう言うと課長は嬉しそうに会議室を後にした。


緊張がフッと解けて、会議室の椅子からすぐに立ち上がれなかった。


本当にこれでよかったのか…一瞬戸惑いを感じたが、すぐに気を取り直し立ち上がって会議室を出た。



「梨花ちゃんお昼行く?」

「あ、はい、行きます。」


いつものように浮田さんから声がかかった。


「あ、私も。」


大塚さんがついてくる。


日常の風景。


二人がいつも通りおしゃべりをしながら、エレベーターホールに向かう背中を見ながら考えた。


ここから定年まで20年、今まで自分の選択肢にはなかった"仕事"を真面目にやってみるのもいいかもしれない。


「梨花ちゃん…。」


考えごとをしていた私に浮田さんが声をかけてきてハッと我に帰る。


「あ、はい。」

「なんか、今日…顔がキリッとしてるわね。」

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