167,ここが私の新しい街

 土産物を買って郡山駅を発ってから1時間経過。どの辺りまでが地元かと心に問いかけたら、新幹線の駅では福島県の南端にある新白河しんしらかわまでだと思った。


 ならその先はまるで別世界かといえば、そうでもない。埼玉県までは田園風景、住宅地、まあまあ栄えた街の繰り返し。福島県から上京する際、埼玉県に住む人は多いけど、私は敢えて神奈川。知っている人のいない場所が良かった。


 大宮駅を出た新幹線は、夜の街をゆっくりゆっくり、緑の在来線電車と並んで東京方面へ向かう。いつの間にか在来線と分かれて大きな川を渡ると、薄暗い街から一転、やたら眩しい街に入る。


 そう、東京だ。


 めっちゃわかりやすく東京に入った。東京には何度か来ているから、景色はいくらか覚えている。ここは赤羽あかばねっていう、呑んだくれとかそういう感じの人が多い都内でもディープな街らしい。


 茅ヶ崎の赤羽根あかばねは飲んだくれどころか人っ子一人見ない田畑と森だったな、そういえば。


 車内チャイムが鳴った。まもなく上野。


 田舎っぺが東京に来てよく思うこと。


 電車が多い。


 窓から景色を見渡すと、下に何本もの線路が同一方向へ伸びている。10両編成以上の電車が並走して、擦れ違ってを頻繁に繰り返す。


 なんとそれらが全部、東北本線。


 郡山も通ってる、郡山では長くても6両、短いと2両の、あの東北本線。


 いや東北本線だけで線路何本あるんだよ。東北本線はその辺の田んぼでも走ってろ。それが東北本線だろ。


 きらびやかな街、妖しい看板、飲み屋の看板。高層ビルは意外と少ない。まだこの辺は。


 でも、全然違う世界に来ちゃったなぁ。


 私、これからここに住むのか。


 違うか。茅ヶ崎はそこまできらびやかじゃない。




 でもずいぶん、遠くに来ちゃったな。




「えーと、10番線10番線……あ、あっちは東北本線か」


 東京駅に着いて人混みの中、エスカレーターを降りて新幹線改札口を出て、新幹線ホームの隣下にある東海道線ホームに上がった。その隣はお馴染みの東北本線。


 雑踏、人の声、電車の接近を知らせる単調なメロディー、電車の走る音、止まる音、電車や駅の空調音、霞んだ空気。


 東京は初めてじゃないし、仙台にも行ってるから免疫は付いてきてるけど、やっぱすごいや東京。


 えーと、荷物が多いときはできればグリーン車に乗るといいって、沙希ちゃんが言ってたからグリーン車に乗ろう。首都圏の中距離電車は普通列車にもグリーン車が付いている。東北本線にも。


 電車の座席の上にある棚は、立っている人がいるときは立っている人のためのもの。座ってるのに荷物まで載せやがって自己中がってなったり、置き引きされるリスクがあるのは普段西線さいせん以外の電車に乗らない私でもわかる。立っている人が荷物を置けないのはどちゃくそキツい。お金に困っている人や盗癖がある人もいる。


 でも、グリーン車なら座っていても棚に荷物を置いて問題なかろう。そのためのグリーン車でもあるべした。グリーン車は2階建てで、棚があるのは車端の平屋部分にある小さな客室だけなのは、前回学習済み。


 ホーム上のグリーン券売機にICカードを置いて、路線、行き先の駅のアイコンをタップ。券売機と言いつつ券は出ず、ICカードにグリーン券情報が記録される電子チケット式。紙の券は売っていない。


 重たいバッグを右肩に掛け、土産物の手提げを左手に吊るして待つこと10分弱、やっと電車が来た。東京ここが始発駅ではないらしく、上野方面から客を乗せて入ってきた。


 車端の平屋席は窓側、通路側合わせて8席あって、一人だけ座っている。


 良かった、空きはある。


 私は進行方向右側の後列席に座った。残り2つの前列窓側席も埋まった。


 広い線路の両サイドに高層ビルという東京らしい車窓が品川しながわまで続き、その先も明るい街並み、ちょっと暗くて不気味な古い家がぎっしり並んだ街並みを、横浜よこはままで繰り返した。


 前回来たときも思ったけど、意外なことに山間部を走るのは日本一人口が多い市である大都市、横浜の辺りだけだった。けど山の斜面には家がぎっしり。


 その先も住宅地、賑やかな街の繰り返し。田園風景はほぼなく、ずっと街が続いている。


 栄え過ぎだろこれ……。


 東北本線だって、栄えている仙台とか大宮でも北へ走ればすぐ田園風景になる。


 明る過ぎて死ぬる……。


 目眩がしているうちに藤沢駅に着いた。いろんなアニメに出てくる聖地オブ聖地。


 藤沢を出て、前回沙希ちゃんたちといっしょに行ったショッピングモールがある辻堂、そしていよいよ、茅ケ崎駅に着いて、電車を降りた。


 両親が好きなサザンの『希轍の轍』が響く駅。


 ここが私の、新しい街だ___。

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