52,謎の手紙

 4月中旬の温かな風が心地よい朝、教室の机の中に茶封筒が差し込まれていた。


『フルーシのかおりがするゆめのような女子へ』


 封筒には筆ペンらしき筆跡でそう書かれていた。


「なんだこの汚い字」


 ワイワイガヤガヤ騒がしい始業時間直前、天使のようなに清らかな私の声は誰にも届かず、独り言を聞かれずに済んだ。


 もしかしてラブレター?


 だとしたら他の誰かに見られると差出人のプライバシーを侵害してしまう。私は1時間目と2時間目の間の休み時間、自販機コーナーで糊付けされている封を剥がし、わら半紙に黒鉛と粘土を混ぜたもので書かれた文を読んだ。中身は筆ペンじゃないんだ。


『ジャスティスワールドの神にならないか?』


 それだけ書き殴られていた。


 は?


 率直な感想。


 正義の世界のゴッド? なんのこっちゃ。てか誰よこの手紙書いたの。


 とりあえず、ラブレターではない。


 これは自分で判断しちゃいけないやつだ。ただのイタズラと思って放置すると、とんでもないことになる恐れもある。直接的には伝えにくい想いを秘めた比喩ひゆ表現かもしれない。


 こういう文学的表現については、まどかちゃんと自由電子くんに訊いてみよう。

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