38,サーフィンで遅刻!

 朝練を終え、シャワー室で身体を綺麗にした。その間に昇降口にはクラス表が貼り出されていた。学科別に毎年クラス替えが実施される湘南海岸学院。


 なんてこった、私は今年も最下位クラスの15組だった。特別進学クラスのまどかちゃんと翔馬は3組、武道は普通科の5組、2年生になった自由電子くんは進学にも就職にも対応した厳しいカリキュラムが組まれる特級クラスの1組。


 1組では一流大学への進学もしくは一流企業、中小でも高度な技術を持っているか特異なことをやっている企業への就職を見据えている。その日暮らしの私には訳のわからない世界。


 そんな雲泥の差がある泥の15組では、クラス替えをしたというのに昨年度とほぼ変わらない面子が揃っていた。見るからに不潔で教養のないギャル、アコースティックギターを弾く茶髪男、見た目は普通だけど常用漢字も読めない残念な子など。私は漢字こそ読めるけど、理系科目が壊滅的で0点も何度か取っている。仕方ない、人には得手不得手がある。


 何が気に喰わないって、同じクラスに陸上競技部の雑魚男子2人組がいないことだ。なんでアイツら13組なんだよ。


 9時、始業のチャイムが鳴った。しばらくしても担任が来ない。これも慣れたものだ。今年も担任はあの人ということだろう。


「イエーイ! グッドモーニングエブリワン!」


 9時5分、前側の鉄扉がリニアエンジンでスーッと開き、そこからウエットスーツを着たポニーテールの女性が現れた。身長155センチ、凹字型のおしゃれな赤縁眼鏡を掛けている。この教師、出勤前のサーフィンが日課になっている遅刻の常習犯。


 見慣れた姿に多くの生徒が「グッドモーニング!」、「また先公が遅刻だよ!」などとゲラゲラ言葉が飛び交う。ほぼ中央の席に座る私は頬杖をついて黙っている。


「はいはいどうも。引き続きの人は今年度もよろしく、初めましての人はこれからよろしく。3年15組担任、現代国語担当、門沢かどさわまみ子と申します。ところでいま、また先公が遅刻かよって言いましたね大山おおやまくん」


「おーう! 言ったぜー!」


「ではここで、現国教師らしい教養を一つ。『遅刻』という字は時刻に遅れるという意味だが、この貴重で尊い言葉、誰も遅刻しなくなったら風化して忘れ去られちまう。だが君たち生徒が例え1回でも正当な理由なく遅刻した場合、一生を棒に振りかねない。では誰がこの言葉を守るか? 先生しかいないでだろう。守秘義務があるから詳しくは言えないが、先生は校長の弱みを握っているから簡単にはクビにならない。そんな恐れ知らずの私だからこそ、守りる言葉がある! 減給をされてでも守るべき言葉があるんだ!! さぁみんなも、この日本という言葉の豊かな国に生まれたからには、共にその良さを学んでゆこうではないか! ということで1年ヨロシクぅ!」


 総理大臣のような迫力ある身振り手振りを交えた演説だったけど、言っていることは愚の骨頂。マミちゃんが遅刻しなくても、遅刻する人は世界中にいる。


 最終学年だというのに担任から破綻しているこのクラスで、私の大事な、本当に大事な1年が幕を開けた。

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