鑑識の鋏塚君の事件ファイルNo.6『蕎麦と黄身との間には?』

鑑識の鋏塚君の事件ファイルNo.6

『蕎麦と黄身との間には?』Page one only

 ある雨の厳しい日のことだった。『蕎麦屋 海野<ウンノ>』で食事をした客が、その後に急激に体調を崩してその後死亡してしまう事件が起きた。殺人事件の可能性も否定できなかった為、遺体は司法解剖にまわされることとなった。

 亡くなったのは、『蕎麦屋 海野』の常連客だった【吾妻坂 和重<アガツマザカ カズシゲ>】であることが判明した。 彼は長年の常連客である一方で店主の生まれる前の先代【佐々岡ヶ原 友梨<ササオカガハラ トモナシ>】の時代の頃からの常連客で、今現在の店主【佐々岡ヶ原 友有<ササオカガハラ トモアリ>】とその従業員【道寺 宗司<ドウジ ソウジ>】からとても煙たがられていたようで、

「吾妻坂さんは地元の名士だから邪険にできないんですよ。」と店主が言っていたと入交さんが従業員からの聞き込みから引き出した証言を初値ちゃんから手に入れた。

「ありがとな。初値ちゃん。」

「いえ、それほどの情報ではないと思います。」

「どうして?」

「蕎麦屋 海野で吾妻坂 和重に殺意を抱く可能性があるのは今の店主とその従業員位しか殺意を持ってそうな人居ないじゃないですか!被害者はこの店以外のことにはとても寛容的で人柄も優しい人だったという証言がありました。どうやら付近とその周囲の住民から得た評判とかなりこの『蕎麦屋 海野』に関する被害者の感情的な思い入れはかなり並外れた期待というものがあったと仮定するべきではありませんか?」

「そだねー。その場合は何が死因となったか?だね。」

「うん♪鋏塚さん頑張ってね♪」

 俺は現場に入り被害者の食べた者に付着した『蕎麦』を採取した。何かの役には立つだろう。とそこへ、

「おう!鋏塚君久しぶりじゃないか。初値から聞いたぞ。」

 入交さんが元気よく呼びかけてきた。

「何をですか?」

「鑑識の鋏塚君が刑事まがいのことをしてるってことをだよ。」

「ハハッ。初値ちゃんも人が悪いなあ。」

「まあ、半分冗談だ。ところで今何を採取した?」

「蕎麦です。」

「被害者はその蕎麦を食べたのか?」

「はい。」

「不愉快そうだったか?」

 何か意図のある問いなのだろうと思いつつ知り得たことを話した。

「新たに得た証言では不愉快そうだったのは店主の方で、被害者は悲壮感すら漂わせていたそうです。」

「ふむ。被害者の卵アレルギー体質を今の店主は知っていたのか?」

「被害者が強い卵アレルギーの持ち主だった可能性があると?」

「そう考えた方がしっくりくる。食物アレルギーについて知っていると見た。」

後日、被害者の吾妻坂が強い卵アレルギーの持ち主であることがわかった。入交さんの言うとおり被害者の食物アレルギー体質が判明した途端に店主に諦めムードが漂い始めた。

「あの爺に蕎麦に卵の黄身を溶かして混ぜてやったのさ。アナフィラキシーショックで死ぬかも知れないだろ?」

「だとしたら救いようがありませんね。あなたはお客様に食べさせてはいけない品をだし、死亡の要因となる行為をしたのですから。あなたは料理人失格です。」

「あの爺が先代気取りでごちゃごちゃ五月蝿いから葬ってやっただけだ!それをあんたはなんの理由があってものを言うんだ?」

「あなたが憎かったらはじめから被害者の吾妻坂さんは地元の名士、つまり有力者で権力者でもあったわけですから、この店を潰すくらい雑作もなかったでしょう。しかし、それをしなかったのは何故か?吾妻坂さんは佐々岡ヶ原 友有さん、あなたに才能があるからこそ、あなたにあれやこれや口を出していたのでしょう。しかし、あなたは真意に気づくことなく逆恨みし、犯行に及んだ。違いますか?」

「ああ、あんたの言うとおりだ。あの日爺はいつもどおりに蕎麦を注文した。その蕎麦に卵を練り込んだ。明らかに蕎麦じゃねえのにあの爺は淡々と蕎麦をすすって『さようなら』って言って帰った。その時は狙いどおり上手くいったと思ったけどよ。ホントのこと知ったら俺のしでかしたことは救いようがねぇ。あんたの言うとおり料理人失格だ。やったのは俺だ。従業員の道寺は無関係だ。調べたらわかる。」

後日、司法解剖の結果が出て死因が卵アレルギーによるアナフィラキシーショックが主な死因であることが特定され、捜査の過程で従業員の道寺 宗司は無関係であることが判明した。店主の佐々岡ヶ原 友有は殺人の容疑により逮捕された。


まったく因果な事件だった(つづく)

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