記憶を失った鬼の子
トチ
第1話 手がかりを探して
夕日が沈む頃__ オレンジ色の太陽が綺麗に輝いている。
土の匂いがする。わたしは段々畑の中に立っていた。
この風景を見ていると懐かしい気持ちにさせられる。
初めて見る風景だというのになぜなんだろう。
周囲には人影が無い。静かな田舎の風景だ。風が涼しい。
下に小屋がある。行ってみよう。
ガランッ
歩こうとして何かに引っかかった。
足元に何かが転がっているのに気づいた。
刀だった。こんなところになぜあるのだろう。
手に取って刀身を抜いてみた。その時に違和感があった。
反射して写る自分がいた。
自分を観ていた。ジロジロと見ている内に気が付いた。
何か顔についていたとか。顔色が悪いとかそういうことじゃない。
”この人は誰なんだろう。”
わたしはわたしを知らなかった。
しばらく思考ができないでいた。自分が何者なのか理解できないことなんてあるだろうか。目を凝らしたりジャンプしたり地面に伏せったりした。刀を何度も眺めてみた。自分が着ている着物の裏地も確認した。けれど一向に記憶のようなものが居りてくる気配がしない。何もない。頭の中にあるのは空っぽだった。けれど思考は出来ている。不思議だった。自分はどこかで何かを学んでいるし経験している。それなのに記憶がいっさいない。
小屋に行こう。どれだけ頭を捻ってみても記憶が絞り出てくることが無かった。小屋にいる人に聞いてみよう。簡単なことだよ。きっと自分はこの村の住人で、記憶喪失にでもなってしまったのだろう。そうして、何日か経った後には記憶は元通りになっているはずさ。
薄暗い小屋だった。考えている間に太陽も消えてしまっている。ランプもない。家具もない。農具もない。生活感が感じられない。まるで外から眺めたときに小屋として機能していればいいかのような粗雑さがある。
ここには何もないのかもしれない。もっと道を下れば家が見つかるかもしれない。下ってみよう。
ビロンッ_________ビロンッ____
琴の音が鳴った。どこからか音がする。家で弾いているのだろうか。誰かいるかもしれない。
暗くなっているので分かりづらかったが、田んぼや畑が広がる中に住居が何か所かある。
すべての家に明かりがついていない。
勝手に入って怒られても嫌だから、声をかけてみるか。
「あの、すみません。夜分遅くにすみません。」
家に対して語り掛けても返事はかえって来ない。次の家でも聞いて回った。返事はない。次の家でも、、、一向に返事はない。
そうして困っている内に眠くなって意識が薄れていった。そういえば、琴を弾いている家はどこに会ったのだろうか。
ビロンッ___
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