もやもや


 このときの温度上昇、57℃。


 答案のラストに数字を書き入れると同時に、チャイムが鳴った。私は嬉しさが弾けてシャーペンを手放す。

 テストを順調に終えられたというのもあるけど、何より。


 伸びをしながら窓の外を眺めると、久し振りに快晴の空が待っている。

 雲は無く、太陽が燦々と輝いている。世界中の清々しさを集めたような真っ青な空に、澱みがちだった私の心も、爽やかな色を取り戻していく。


 数日ぶりに、跳べる。




 学食は体育館の下にあって、校舎からは渡り廊下を歩かないといけない。その途中、窓から、校舎の非常階段に立つ二つの影を見かけた。


 広大と坂井凛。私の脳内の別々のカテゴリにあった二人が、普通に話し合っている。

 なんで? どういう接点? 私はその様子を見つめる。一方はいつも通り砕けた感じの笑い方で。もう一方は、珍しく神妙な表情で。あ、二人とも笑った。


 こう見たら、美男美女、目立つ者どうしのぴったりなカップルみたいだ。ちょっとしゃくだけど、客観的にはそうだからしょうがない。

 広大はふっとグラウンドの方を向いた。坂井は口元をむずっとさせていて、なんだかいつもの元気がない。どこか、ドラマのワンシーンの撮影みたいに感じる。


 お似合いなんだ。


 心にもやっとしたものが疼き、すぐにハッとする。広大は再び坂井に向けて笑っている。気にするな、と口が動いているように見え、坂井はしおらしく頷いた。私はそれ以上見てられなくて、涼しげな顔を作って歩き始めた。

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