離せない物
お母さんが亡くなってしばらく、私はほとんど何も喉を通らなくなっていた、
食べ物を口に運ぼうとする度、手が止まった。それでも無理矢理食べようとすると、すぐに吐いてしまった。
飲むという行為は大丈夫だったから、飲み物と、おばさんが作ってくれた野菜スープとでなんとか毎日をやり過ごしていた。カウンセリングを受けたが、それで治るという訳でもなかった。
ある日、唐突に私の食欲が戻った。
なぜか、無性に、カップ麺が食べたくなって。
毎食、必ずカップ麺を欲した。カップ麺があれば他の物も食べられるようになった。しかもゆでる麺じゃダメで、ふたと容器の付いたカップ麺に限るから、外食もできなくなった。
朝も当然カップ麺が必要だ。でも最近は便利で、ミニサイズのカップ麺もあるから、あっさり目のミニうどんを食べている。
だけどカップ麺が無ければ、食卓に並ぶ食べ物を見るだけで気分が悪くなった。いや、正確には、「周りの物が麺状に見えてしまい、食べるどころではなくなる」。
ペンやケーブルのような細い物なんかが、うねうねと麺のように蠢く。
それはご飯のときに限らず、お母さんのことを考えているときや、カップ麺を手放せないかと考えているときなんかにも現れたりして、極力考えないようにするしかない。
おばさんは私に無理を言わない。だけど一度だけ、校外行事のとき、色々気にしてかお弁当を作ってくれたことがあって、結局私は食べることができずに帰宅した。
そのことを話したとき、おばさんは寂しさといたわりの混じった目をしていた。私は振り切って、部屋に籠った。どうしようもなくて、その日は布団に顔をうずめて泣き続けた。
今の私の生活は、炭水化物のほとんどが麺という状態。しかもカップ麺。
坂井にも言われたけど、よく体を壊さないな、とは自分でも思う。
もしかしたら、お母さんに似て、体は丈夫なのかもしれない。
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