杏がいたから
後から聞いたら、杏は私の計画に薄々勘付いていたらしい。恐らく、上手く進んでいないだろうことにも。
「だけど、私は奈穂を信じていたから。本気出せばできるはずだって」
過大評価だよ、と私は照れ臭く笑った。電話越しに、彼女の笑い声が重なる。
「そうだ。奈穂、この前言ってたよね、どうして私だったのって。たぶん指揮のことだと思うけど」
「うん」
「奈穂じゃないとダメだったんだよ。亜純が指揮ならきっといつか反発する人も出てきたし、私はあのメンバーの実力を踏まえて、学年に一人しかいないチューバを辞めることはできなかった。
……いや、違う、奈穂にやってほしかったんだよ。奈穂が前に立ったら、みんな一緒に頑張ろうって気になれるし、不思議なくらい気持ちが合うんだ」
仲の良いバンドですね。
元々仲が良いメンバーだし、そういうものだろうな、と思っていた。息が合っていれば多少下手くそでも聴ける演奏にはなる、だから私は指揮者としてそれを崩さないようにしたいな、と苦心してきた。
私のおかげでもあったんだ。
「奈穂が指揮ならそんな音楽を作れると思ってたよ。指揮者、やってくれてありがとうね」
うん。そして、ううん。
あのとき、杏がいてくれたからだよ。私、指揮者になれて本当に良かった。
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