奈穂の決意


 三日後、練習前の地学準備室にみんなを集めることにした。


「奈穂、集まったよ」


 亜純が声をかけてくれる。一番人数の多いクラリネットパートが集まって、部屋に全員が揃った。

 ここは物理実験室より少し狭いから暖房がすぐ効くのだろう、体の温まり方に、久し振りな違いを覚えていた。ここのところずっと物理実験室にいたんだな、と改めて思った。


「はい、じゃあみんな、奈穂から話があるみたいです」


 杏の声でざわめきかえっていた室内が静まり返り、みんなが前の方に集まってきた。やっぱり杏の統率力は本物だ。私は、いつだって憧れる。きっといつまでだって憧れる。


「はい、指揮の岡田です。ずっと気になってたかもしれません、アンコールの件です」


 だけど、私は私。絶対、私なりの姿があるはずだから。


 私は、封筒から紙の束を取り出して、各パートの代表者に手渡していく。

 手元が軽くなるごとに、新たなざわめきが生まれて、どんどん大きくなっていく。


「奈穂、これ……」


 杏が私の手元に残った紙束を覗き込む。

 白い紙の表面には、私の手で書かれたいくつものオタマジャクシが踊っている。




 曲のタイトルは「芽吹きの時に」。

 その文字の右下には、「作曲 岡田奈穂」と署名を入れていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る