第5話 フィオネボディと狂気の鴉①
「出迎えはいいって言ったんだがな」
「いえ、それくらいはさせて下さい。命の恩人との最後の別れになるかもしれませんから」
日が昇り始めた早朝。装備を整えたクオンとミナリは村の入り口前に立っており、そして彼らを見送る佐竹の姿があった。
「気持ちは分かるが、あまりネガティブに捉えるな。『言霊』って言ってな、口に出したことは案外自分に帰ってくるもんだ。良くも悪くもな」
「はは。そ。そうですよね。なんだか最初から最後まですいません」
「佐竹はん、最後やないやろ。今、クオンはんに言われたやんか」
「はぁ、面目ないです……」
二人に論されて、ポリポリと頭をかく佐竹。先ほどまでは不安の表情を浮かべていたのだが、二人との会話で若干の笑みを見せて落ち着いていた。
「それよりも足は大丈夫か?」
「まだまだ治りそうにないですね。昨日今日の事なので。ですが、むしろ戸谷少尉の方が深刻ですね。昨晩に体調を崩されたらしく、夜の会議もなし、夜の食事も喉が通らないらしく、今も医務室でうなされていますよ」
「あいつ、俺たちの部屋に来たときは……」
彼女の事だから無理してでもここに来てしまうと思っていたクオンだったが、佐竹の言葉から心身の傷が相当なものだと思い知る。
「ずいぶんとしんどいはずやのに、昨日の夜はうちらの所に来てくれたんやなぁ」
どこまで行っても不器用すぎる、そして弱すぎる。クオンは表情や仕草では出さなかったが、心の中では呆れてため息をついていた。
「お前らもそして本人もわかっていると思うが、あいつはリーダーには向いてねぇ。使命感や義務感を掲げているが節々に破滅願望が見え隠れしてる気がするよ」
「はは、わかっちゃいますよね。昔からそうなんですよ」
佐竹も気まずそうに、苦笑いを浮かべながらそう返していた。
「俺たちも、目的を果たしたらちゃんと戻ってきてやる。だからこれまで以上に戸谷少尉を支えてやってくれ。じゃあな」
クオンは、佐竹にそう告げるとそのまま彼に背を向けて歩き出した。それを見てミナリも彼に付き添うように歩き始めた。
「ほなな、また」
ミナリは彼に向けてウィンクしながら手を振った。
彼らの言葉に励まされた喜び、そして本当に会えるかも分からない不安。様々な感情が佐竹に押し寄せる。しかしながら、二人の去るその姿を見ていた彼の瞳からはうっすらと涙が浮かんでおり、自然と敬礼のポーズを取っていた。
★★★★★★★★★★
「さて、クオンはん。これからどうしましょか?」
「そうだなぁ」
佐竹との別れから40分ほど、先ほどまでいた村はもう見えなくなっており、彼らは平原を歩いていた。
クオンは事前に佐竹からもらっていた地図を広げて、目的の東京の位置に目をやっている。だが地図から見て取れる現在地と東京間との距離は、なんとおよそ600km。途方もない距離であったのだ。
その問題を踏まえて、クオンは初めにやるべきことをミナリに返答した。
「とりあえず足が必要だよな」
「確かにそうやな」
『言わずもがなですね。このペースだと22日12時間31分はかかるでしょう』
全員がそれをわかっており、フィオネもデバイス越しに正確な到達時間の予想を語っていた。戸谷少尉が語っていた通り、歩きだと20日以上はかかるのは本当のようだ。
「そして否が応でも『トラツグ』って奴らとぶつかる気がする。直接戦闘要員が二人だと、ちと心許ないよな」
意味深な言い回しをするクオンはチラッとミナリの方向を向いた。するとクオンの思惑に察したのか、ミナリは自分の服をまさぐっていた。
「Drメロンはんに連絡します?」
謎の人物の名前を言いながら服の中から取り出したのは、一つの携帯電話であった。ただしその外見は画面もなく、端には細長いアンテナが取り付けられ、ただ数字や受話器のマークが刻印された押しボタン式の古めかしい携帯であった。
「相変わらず古いよなそのデザイン」
「うちは気に入ってんで。しかもこんな見た目でも性能は実証済みやろ?」
見た目だけは普通の古い携帯電話のように見えるが、彼らが持っている品だ。普通の物ではないはずだ。ミナリはさっそくその携帯の数字ボタンを押して、最後に受話器をマークをプッシュしていた。
一瞬、携帯はバチリという電気ショックのような強い音と光をその場に放つ。そして『プルルルル、プルルルル』という電話独特の呼び出し音が発せられた。
1コール、2コール、3コール。呼び出し音が鳴った後、何者かがその通話に応えた。
『はい、Drメロン研究所!』
ノイズ交じりの女性の声が携帯越しから聞こえた。それが分かるとすぐにミナリは応答する。
「あぁメロンはん? うちや、うちやけど。この世界に次元トンネルでこれた……」
『なんだ? オレオレ詐欺か。勧誘なら結構だ!!』
その一言を相手が言った瞬間、通話が切れた。
「き、切れてもうた……」
「ちっ、あいつぅ! ちょっと貸せ!!」
突然通話が切れたことに戸惑うミナリ。そのやり取りを見ていたクオンは携帯を取り上げると高速でボタンを連打し、通話を開始した。二回連続とあってか1コールですぐに相手へと繋がった。
『はい、Drメロン研究所。勧誘はいいって言ってるだろうが!』
「おい、勧誘じゃねぇよ!!!! 俺は『クオン』だ、『クオン』!!! いきなり切るんじゃねぇ!!!!!!!」
『いぎぃいぃいい!!??』
むかつきのあまり電話越しにかなりの大声でクオンは怒鳴り散らしていた。当然ながら通話相手は大パニックを起こしていた。
『ク、クオン? クオン君か。耳元で大声はやめたまえ。鼓膜が破れたらどうするんだ!?』
「そんなん知るか。勝手に勧誘と間違えたお前のせいだろ」
『な、なんだと。この世紀の大天才のDrメロンの聴力が失われていたらどれだけの悪影響が出るか。この貴重な大天才の能力は人類の宝。決して損なうわけにはいかんのだ!!』
会話の主は、電話を手にしてないミナリまで聞こえる程に声を張り上げ、自分の力を熱弁していた。しかしながら内容があまりに自信過剰な発言すぎるので、クオンは怒りが消え失せて呆れててしまった。
『大体、何の用だね? 吾輩は忙しいのだよ!』
「あんたがあの研究所の『次元トンネル』をくぐってこの世界に着いたら連絡しろって言っただろうが」
『あ、あぁ。そうだったな、忘れていたよ。そうか成功したのか。妹君がいる世界に転移できたのだな』
「そうだ。んでちょうと困ったことも増えたからお前に連絡したわけだ。この名前がダサい、『何とかフォン』でさ」
『『異次元フォン』だ! 私が開発した時空間をも超える通信システム『異次元フォン』だ。二度と間違えるんじゃない』
「めんごめんご」
『くっ、本当に反省してるのか君は!! 全く!! まぁしかしうまく『異次元フォン』は機能しているようだな。発明してから一切の誤作動もなし、声もクリアに拾えている。にゃはは、やはり私の発明は天才だ。世界の壁をも超える世紀の大天才、ここに極めりだな。にゃはははは!!!』
「うっぜぇ……」
長々と喋り、独特な笑い声と自慢を混ぜ込んでくる電話の相手。うざすぎてクオンの眉間にしわが寄っていた。
電話相手の名前はメロンという研究者で通称Drメロンと呼ばれている。彼らとの会話の流れから察せるだろうが、このDrメロンという人物はクオン・ミナリ・フィオネ三人の協力者である。自信満々の発言が鼻につくが、それは本当に実力あっての言葉なのだ。
今、クオンが使っている古臭い携帯電話は彼女が発明した『異次元フォン』という代物。受信場所は彼女がいる研究室に限られるが、ただの携帯とは違い、異世界から通話ができるというかなり恐ろしい品物だ。
クオン達が住んでいる世界には、そもそも生物の体が丸ごと世界の壁を超える技術『次元トンネル』が存在する。そのため通話のみというその技術の劣化に感じるかもしれない。だがこの『異次元フォン』を一からこれを開発したのは彼女自身なのである。何らかの組織に属してはいない彼女だけで作り上げた代物なのだ。
「Drメロン大先生の凄さは分かった。だがな俺達はあんたの自慢話だけを聞きに来たわけじゃないの。さっき言っただろ、困ったことがあるから連絡したと」
『なんだ、人がせっかくいい気分だというのに。で、なんなんだ困ったことと言うのは?』
クオンはさっきまでの胸糞悪い村の境遇を思い出し、ため息交じりでメロンと会話する。そんなクオンの様子に何かあったことを察したメロンは、どのような内容なのかを彼女は聞いた。
「とりあえず『移動用のバイク』と『フィオネのボディ』を転送してくれ」
『はあぁぁ!!?』
しかしクオンはその困っている理由をすっ飛ばして必要なものだけを答えていた。話が飛びすぎてクオンのその要求にメロンは驚愕の声を上げた。
「『はぁぁ?』じゃないんだよ。今、どうしてもバイクとフィオネの体が必要なんだ。緊急事態でな」
『なんでそれが必要なのだ!! いきなり言われても意味が分からんぞ』
「次の目的地がめちゃんこ離れた所にあってな、そして少々戦力増強も必要な状況なんだ。ナビだけのフィオネじゃきつそうだからな」
『そ、そうか。なるほど。それでバイクと体を……』
「なぁ、頼むよ。あんたの研究室に置いてあるだろ?」
『い、いやそれは、そうだが。うぅん……、なんというか』
クオンの要求に対して、どうにもメロンの歯切れが悪い。うねるような声が電話越しに聞こえている。しかしながら移動手段と戦力補強は彼らには必須なのだ。
『確かにクオン君の言う通り、吾輩の研究室には私が開発したバイクとフィオネ君のボディが置いてある。以前君らが置いていったものだ。だがなこれをどうやってそちらに送るというんだ?』
Drメロンは、クオン達と話しながら自室の隅を眺める。そこにはサイドカーが両端に取り付けられた三人乗り用のバイクと、その横には女の子の姿をした機械の身体が置いてある。
だがその品物たちはクオン達のいる世界とは全く別の所にあり、普通に考えてクオン達がいる世界に持ってくるなど不可能である。もちろんそんなことはクオンは分かっていたが、クオンにはそれを可能にするある確信があった。
「そこにもあるだろうが。お前さん専用の『次元トンネル』がな」
『うっ!!』
しかしクオンの一言でメロンは言葉が詰まった。どうにも都合の悪いような事を突かれた感触である。
「この世界に来る出発前にも、使用するのを頑なに拒んでいたがあんたの所に『次元トンネル』あるだろ? それを使って諸々を転送してくれ。この世界に」
『か、簡単に言ってくれるな!! 確かに吾輩の研究室にはデータを盗んで勝手に作った『次元トンネル』がある』
「ならいいじゃないか……」
盗んだということが鼻につくが、Drメロンの研究所に『次元トンネル』があるなら何も迷う必要はない。何が彼女をためらわせているのか、クオンにはよく分からなかった。
『これを独占で開発運用している『ユウキコーポレーション』からデータ盗んで分かったんだが。この『次元トンネル』はねぇ、めちゃくちゃ電力使うのだよ。今、使ったら吾輩が根城にしているこの研究所の電力食い尽くして三日は機能しなくなる。一瞬展開させただけでな』
「あぁ……」
『だから君たちが異世界転移するときに私の研究所で使うのを反対して、『ユウキコーポレーション』の施設を襲わせたんだ、わかるか?』
彼女の話を聞いてクオンは納得する。だからここまで渋っているのかと。
そもそも彼らは妹を探すために『次元トンネル』を通ってきたわけだが、彼らが襲っていた研究所はクオンのいる世界でその『次元トンネル』を開発している『ユウキコーポレーション』という会社の一施設だったのである。
Drメロンの研究所にも確かに『次元トンネル』は存在したが、彼女が言ったその理由により使わせてもらえなかったのだ。当時のクオンも頑なに拒む理由が分からなかったが、それがはっきりした。
しかしながらそれを聞いてもクオンの意思は変わらなかった。
「分かった。転送頼む!」
『おい、何を聞いていたのだね!! 使ったら吾輩の研究所が三日機能しなくなるんだ!!』
「じゃあどうすれば承諾してくれんだよ」
『ふん、知ったことか』
ただDrメロンも『次元トンネル』展開のリスクがでかいのは分かっているので、なかなか受けてくれない。
クオンはあの村の状況を事細かに話して説得の材料にしようとしたが、やはり気が進まない。それに説得している時間も今は惜しい。どうすればいいかとクオンも頭を抱える。
「クオンはん、物で釣ったらどうやろ? 美味しいお菓子とかで」
そんな中、横で会話を聞いていたミナリがクオンに声をかける。するとクオンも「なるほど」といった感じでミナリにサムズアップしていた。
『なんだ? 今、物で釣るって聞こえたぞ。この声はミナリ君だな。ふん、大天才である吾輩も舐められたものだ。子供じゃあるまいし、お菓子で釣れらるなどありえな……』
「よし。帰ったらメロンさん大好物の牛乳プリンを特大サイズで10個作ってやる」
『今から『次元トンネル』展開する。クオン君、異次元フォンの端末にフィオネ君を接続してくれ。そして詳しい座標を吾輩に教えるのだ』
あっさりと相手は堕ちた。
クオンは言われたとおりに耳元からフィオネが媒介にしている機器を外して『異次元フォン』にセットする。
『全く、この人は賢いのにバカなんですよね』
そのあまりのチョロさにフィオネは呆れて毒を吐いていた。
『Drメロン、今座標を送りました。『次元トンネル』展開をお願いします』
『了解だ!! 座標補足した。今から起動してバイクとフィオネ君のボディを転送する』
「あぁ、頼む」
クオンのその一言の後、転送の準備が始まる。その証拠に通話越しでバチバチと電気がショート音が聞こえる。そしてと同時に自分たちの目線の上に渦が浮かび上がった。ただしその渦は周りの空間に雷鳴を轟かせて、少し不安定な形をしている。
『何度も言っているが、この『次元トンネル』生成で吾輩の研究所は三日は機能しなくなる。つまりこの間に大天才である吾輩の助言もできないという事だ。それを肝に銘じておくのだ。そして牛乳プリンを忘れるなよ!!!!』
彼女が『異次元フォン』越しに放ったその言葉を最後に、通話はぶつりと切られて、その瞬間に生成された渦からでかいバイクが落下した。そして渦は瞬く間に消え去った。
「おぉ、本当に来たやんか!! 流石、クオンはん。説得上手や」
「お前のアイディアのおかげだよ。はぁ、疲れたぜ」
『ミッションコンプリートですね。やれやれです』
三人とも期待の品の到着に歓喜の声を上げる。嬉しさのあまりクオンとミナリは思わずハイタッチしていた。
ただ、これはほとんどDrメロンの助力のおかげなのだが、三人ともそのことに全く言及せずに喜び、浮かれていた。今までの会話で想像するのは容易だろうが、Drメロンに対する三人の扱いはこんな感じなのだ。
そして取り敢えず転送されてきたバイクへと近づき、物品を確認する。
「へぇ、サイドカーが二つもあるんや。なんかすごいやんか」
「そうかぁ? なんか変な感じしないか? やっぱりダサいような」
そのバイクは赤と青を基調としたメタリックな外観であり、左右にはサイドカーが一つずつ設置されていた。そして一方のサイドカーには『機械の体の女の子』が目を閉じたまま座り込んでいた。
『おぉ!! これはワタシの体では!? ミナリ様、クオン、早く早く耳に着けた端末を接続して下さい!!』
それを見つけたフィオネは興奮のあまり声が高ぶっていた。そして二人は言われた通りに、耳元の機器を外してその女の子の体の端末へと取り付けた。
『認証完了。意志情報『Fione』を確認。母体ナンバー「Fione001jk」起動開始……』
すると女の子の口から言葉が発せられて目が見開く。そして体全体に青い光が走り抜けると、起動のプロセスが完了した。
「ふぅ、ようやく動かせる体を手に入れましたか」
そうして機械の身体を動かし、バイクから降りてその場に立ち上がった。
「きゃあん。フィオネちゃん。かわいい体を手に入れたやないかぁ。うぅん、めちゃええわ。めっちゃ可愛いわぁ!!」
「ひゃあ!?」
立ち上がり、きりっと目の前を見つめるその姿にミナリは心奪われてしまう。尻尾をぶんぶんしながらフィオネに思い切り抱き着いていた。それに驚きながらもまんざらではない表情でフィオネも頬を赤らめている。
フィオネが手に入れたその姿は人間の女の子とほとんど才色がない見た目で、外見年齢は女子高生くらいであった。
髪は全体的に薄い銀色をベースにしており、横の髪先は染めたように暗い灰色になっている。さらに黒いメッシュを飛び出していた。瞳は金色、そして耳は人の物ではなく機械的なデバイスになっている。
服装はなかなか異色であり、まず首元に白いマフラーのようなものを着けている。そしてトップスは紺色の肩だしスタイルで、腰には包帯のようなものが巻かれており、丈が長い服だ。スカートは薄い紫で、靴とタイツが一体化したものを身に着けている。
かなり大胆な服装であり、体つきも理想的な女性的なフォルムをしている。
「はぁ、これで何とかなりそうだな。お、フィオネの武器があるじゃんか」
それをクオンは嬉しそうに眺めながら安堵する。そして彼は何か他に積まれていないかと一人でバイクの中を漁り、フィオネの得物になるであろう小刀を二本見つけた。そしてさらに周りを物色を続けていると何やらメモが書かれた紙が見つかった。
「これはバイクの説明書か? ふぅん動力は水と光かぁ。それならこんな異世界でも簡単にエネルギー補給が出来るな。なんだかんだ言ってDrメロンさんはすごいねぇ。他には、バイクの機能と、フィオネの能力なんかも書いてあるな。どれどれ……」
ミナリとフィオネが戯れる間、クオンは諸々の準備を進めながら、そのメモを読んでいくのであった。
★★★★★★★★★★
「う~ん、風が吹いて気持ちいなぁ。サイドカーやし、楽やわぁ」
「このペースであれば5時間35分で到着可能です」
「はぁ、歩きで行くと考えると恐ろしいもんだよ」
数十分後。体を得たフィオネと共に三人は目的地の東京へと向かってバイクを走らせていた。周りには建物や動物も全くと言って見かけないので、速度をかなり飛ばしている。
サイドカーの右にはフィオネ、左にはミナリ、運転しているのはクオンだ。バイクの見た目を気にしていたクオンだったが、意外と運転もしやすそうでけっこう気に入っているように見える。横に乗るミナリとフィオネも気楽そうだ。
「でもまぁ。早く東京に行って帰ってこんと、戸谷はんと佐竹はんの村が大変なことになるしなぁ」
「言うべきじゃないが、このペースで向かっても間に合うかどうか」
「クオン。『言霊』ですよ、あなたが弱音を吐いてどうするんですか?」
「そうだったな、悪い……」
そうはいってもやはり心配になってくるのは致し方ない。いつあの村に敵が襲ってくるかもわからない上に、そもそも戸谷達の危うさがクオンの心配を助長させるのだ。それは何もクオンだけでなく、ミナリもフィオネも同じく思っているだろう。
とは言え、フィオネの意見は正しい。いつまでも暗くはいられない。クオンは気を取り直して、しっかりと目の前を見据えた。
「えっ!?」
しかしその時だった。フィオネが何か驚いた表情を浮かべて、そして険しい表情を見せ始めた。
「どうしたん? フィオネちゃん?」
「なんか感知したか?」
本当に何かを感知したらしく、フィオネは言いにくそうに重い口を開く。
「敵です。ものすごい勢いでこちらに接近しています。二人とも、今すぐに武器を構えてください。クオンは難しいかもしれませんが……」
「マジかよ。確かにこんな状況じゃうまく振り回せないがよ」
クオンはそう言われて、ミナリのサイドカーに置かせていた大剣を悔しそうに見つめる。
「うちが構えるわ。クオンはんはできるだけ運転に集中を。フィオネちゃんもいくで」
「はい、ミナリ様!!」
ミナリが長い黒刀を構えると、フィオネも二本の小刀を両手に持ってその場で身構える。そして数分後、後ろから急接近する何かを二人の視界を捕らえる。
「あれは? か、鴉……?」
二人の目に見えたのは、大きな鴉。翼を広げてこちらにすさまじい速さと勢いで急接近してきた。そして相手もこちら側を補足すると口元を歪めて嬉々として叫び始めた。
「ヒャッハァァァァァアアアァァーーーーーーーーーーー!!!!!!!!! 宴の時間だぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
瞬間、その鴉の飛行速度が一段と加速する。そして無茶苦茶な動きでこちらへと更に接近する。この鴉の攻撃を受け流そうとしていたミナリとフィオネだったが、そのせいでタイミングがずらされてしまう。
そして鴉は足の爪を広げて機体へと激突した。
「くう!!!???」
「ぐぅぃぃいいい!!!??」
「がはぁ!? な、なんだ!!!?」
タイミングをずらされたものの、ミナリとフィオネは二人がかりでその鴉の攻撃をなんとか受け止めた。しかしながらその突進力はすさまじく、運転していたバイクは目の前で跳ねるようにぶっ飛んだ。
まさかぶっ飛ばされるとは予想していなかったクオンも驚きを隠せなかったが、なんとかハンドルをうまく切り、バイク本体を着地させると、そのまま機体を走らせる。
「フハハハハハ!!! いいねぇええ~~~!!! 俺の突進を受け止めるとはぁぁああ!!! ふははあは、あひゃああああ!!!!!」
突進による慣性で後ろにのけ反った大きな鴉は、目の前を以前走り続けるバイクに向かってそう叫ぶ。
目を血走らせて狂気的な雰囲気を醸し出すその鴉は、再び翼を羽ばたかせてバイクへと接近する。
そうしてまた大きく叫び始めた。
「さぁああああ!!!!! 楽しい楽しい宴を始めようかぁぁぁああああぁ!!!!!!!!!」
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