緩やかな自殺

可愛いあなた。


わたし、毎日あなたに可愛いって言っていたわ。蜂蜜色できれいに巻かれた髪の毛も、桃色に染めた頬も、天使に愛されたみたいに上を向いたまつげだって、なにもかも。


太陽の光を反射する輝く瞳も、屈託無く笑うくせに小さくて、バラの蕾みたいにまっかな唇も。

あと、少し太めで、でも柔らかくて薄いきれいな形の眉毛も、ピアスホールが一つずつ空いたおませさんな耳も、もちろん。

可愛いねって、大好きよって。


でもね、その可愛いがわたしのための可愛いじゃないのなんて、とっくに知っていたの。

ぜんぶぜんぶ、あいつに可愛いって言ってもらうためだってこと、ずっと知ってるの。


わたしの可愛いは、可愛いあなたが欲しい人からの可愛いじゃないけれど、


それでも、これからも。

ずっとずっとずっと、言い続けるわ。


たとえ、可愛いというたびに、わたしが少しずつ死んでいこうと、ずっと。



あなたのせいよ、わたしの、可愛い人。

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