被虐趣味

言葉を口に出すのが幼い頃から怖かった。


取り消せないのがわかってたから、

それでも、

わたしはおしゃべりだった。


口から生まれたのね、と祖母や母、先生、いろんな人に言われた。


口喧嘩では負けたこともなかったし、

話が上手だからとたくさんの子がわたしの話をおもしろがってくれた。


それでも、わたしは、言葉が怖い。


灯りの灯った真っ直ぐの廊下の先が、油絵の具で塗りつぶしたようにべっとりとまっ黒くて、気味が悪いような、

そんな怖さが、いつでも、どこでも、へばりつくように側にあった。


人と話している時、いつも後ろから、わたしがみている。


気をつけて、気をつけて、ってずっと言っているのだ。


出した言葉は消しゴムで消せないから。

気をつけて、って。


そんなのは知ってる、

知ってるから途方もなく、怖い。


本当は、もう人と、話したくない。


それでもわたしは、


おしゃべりだから、

人がわたしと話すのが好きだと言ってくれるから、言葉を紡ぎ続けてしまう。


どんなに怖くても、恐ろしくても、気味が悪くても、きっと、永遠に。



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