第3話 このヒロイン、割とチョロくない?
タイトル:未定
あらすじ:中三の冬、主人公A(名前未定)は十年間片思いをしていた幼馴染B(名前未定)に告白する。しかし、結果は惨敗。好きな人がいるという理由で振られてしまう。Aは自分を選ばなかったBを見返すことを決意する。
キャラクター設定:主人公A(名前未定)
メインヒロイン1人
サブヒロイン1人~3人
前話から翌日、火曜日の5時。
菜々との約束の日まであと五日。
俺の目の前にあるノートパソコンには昨日書いたあらすじと申し訳程度のキャラクター設定が表示されている。
そして俺の意志が目覚まし時計に反映されることなどなく今の時刻が午前5時ではなく午後5時だということはもはや言うまでもない。
つまり、朝5時に起きて作業を進め、今日中にオンスケジュールに戻すという計画も、今日こそは始業までに登校するという悲願も叶えられることはなった。
「マジでなんも浮かばねぇ……」
学校から帰ってからずっと机と向かい合っていたがアイデアのひとつも出てこない。
そしてここ三日なんのアイデアもでなかったんだからこのまま机にかじりついていてもアイデアなんて出るはずもない。
まだ戦いは中盤。だから日数はなくても時間はある。
ならばラノベを1冊くらい読む時間だってあるはずだ。
「……うわ、11時」
とか余裕こいている間に、ほんの少しだけ時間を忘れてしまった。
でも随分と使えそうなシチュエーションや表現を学ぶことができた。
創作活動にはこういう地道な活動も必要なんだ。 だからまぁ、この数時間も無駄じゃないはずだ。
……と信じたい。
「さて、どうすっかな」
それよりこれからの過ごし方だ。
寝るには少し早いが今から執筆に取り掛かっても、あと数時間で夜が明けてしまう。
そして、一番問題なのは俺が今すごく眠いということだ。
数時間ぶっ通しで小説を読んでいたんだから当たり前だ。
後ろにあるベットが魅惑的すぎる。
「もうちょっと頑張るか……」
それでも俺は机に向かう。今日こそは書き上げる未来を目指して。
さらに翌日。
菜々との約束の日まであと四日。
小説を一冊読んだ程度しか時間が経っていない感覚なのにもう翌日の午後だという衝撃。
そしてノートパソコンの画面に浮かんだ文字は依然として変わらないまま。
さすがにもう現実逃避は許されない。
今からは小説の事だけを考えよう。
ゲームも小説も段ボールに詰めて棚にしまった。
これで残されたのは創造世界への入り口だけ。
俺はもう一度集中力を高め、創造の世界へダイブする。
「あは、はははは」
さらにさらに翌日、木曜日の午前7時。
菜々との約束の日まであと三日。
俺は丸半日机にかじりついていた。
しかし、目の前のノートパソコンに表示されたテキストは未だ本文に踏み出せていない。
ただ、一行も書いていなかった訳ではない。
何度も何度も書いては消しての繰り返し。
さすがにここまで作業が進まないと避け続けた『諦める』という言葉があまりに魅惑的に頭に木霊する。
「学校行くか……」
とりあえず作業のことも諦めるという文字も頭からたたき出して学校へ向かう。
「今日は珍しく間に合ったんだな」
始業5分前、ざわめく教室で話しかけてきたのはいつも通り賢吾だった。
どうでもいいけど、
「まぁな、今日は寝てないからな」
「なぁ、いつも思ってたけどお前そんな遅くまで何やってんの?」
「よくぞ聞いてくれたな。これは俺の新しいオタク人生の始まりの……」
「あーはいはい、よかったなー」
「ってお前自分から聞いておいてその反応は流石に友達としてどうなんだよ!」
「だってお前の話長ぇし」
「長いって……」
こいつ本当は俺の話なんて最初から聞く気なかっただろ。
ま、まぁ話が長くなるのはほんのちょ~っとだけ自覚しているからあんまり反論できないんだけどな。
「じゃあ、何かわからんけど頑張れよ。 チャイム鳴るから戻るわ」
そういって、賢吾が席へ戻ると入れ違いで担任が入ってきてHRを始める。
「生き詰まってるって顔ね」
「……菜々」
菜々が話しかけてきたのは例のごとく学校生活の描写をフルカットした放課後、授業も終わりさて帰るかと思った矢先だった。
「で、どのくらい進んだのよ」
「大体の設定は書き終わったかな」
つってもあらすじとキャラ設定だけだけどな。
「それって本文は一行も書いてないっていう風に聞こえるんだけど?」
「ま、まぁそうともいうかな……」
「そんなことだろうと思った。 あんた、自分が言った期限まであと三日しかないって分かってる?」
「い、いやでもほら、土曜日は丸一日使えるし……」
「今まで一行も書けなかったのにそんな少ない時間で書き上げれると本気で思ってんの?」
「それは……」
「もういいじゃない。 もう諦めたら?」
「あんたに才能なんてなかったのよ」
そうかもしれないけど、それでも俺は……
「それでも俺は諦めない。 次の日曜日までに必ず書き上げる」
「あっそ、まぁ仮に書き上げたとして読むなんて一言も言ってないけど」
いや、お前さすがにそれはなくない……?
「おまえ、それは幼馴染として、ていうか人としてどうなんだよ……?」
「そんなの知ったこっちゃないわよ。 奏叶の評価なんてどうでもいいし」
……こいつ口悪すぎんだろ。
「だからさっさと諦めるのね。 こっちもあんたの創作ごっこなんかに付き合ってられる程暇じゃないのよ」
「ごっこなんかじゃない!! ずっと書いてみたかったんだ! 涙無しじゃ読めなくて人の心を動かせる、そんな小説をずっと書いてみたかったんだよ!」
「
ずっと追いかけてきた。 ずっと届かないものだって、菜々は俺の前にいる存在だってそう思っていた。
でももうやめる。 ただこいつの背中を追い続けるのはもうやめだ。 これからはこいつの隣に立って歩く。
「それに昔はお前だって同じくらい下手くそだった! そんなお前にできて俺にできないはずがない!!」
俺は言い切った。 思っていたことを全部。
「そんだけ熱く語っといて未だ1行もかけてないとかざまぁないわね」
「ぐぅっ……」
途端に返り討ちに合うというテンプレが炸裂する。
「でもまぁ、そこまで言うならチャンスをあげる」
「チャンス?」
「もし奏斗がちゃんと期限までに書き上げることができたら、絶対に最後まで読んであげる」
「だからあなたは死にものぐるいで書きあげなさい」
「これが正真正銘ラストチャンスよ」
「菜々……俺、絶対書くから! お前が読まずにはいられない小説書いてみせるから!」
この約束はきっと言葉なんて軽いもので結ばれたものじゃない。
だって菜々の目には間違いなく熱意があった。 菜々の言葉は間違いなく本気だった。
確証も保証もないけど10年間一緒にいた俺だから分かる。
菜々は確信していた。
俺が必ず書き上げることを。
だから俺はその確信に、期待に応えなくちゃならない。
だってこれは、俺が憧れのクリエイターに近づく最初で最後のチャンスだから。
「あのー、お二人さん……」
そうやって俺と菜々が熱い視線を交わしていると間に賢吾が割って入ってくる。。
なんだようるせーな、今いいとこなんだから邪魔すんじゃねーよ。
「ここ、教室だってこと忘れてない?」
「「あ……」」
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