最終話 香織と麻衣 元の世界へ?

麻衣と香織はもう一機あるゲーム機も触ってみることに。

「えっ! これ、ファミコンとスーファミと、ゲームボーイと64とメガドライブのゲームも遊べるの! すっごーい!」

「これめっちゃ凄いやろ。しかも巻き戻しと、どこでもセーブ機能がついて、ゲームが下手な人でも最後までクリアしやすくなってるんやで。当時クリア出来へんくてエンディング見れんかったゲームも、この機能使ったら楽勝や! こんなとんでもなく凄いんが月額子どものお小遣い程度の額で楽しめるようになってるねん」

「凄過ぎるぅ! マ〇オコレクションに、マ〇オワールドに、マ〇オカートに、ぷ〇ぷよに、女〇転生に、マ〇オのピクロスに、スーパード〇キーコング3作に、く〇おくんのドッジボールだよ全員集合に、ゼ〇ダの伝説に、スーパーメ〇ロイドに、牧〇物語に、星の〇ービィに、戦え原〇人に、マザー2もあるぅ。他にもいーっぱい。どれから遊ぶか迷っちゃうね。ファミコンも魔〇村とか、マ〇ーとか、つっ〇り大相撲とか、アト〇ンチスの謎とか、ソ〇モンの鍵とか、ヨッ〇ーのたまごとか、ドクターマ〇オとか、アタシが生まれる前に出た初代のドン〇ーコングとか、6つの〇貨とかテト〇スとか、面白かったゲームとかやりたかったゲームとかがいっぱいあるぅ!」

麻衣はキラキラした目つきで遊び始める。

「あたしや麻衣ちゃんの時代だと全部買い揃えたら何十万もするんが、こんな安く遊べるようになってるなんて、ほんまええ時代になったもんやで」

香織もいっしょに楽しむ。

「松〇邦洋伝とか、田代ま〇しのプリンセスがいっぱいとか、高〇名人の冒険島とか、た〇しの挑戦状とか、キ〇レツ大百科とか、ア〇ジンとか、ド〇えもんのトイズランド大冒険とか、ゴ〇モンとか、天外〇境とか、大相撲魂とか、ファ〇ナルファンタジーやド〇クエはないみたいだね」

「さすがに何でもかんでもやれるようにするんは無理やと思うわ~。著作権的なこともあるし、データ自体が廃棄されてるんもあるやろからね。それにしても巻き戻し機能は使ったらずるい気もするわ~。スー〇ーマリオブラザーズ3の好きな宝箱開けるやつ、不正し放題になるし」

「64の方は巻き戻しはついてないみたいだよ」

「技術的に無理やったみたいやな。まあ、どこでもセーブしまくったら実質巻き戻しと変わらんよね」

「64はアタシの時代だとまだ出たばっかりだから、ソフトあんまり出てないんだけど。マリオ64と最強羽生将棋くらいしかやったことないんだけど、香織お姉ちゃんの頃は面白いソフトけっこう出てるの?」

「あたしはどう〇つの森にけっこう嵌ったわ~。それから二〇年近くたってからswitchで出るあつまれどう〇つの森はコロナ渦に発売されたこともあって、それまで売上長年歴代一位やったスーパーマ〇オブラザーズの681万本を超える大ヒットしたらしいで」

「そうなんだ! そのゲームやってみたぁい」

「グラフィックのきれいさやキャラの可愛さが初代のと全然違うからやってみる価値あるで。あと、麻衣ちゃんの時代の将棋界、羽生さん最強やったけど、この時代その羽生さんをも超えるとんでもない強さの藤井聡太っていう子が君臨しとるらしい。あたしの時代に渡辺明っていう子が羽生さん以来の中学生棋士としてデビューしてるねんけど、その子ものちに竜王や名人獲って谷川さんが持ってた通算タイトル獲得数も超えてトップ棋士になるねんけど、藤井聡太には全然歯が立たんくて、持ってたタイトルどんどん奪われてしもたんやて。羽生さんも年取って無冠になったり二九年保ったA級から陥落したりして弱くなってしもたけど、羽生さん以外二〇代三〇代の若手が参加する王将リーグで五〇代の羽生さんが全勝で藤井聡太へのタイトル挑戦権を得て互角に戦ったり、今でも時々全盛期みたいな強さを発揮することもあるから最強棋士の一角にまだおるみたいやで」

「さすが羽生さんだね」


      ☆


「やったぁ! スーフ〇ミの魔〇村。ノーダメージでクリア出来たよ。巻き戻し機能便利過ぎる。どこでもセーブもお母さんからいい加減やめなさいって言われてもセーブポイントまで行かなくてもいつでもキリがいい場所で終われるから便利だよね」

「ファミコン版の魔〇村は巻き戻し使ってもクリア出来る気がせんわ」

「ファミコンのゲームは難し過ぎるのが多いよね」

「うん、うん。実機ではセーブすら出来んのも多いし。でもファミコン版魔〇村とかの高難易度アクションゲームをそんな機能使わんとノーダメージでクリア出来る人も世の中にはおるねん。ユー〇ューブっていう動画配信サイトでプレイ動画を手軽に見れるよ」

「そうなんだ! ほんとインターネットは便利だね」

「ノーダメージのほかに、最初のステージからエンディングまでいかに早くクリア出来るかを競うリアルタイムアタック、RTAっていうもあるみたいや。スーパーマ〇オブラザーズを五分以内にクリア出来る人もいっぱいおるみたいやで」

「そんな早くクリア出来るの! 高橋名人が言ってた時間以内で二〇回もクリア出来るってことだよね」

 こんな風に昔のゲームを最新の機能も用いて思う存分楽しみ、正午過ぎ、

「麻衣ちゃん、考えたんだけどあたし達、ずっとここにいていいのかなって。健太お兄さんや彩花お姉さんにも迷惑がかかるし」

「そうだよね、アタシも元の世界のことも気になるし」

 香織と麻衣は健太のお部屋でテレビゲームをしながらこんなことを話し合っていた。

「元の世界に戻りたくは無いけど、あっちの世界があれからどうなってるんか気がかりや。でもノートから物が取り出せるんだから、元の世界にも戻れるんじゃないかって思ったけど、戻れんかったからね」

「確かにアタシ自身が入り込めてもおかしくないよね」

 麻衣は例のノートを手に取り、自分がいたページをじーっと眺める。

「あたしこの間乗っかってみたけど、入れんかったよ」

「香織お姉ちゃん、逆転の発想だよ。乗っかるんじゃ無くて、頭から入ってみれば行けるかも」

「そっか、麻衣ちゃん天才やっ!」

 香織もノートに手に取り、自分のいたページを開いて頭に被せてみた。

 すると、

「おう、入れた」

 香織の顔だけがノートに埋まった。手をパッと離すと重力に従うようにさらに体がどんどん埋まっていき、終には完全に姿が見えなくなった。

「香織お姉ちゃん、大成功だね。アタシもあとでやってみようっと」

 それから約三分後、

「あれぇ? まだ戻ってこないや。どうしたんだろう?」

 不思議に思った麻衣は、香織のノートを手に取り香織が入ったページを下にしたままバサバサ振ってみた。

 そしたら、

「うわっ! ぎゃんっ!」

 香織がノートから落ちて来た。床にビターンと顔面を打ち付ける。

「いたたたぁ。どうやらあたし、完全に絵に戻ってたみたい。ノートに完全に隠れてからの記憶が全くないし。自力じゃ戻れないみたいや」

「そうなの? じゃアタシも絵に戻っちゃうのかな?」

「きっとそうやろう」

「じゃぁ戻りたくないな。なんか怖い」

「けどいつもお世話になるのは悪いから、健太お兄さん達が学校行ってる時くらい絵に戻って過ごそう」

「そうだねぇ、その時は健太お兄ちゃん達に出してもらおう。男には男の、女には女のふるさとがあるし、アタシと香織お姉ちゃんにとって、ノートもふるさとだもんね」

 香織と麻衣はお勉強もしつつテレビゲームやマンガやインターネットを楽しんだのち、正午頃に彩花が用意してくれたお昼ご飯を食べるためキッチンへ。

 高菜チャーハンが二皿並べられていた。レンジでチンしてリビングに運び、四八インチの大画面液晶テレビでバラエティ番組を見ながら食べている最中、

「香織お姉ちゃん、健太お兄ちゃんや彩花お姉ちゃんにお世話になったお礼に、アタシ達が晩ご飯作ろうよ」

「それはグッドアイディアやね。きっと喜んでくれるよ。究極のメニューを作ろう!」

 こんなことを思いつく。

 二人は午後からも引き続き午前と同じようにして過ごし、午後三時半頃。彩花が用意してくれたおやつのプリンを食べ終えると、お目当ての料理に必要な材料を探し始めた。

「これだけあれば作れるね。よぉし、やるぞぅ!」

「あたしも気合入って来たよ。麻衣ちゃん、こねるの、あたしも手伝おうか?」

「大丈夫、アタシ一人で出来るもん♪ 世界ジュニア小麦粉こねこね選手権優勝のアタシの実力見せてあげるよ」

 麻衣は自信満々に言い、戸棚から出した小麦粉、さらに砂糖と冷蔵庫から出した卵とバターをボールに移し、ヘラで混ぜたのち手でこね始める。

「麻衣ちゃんめっちゃ手際いいねぇ。あたしはいなり寿司作ろうかな? それともカレーにしようかな? ……カレー作ろうっと」

 香織は冷蔵庫から玉ねぎとニンジンとじゃがいも取り出した。きちんと洗ってからまな板に置いて、包丁を手に持ちザクザク切り始める。

その最中に、

「ただいま。なんかいい匂いがするなぁ」

 健太が帰宅した。キッチンの方へと向かっていく。

「おかえりーっ、健太お兄ちゃん」

「健太お兄さん、おかえりなさい」

「二人とも、お料理してたのか」

「うん、アタシ料理得意だよ。いつもクッ○ングパパのレシピで練習してるから」

「あたしもけっこう得意や」

「そっか。それは期待出来そうだ」

「健太お兄ちゃん、アタシは今、何を作ってるんでしょーか?」

 麻衣は楽しそうに問いかけると、

「テッテレテレテレテッテレテレテレテッテレテレテレテー、テッテレテレテレテッテレテレテレテッテレテッテレテー、ジャンジャン♪」

 こんなメロディーを口ずさみ始めた。

「これ、カルメンの闘牛士の歌?」

「うん! 正解だけど、健太お兄ちゃんに今訊いてるのはお料理の方だよ。アタシ達、何を作ってると思う?」

「うーん、パンかな?」

 健太は自信無さそうに答える。

「ブッブー。正解は、クッキーだよ」

「そっか。作り方最初は同じだから迷ったよ。俺も手を洗ったら夕飯作り手伝うね。お米はまだ炊いてないよね?」

「健太お兄さん、あたしがお米炊こうか?」

「頼んだよ」

「えっと、お米は?」

「コンロ下の棚にあるよ」

「そっか」

 香織はそこの扉を開け、中からお米が入ったバケツ型の透明容器を取り出す。

「これ、無洗米だから、洗わなくても大丈夫だよ」

「そうなんだ。二十一世紀ではお米を洗わなくてもいいようになってるんやね」

 健太から伝えられ、香織は感心していた。

 香織は計量カップで六合を量り炊飯器の内釜に移し、水を六合の位置まで入れて炊飯器にセット。このあと三人一緒にクッキーの型を抜いていく。

 その最中に玄関チャイムが鳴り、

「こんばんはー健太くん、香織ちゃん、麻衣ちゃん。今夜はおば様がいないので、夕飯作り手伝いに来たよ。わぁー、すごくいい匂い」

 七海も訪れて来た。彼女もいっしょにクッキーの型抜きを楽しんだのち、

「お野菜、けっこういびつだね」

 まな板に載せられた、切りかけの野菜に目が留まった。

「細かく切るのは無理やってん。じゃがいもは皮ついたままやろ」

 香織はてへっと笑う。

「それじゃ、あとは私がやるね。天ぷらも作るよ」

「俺も手伝うよ」

「ありがとう健太くん」

 冷蔵庫からさらにレンコンやなすび、さつまいもなどを取り出し、健太と七海は並んで一緒に野菜切り作業。

「健太お兄さんと七海お姉さん、こうして見ると、新婚夫婦みたいやねー」

 香織はその様子を微笑ましく眺める。

「こらこら、香織ちゃん」

 健太は苦笑い、

「香織ちゃん、恥ずかしいよ」

 七海は照れ笑いした。

「いったぁ。よそ見した隙に指切れた」

「大丈夫? 健太くん」

「大丈夫、大丈夫」

「ちょっとだけ血が出てるよ。バンドエイド巻いて上げるね」

「ありがとう七海ちゃん」

「お二人さん、頑張ってね」

 香織は温かくエールを送る。

「健太お兄ちゃんちって、たこ焼き器もあるんだね。アタシ、たこ焼き作りたーい」

 麻衣は食器類が入っている下側の戸棚扉を開けた。

「いいけど、肝心のタコは無いよ」

 健太は冷蔵庫を確認しに行って伝える。

「えー」

 麻衣は不満そうにタコのごとく唇を尖らせた。

「私が買ってこようか?」

「いや、それは悪いよ。そうだ、姉ちゃんに頼もう」

 健太は彩花のスマホにライン連絡し、帰りにタコを買って欲しいとの旨を伝えた。

「携帯の連絡手段もより進化してはるね」

 香織は感心しながら、星型やハート型、動物型などに抜かれたクッキーをクッキングシートに並べていく。

 七海がレンコンなどを揚げている最中、

「七海お姉ちゃん、これも天ぷらにしたら美味しいよ」

 麻衣は横から何かを放り込んだ。

「麻衣ちゃん、これは何かな?」

 七海はにこやかな表情で質問する。

 衣がたっぷり付けられ、細い棒のような形をしていた。

「鉛筆だよ。えんぴつの天ぷらになるよ」

 麻衣は得意顔で伝える。

「麻衣ちゃん、鉛筆を粗末にしたらダメだよー」

 七海は菜箸でそれを掴み、にこっと微笑みかける。

「うん」

 麻衣はそう答え、くるりと回ってリビングへ戻っていこうとしたら、

「待って麻衣ちゃん」

 七海に肩をガシッと掴まれ阻止されてしまった。

「なぁに? 七海お姉ちゃん」

 麻衣の表情はやや引き攣る。

「悪いことしたから、お仕置き♪」

 七海は麻衣をサッと抱え上げた。

 そしてお尻をむき出しにして、ペチーッンと一発叩いたのだ。

「ごめんなさーい」

 麻衣は涙目に。すっかり反省したようである。

「麻衣ちゃんへのお尻攻撃は、本当に効くねぇ」

 香織はにっこり微笑む。

 それから三〇分ほどして、

「ただいまー。タコさん買って帰ったよー」

 彩花が帰ってくる。彼女も一緒に夕食作りを手伝い始めた。

「ぐちゃぐちゃになっちゃった。ひっくり返すの、思った以上に難しいわね」

「彩花お姉さん、大阪生まれ設定のあたしに任せてや」

「香織お姉ちゃん、すごーい! まっつぁんみたーい。アタシだって負けないよ」

 彩花、香織、麻衣の三人がたこ焼き作りに励んでいる最中、健太と七海は他に出来上がったメニューをお皿によそっていく。

 みんなで協力して六時半頃に全て完成。カレーライス、クッキー、天ぷら、たこ焼きがキッチンテーブルに並べられ、五人での夕食の団欒が始まった。

「香織ちゃんと麻衣ちゃん、明日は何が食べたい?」

 彩花はたこ焼きを頬張りながら、向かいに座る二人に問いかける。

「あの、彩花お姉さん達に伝えたいことがあるんだ。あたしと麻衣ちゃん、元の世界にも戻れることが分かってん。せやからあたしと麻衣ちゃん、これからはなるべく絵に戻って過ごすことにするよ。ずっとおったらご迷惑やろうから」

「アタシ達がずっといると、家計に響くもんね」

「それはべつに、気にしなくてもいいんだけど。元の絵に戻っちゃうと、自力では出られないってことになるのかな?」

「そうなんよ彩花お姉さん。だから、あのノートのあたしがおるページ開いてひっくり返して出してな。その時はなるべく柔らかいベッドの上がいいわ。顔から落ちるから」

「アタシもそのやり方でやってね」

「分かった。気をつけて出すわ」

「私、麻衣ちゃんが絵に戻っちゃってもすぐにまた出しそう」

 七海は少し寂しそうにする。

その時、予期せぬ出来事が。

「ただいまー」

 玄関から母の声が聞こえて来たのだ。

「えっ! もっ、もう帰って来たのか?」

「ということは、私のお母さんも帰って来てるね」

「予定よりずいぶん早いわね。麻衣ちゃん、香織ちゃん、早くカーテンに隠れて」

「うん」

「分かった」

 麻衣と香織は小声で返事し、すぐさま焦り気味な彩花の命令に従う。

 それから約五秒後に、母はキッチンへ現れた。

「おば様、お邪魔してます」

「お母さん、おかえり」

「母さん、ずいぶん早かったな」

 三人とも冷静に振る舞う。

「嵐山は回るの止めたから、予定より早く帰って来れたの。お料理、母さんと利川先生の分も作ってくれてるみたいね」

「うん、ついつい作り過ぎちゃって。ほとんど七海ちゃんが作ってくれたけどね」

 彩花は苦笑いを浮かべて伝えた。

「やっぱりそっか。毎度悪いわね、七海ちゃん」

「いえいえ。私、お料理大好きですから」

 落ち着いた様子の七海に対し、

(麻衣ちゃんと香織ちゃん、どう隠し通そう)

(このままだと絶対見つかっちゃうわ)

 健太と彩花の心の中は、こんな心配でいっぱいだった。

 都合良く、母は手を洗うため洗面所へ向かってくれた。

「麻衣ちゃん、香織ちゃん、今の内にワタシの部屋に逃げて」

その隙に彩花は囁くような声で指示を出し、麻衣と香織を二階へ上がらせようとした。

 二人はカーテンからそーっと出てすり足で廊下へ。

 あと二、三歩で階段へ差し掛かろうとした時、

「きゃっ!」

 香織は思わず悲鳴を上げてしまった。大きなクモが這っていたのだ。

「何かしら? 今の声」

 母に聞こえてしまったようだ。

 さらに悪いことに、確認しに行ってしまった。

「おっ、お母さん」

 彩花は叫んで呼び止めるも、

「あら? 誰? この子達?」

間に合わず。母に二人の姿をばっちり見られてしまった。

「しまった。見つかっちゃった」

「どっ、どないしよう」

 焦る香織と麻衣。

「……二人とも、どこかで、見たような」

 母はきょとんとなる。

「そりゃそうでしょう。お母様があたしの作者なのですから」

 香織は開き直ったのか堂々と主張した。

「えっ!?」

 母は口をパカリと開く。

「あたし、お母様が描いたイラストから飛び出してきてん」

「アタシは七海お姉ちゃんのママのイラストから出て来たの」

「えっ! そんなこと、あり得ないでしょ」

「本当やって」

「本当だよ、おばちゃん」

「嘘、嘘」

「本当、本当。お母様、信じてーな」

「おばちゃん、アタシ達の言うこと、信じて」

 香織と麻衣は母の瞳をじっと見つめる。

「ほっ、本当に本当なの?」

 母は念を押すように問いかけた。

「本当だって。あたし、お母様が生み出した香織っていうキャラクターなんよ」

「かおり、香織……あっ! 思い出したわっ! ワタシが中学の頃に描いたマンガの主人公にした子だ。そしてもう一人の子は、麻衣ちゃん、ね?」

「その通り! アタシ、麻衣だよ」

 麻衣は満面の笑みを浮かべ、とっても嬉しがる。

「やっぱり! みっちゃんに昔、見せてもらったのを思い出したわ。まさか、飛び出してくるなんて。みっちゃんに知らせなきゃ」

 母はスマホを手に取り、アドレス帳から連絡。みっちゃんとは説明するまでもなく七海の母のあだ名だ。

「姉ちゃん、なんか、予想外のことになったな」

「うん」

 健太と彩花は呆然としながら事の成り行きを眺めていた。

「どうやら一件落着みたいだね」

 七海はにっこり微笑む。

 ほどなく玄関チャイムが鳴り、

「どうしたん鈴子(すずこ)? そんなに興奮して」

 実春が利川宅を訪れて来た。笑顔を浮かべ問いかける。

「みっちゃん、この子、見て!」

 健太・彩花の母、鈴子は興奮気味に指した。

「誰かな? ん?」 

 実春はじっと目を凝らす。

「……ひょっとして、麻衣ちゃん?」

 十秒ほど見つめたのち、こう問いかけた。

「うん! そうだよ。アタシ、実春おばちゃんの描いたイラストから出て来た子だよ」

「あらあら、本当にそんなことがあるのね」

「あたしは香織」

「香織ちゃん……覚えてるわ! 鈴子が小学生の頃に描いてたマンガの主人公ね。懐かしいわ~」

 実春は特に驚いた様子も見せず、和んでいた。

「健太、彩花、この子達、いつからいたの?」

「香織ちゃんは三日前、麻衣ちゃんは二日前から」

 健太が恐る恐る伝えると、

「もう、どうして今まで黙ってたんよ」

 鈴子はにこにこ顔で言う。

「だってさぁ、説明に困るし。正直に言ったらアニメと現実との区別が付かなくなったのねって言われそうだったし」

 健太は困惑顔で伝えた。

「そっだったの。確かに健太が言うように言っちゃいそうだったわ。母さんもまだ現実のことだとは思えないもの。でも、現実であって欲しいわ」

 鈴子はにっこり微笑む。

「これは絶対現実よ、鈴子」

 実春は満面の笑みを浮かべ、自信を持って言う。

「健太お兄さんと彩花お姉さんのお母様、あたし、これからずっとここに住んでもいいですか?」

「もちろんよ。ワタシのイラストだから、ワタシの娘のようなものだもの」

「実春おばちゃん、ずーっといていいの?」

「当たり前じゃない。麻衣ちゃんも、今日からはずーっとウチの子よ」

「それじゃ、実春おばちゃんのこと、ママって呼んでいい?」

「もちろん、むしろそう呼んで欲しいわ」

「麻衣ちゃんのお部屋、私のお部屋と同じでいいかな?」

 七海が問いかけると、

「うん、それでじゅうぶんだよ」

 麻衣は屈託ない笑顔で答えた。

「あたしと麻衣ちゃんのこと、お父様にも知らせた方がいいですよね?」

 香織が鈴子に問いかけると、

「そうね。家計にも関わってくることだし、帰って来たら母さんから伝えておくわ」

「わたしもちゃんと伝えとこうっと」

 鈴子と実春は笑顔で言う。

 それから二〇分ほどして、

「ただいまー。母さんももう帰ってたんだね」

 父が帰って来た。

「麻衣ちゃん、香織ちゃん、リビングに隠れといてね」

 鈴子は小声で命令する。

「はーい」

「上手くいきますように」

 麻衣と香織はすぐにリビングへ。

ほどなく父がキッチンへやって来ると、

「おかえり利川先生、ちょっと伝えたいことがあるんよ」

 鈴子はさっそくこう切り出した。

 すると、

「香織ちゃんのことだろ」

 父は笑顔でこう言った。

「えっ!」

 鈴子はあっと驚く。

「じつはぼく、香織ちゃんがいること、とっくに気付いてたんだよ」

「ええっ! いつから?」

 彩花も新たに伝えられたことにびっくり仰天した。

「健太がぼくに数学の宿題を教わりに来た時だな、なんか変だと思った」

「あの時から気付いてたのかよ、父さん」

 健太もかなりの驚き様だ。

「ちなみに麻衣ちゃんのこともね。二人は鈴子と七海ちゃんのお母さんが昔使ってたノートから出て来たんだろ」

 父からさらにこう伝えられ、

「麻衣ちゃんのことまですでに知ってたのか」

「嘘ぉっ!」

「利川先生、勘が鋭いわね」

 健太、彩花、鈴子の驚きはより一層増した。

「おじちゃん、アタシのことも気付いてたんだね」

「あたしのこと、お父様にすでにばれてるとは思わんかったわ~」

 麻衣と香織はリビングから出て父の前に姿を現す。

「やぁ、こんばんは、麻衣ちゃんに香織ちゃん。一応、はじめましてかな?」

 父はとても機嫌良さそうに愛想よく挨拶し、

「じつを言うと三日前、鈴子が寝室の片付けをしてた時に、ぽんと置かれてた鈴子のノートをこっそり見てしまったんだ。その時いきなり女の子の絵が飛び出して来たんだよ。ぼくは当然驚いて、慌ててその子の頭を手で押して引っ込めたんだ。そしたらまた絵に戻って。絶対夢だろうなと思ってみんなには言わなかったけど、あれは現実だったみたいだな」

 こんなことを打ち明けた。

「お父さん、そんな体験してたのね」

「確かに、夢と思うよな。俺だって最初思ったし」

「利川先生、そんなことがあったのね」

 彩花、健太、鈴子は改めて驚いた様子だ。

「父さん、今回の件、すっかり現実として受け入れてるみたいだな」

 健太が不思議そうに突っ込むと、

「そりゃそうさ。今回の現象も、今世紀中には科学で解明出来ると思うし」

 父は至って冷静に理科教師らしい考えを伝えた。

「ひょっとして私のお父さんも、麻衣ちゃんのこと気付いてたのかな?」

 七海は疑問を浮かべると、さっそく彼女の父のスマホに連絡して訊いてみた。

『僕もとっくに知ってたよ、実春が昔描いたイラストから飛び出て来た子だってことも』

 との答え。

「なぁんだ。お父さんも知ってたんだ」

 七海は嬉しそうに微笑む。

「わたしが昔描いたイラストの子だってことは、どうして知ったの?」

 実春に電話が代わる。

『じつは僕、一週間くらい前にリビングのテーブル上に置かれてた実春の昔のノートを手にとってちょっと捲ってみたら、イモリが飛び出て来てびっくりしたんだ。慌ててノートを閉じてまた捲ってみたら絵に戻ってて。あれは絶対気のせいだと思ったから黙ってたんだよ』

 七海の父も似たような経験をしていたようだ。

「そんなことがあったんだ」

 その知らせに実春はちょっとだけ驚いた様子。

『でもどうやら現実だったようだね』

 七海の父は陽気な声で電話越しに伝えた。

「あなた、麻衣ちゃんも、これからずっとウチの子にしていいかしら?」

 実春はやや申し訳なさそうに問いかける。

『もちろんさ。麻衣ちゃんも僕と実春の娘のようなものだし』

 七海の父は快く承諾してくれた様子だ。

「いきなり二十一世紀の世界に来たアタシと香織お姉ちゃんが、すったもんだもなくごく普通に家族として受け入れてもらえるなんて、ド○えもんやコ○助やタル○ートくんになった気分だよ」

「あたし、こっちの世界でもこんな素敵な家族に迎えられて、めっちゃ幸せや♪」

 麻衣と香織は喜びのあまり満面の笑みを浮かべる。


      ※

 

あれ以降、香織は利川宅の、麻衣は光久宅の家族の一員として、心置きなく過ごせることになったわけだ。

「ババンババンバンバン ババンババンバンバン いい湯だな♪」

「それ、香織ちゃんの時代基準でも古い歌ね」

「ラブひなのキャラソンアルバムにひなたガールズ五人組で歌ってるバージョンが入ってたんよ。アニメでも歌ってたよ。けっこうお気に入り♪」

「そっか」

香織は彩花と、

「麻衣ちゃん、お風呂にたまごっち持ち込んじゃダメだよ。壊れちゃうよ」

「未来のたまごっちなのに防水機能ないの?」

 麻衣は七海と、毎日いっしょにお風呂に入っている。

 寝る時もいっしょだ。


       ☆


「麻衣ちゃん、俺のゲーム勝手に課金しちゃダメだって」

「ごめんなさーい」

「ソシャゲって、基本無料やけど楽しもうと思ったら高過ぎると思ってた一万以上するスー〇ァミソフトを遥かに超える額毎月のように課金せんとあかんのはヤバいですね。ペ〇リーヌちゃんの真似」

 香織と麻衣は、日を追うごとに二十一世紀令和時代の文明の利器を使いこなせるようになっていっているらしい。

ちなみにこの二人がこの時代のアニメに関して一番驚いた事というのは、あのやんちゃ坊主だった福嗣君が声優になっていたこととのこと。

(明日があるさ)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

赤松健先生参院選初当選記念作『もしラブ~もしラブひなに嵌って東大に憧れた新世紀少女が令和時代におジャ魔したら~』 明石竜  @Akashiryu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ