異常の魔窟-4
「ミリエラさん、凄いですよ!」
「うんうん、シュラコングを相手にしてあれだけ圧倒できれば、下層に進んでも問題はないだろうな」
「二人とも、ありがとう。だが、リアナの助けがあってのことだからな。私もまだまだということだ」
謙遜するミリエラだったが、魔窟に潜る前に比べて表情が明るくなっている。さらに言葉の端々に自信をみなぎらせているので魔法の条件変更にも慣れてきたのは明らかだった。
「少し休みますか?」
「いや、そのまま進もう。今の感覚を忘れたくないんだ」
気を遣ったつもりのブレイドだったが、ミリエラはまだまだ試したいという気持ちが勝っていた。
その気持ちを大事にするべきと判断したブレイドは休むことなく進むことを決め、二階層の奥へと歩き出す。
時折襲い掛かってくる魔族にはミリエラが対応し、数が多かったり上位種がいる場合はリアナが加勢する。
ブレイドは二人が戦っている姿を後ろから眺めて周囲の魔素を探知している。
いまだに下層から上がってくる濃い魔素に違和感を覚えているのだ。
「……これは、五分五分だなぁ」
そんなことを呟いている間も戦闘は繰り広げられており、ミリエラとリアナは危なげなく三階層へと下りる階段を発見した。
「良い感じになってきたよ。リアナ、ありがとう」
「本当ですか? よかったですね、ミリエラさん!」
「……」
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「んっ?」
「そうだぞ、ブレイド。先ほどから黙ったまま何やら考え込んでいるみたいだが?」
階段を発見した時も喜んでいた二人とは異なりブレイドは腕組みをしたまま黙り込んでいた。
魔窟の探索が順調に進む中でのブレイドの態度に二人は疑問を感じていた。
「なんでもないよ。とりあえず、そのまま三階層まで下りようか」
「う、うん」
「……ブレイド、一つお願いがあるんだがいいだろうか?」
「なんですか、ミリエラさん」
今までは光魔法の条件変更に慣れるため前線で戦い続けてきたミリエラだったが、ずっと気になっていたことを口にした。
「一度、ブレイドが戦っている姿を見てみたいのだ。三階層はブレイドが前線に立ってくれないか?」
「あっ! 私も見たい見たい!」
「リアナは前にも見ただろう」
「だって、ここまで私とミリエラさんだけが戦ってるんだよ? 楽したいじゃないのよ!」
「……そっちが本音かよ」
苦笑しつつブレイドもそろそろ体を動かしておきたいと思っていたのでちょうどよい提案だった。
「分かりました。三階層は俺が前線で魔族を一掃しますね」
「簡単に一掃と言っているが、ブレイドが言うとそのまま受け入れられるから不思議なものだな」
「本当ですよね」
「……いや、リアナが言っても私はそのまま受け入れられるぞ?」
「えっ! わ、私はまだまだですよ!」
「……あれだけの戦いを見せつけておいて、それはないんじゃないのか?」
「ちょっと、ミリエラさん! もう、お兄ちゃんのせいで私まで変な人になっちゃったじゃないのよ!」
「俺のせいじゃないだろう!」
二人の言い合いを微笑みながら見ていたミリエラは、ふとブレイドが丸腰だということに気がついた。
「そういえば、ブレイドの装備はどうしたんだ? ずっとアイテムボックスに入れたままなのか?」
「あっ! ……すっかり忘れてました」
「お前、魔窟に潜るのにそれはないだろう」
「だって、ミリエラさんとリアナが戦ってくれると思っていたから気を抜いてたんですよ」
呆れ声のミリエラに言い訳をしながら、ブレイドはアイテムボックスから七星宝剣を取り出した。
「こ、これは!」
七星宝剣の存在感にミリエラの額からは自然と汗が溢れ出す。
「七星宝剣です。倒した魔族が言うには、
「らしいって……いや、これは確かにそうだろうな」
「やっぱりそうなんですね。エリーザさんも言っていたし、やっぱり七星宝剣は神の遺物ってやつなんだなぁ」
「エリーザ? ……待て、ブレイド。エリーザというのは、国家騎士の女性騎士のことか?」
「そうですけど……ミリエラさん、知っているんですか?」
まさかミリエラの口からエリーザの名前が出てくるとは思ってもいなかったブレイドは聞き返してしまう。
「あ、あぁ。エリーザとは同郷で、私の親友なのだ」
「そうだったんですね! そのエリーザさんからも七星宝剣は神の遺物だって言われたんですよ」
「……あり得ない強さだったり、知識だったり、装備だったり。ブレイドは本当に規格外なのだな。これならリアナが一緒にされたくないというのも分かる気がするよ」
右手で頭を抱えながらミリエラはそうぼやいている。
実際のところその他の装備も全て神の遺物なのだが、面倒臭いことになるかもしれないとブレイドは明かさないことにした。
「それと、最初に封印した魔窟から手に入れたレアアイテムも神の遺物らしいですよ?」
「……そ、そうなのか、ブレイド?」
「そうでしたね。あっ! どうせだし、バルブレイブルも後で試してみるか」
「……うん、そうだな、そうしてくれ」
ブレイドの戦っている姿を見たいと興味本位で言ってしまったミリエラは、その発言を取り消したいと内心で思ってしまった。
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