異常の魔窟-3
魔族の群れには中級魔族がほとんどなのだが、今回は上級魔族が一匹だけ混ざっている。
高い知能は持たないまでも、その実力は中級魔族とは大きな差があるので注意が必要だ。
「魔法で私が中級魔族を一掃しますか?」
「いや、最初は私の光魔法でやらせてくれ」
自信を付けるためにも、ミリエラは積極的に魔法を使うことに決めていた。
大きく深呼吸をすると、一階層の時と同じように光魔法尾発動する。
しかし、今はリアナが魔法を使う前なので炎による光源が存在しない。どのようにして光源を作り出すのかとブレイドは注目していた。
「——
支援魔法である光玉は、単純に暗い場所を照らす光を作り出す魔法。
ただ、今のミリエラにとっては太陽の光に変わる重要な光源を作り出すことのできる大事な魔法に変わっていた。
光玉の光を見て魔族の群れもミリエラへと殺到していく。
上級魔族は後方からその様子を見ているのだが、ミリエラは気にすることなく続けざまに光魔法を発動させた。
「——
ミリエラの前方に五本の光の槍が顕現する。
エリュースソードをその場で横薙ぐと、光の槍は不規則な軌道で魔族の群れへと襲い掛かっていく。
複数の魔族を貫く槍もあれば、横薙ぎで斬り裂く槍もある。
縦横無尽に動き回る光の槍は中級魔族を一気に灰へと変えてしまい、その勢いで後方に控えていた上級魔族へも迫っていく。
『ゴルアアアアッ!』
だが、高速で迫る光の槍をあろうことか四本の腕で叩き落してしまった。
ならばと残る四本の槍を殺到させたのだが、見た目とは異なる機敏な動きで回避しながら殴り飛ばして消滅させてしまう。
五本あった光の槍は、数秒で全てが消えてしまった。
「こうなることは想定内だ!」
だが、ミリエラは臆することなくエリュースソードを握りしめて上級魔族であるシュラコングへと駆け出した。
光極の槍で相当な数の中級魔族を灰へと変えたミリエラだったが、全滅させたわけではない。
生き残っていた中級魔族が左右から殺到してきたのだが――
「——
リアナから援護が入った。
ミリエラの左右に照準された雷撃の弾幕が殺到してきた中級魔族を一掃する。
「助かった!」
「そのまま行ってください!」
ミリエラとリアナは阿吽の呼吸を見せた。
出会って間もない二人だが、魔窟に潜ってからは濃い時間を過ごしている。
さらにブレイドに振り回されているという部分でお互いに共感できるところが多くあり、自然と考えていることが分かるようになっていた。
『ウホオオオオッ!』
「今の貴様なら、私でも倒せるんだよ!」
ミリエラの言葉には理由があった。
シュラコングは先ほど光極の槍に触れている。
魔族は光属性に触れるだけで動きが阻害されてしまう。これは一階層でも証明されていた。
さらにミリエラの魔法剣は当然ながら光属性である。
「——
ミリエラの異名の由来にもなっている光剣。
エリュースソードも光属性と相性の良い素材で打たれている名剣である。
これだけのおぜん立てが揃っていて、負けてしまうわけにはいかなかった。
『ウホウッ!』
「はあっ!」
二メートル近い体躯から振り下ろされた四本の腕。
膨れ上がった筋肉がその威力を物語っているのだが、その動きは光極の槍を回避した時のような機敏さはなく、ミリエラの目にはスローに見えていた。
最低限の動きで腕をかいくぐり懐に潜り込むと、エリュースソードで袈裟斬りを放ち、続けざまに横薙ぎを放ちながら後方へと抜けていく。
胸部に受けた二連撃はシュラコングに深い傷を負わせると共に光属性の効果を纏っている。
裂傷以上に光属性が体内を侵食してダメージを倍加させていく。
『グルオオオオアアアアアアッ!』
内側から斬り裂かれるような衝撃がシュラコングを襲い絶叫をあげる。
傷口だけではなく口内からもどす黒い血を吐き出すと、シュラコングは血走った目をミリエラに向けた。
『……ゴオオオオォォ……ガアアアアアアッ!』
「油断は禁物だな!」
傷ついた魔族は死を目の前にして捨て身の攻撃を仕掛けてくることもある。
ミリエラは最大限の警戒を払いながら、動けなくなったシュラコングめがけて光極の槍を放った。
五本の槍が全てシュラコングを貫くと、再び内側からも衝撃が伝わってくる。
耐久力が自慢のシュラコングといえど、内側からの攻撃には耐性を備えていなかった。
血走っていた目からは生気が失われ、膨れ上がっていた筋肉からも力がなくなっていく。
そして――膝を折ったシュラコングは大量の灰へと姿を変えた。
「……やれた、のか?」
リアナの助けを借りたものの、それでも魔窟で上級魔族を倒すことができた。
ミリエラはこれが本当なのかとエリュースソードを握る右手を見下ろす。
確かに感じた肉を断つ感触に、先ほどまでシュラコングと対峙していたのかと実感する。
振り返った先ではまだ灰が舞っているが、その先には笑顔のリアナと腕組みをして大きく頷いているブレイドの姿があった。
「……そうだ。私は、やれたんだ!」
ようやく気持ちの中に余裕が生まれたミリエラは、笑顔を浮かべながら二人のもとに戻って行った。
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