介入-3
戻ってきたブレイドが見たものは、口を開けたまま固まっている五人の冒険者の姿だった。
全員が戻ってきたブレイドを見つめており、何が起きたのか理解できないような表情である。
「皆さん、ご無事ですか?」
「……あ、あぁ、ご無事、です」
ミリエラがおかしな言葉遣いになりながらもなんとか返事をしている。
そして、一番困惑――青い顔をしているのがアドゥニスだった。
「な、なぁ。これなんだが……ハイポーションじゃない、よな?」
「それ? いや、それはハイポーションだよ。さすがに首の骨が折れてたからさ、ポーションじゃ効果が薄いかもしれなかったからさ」
「……や、やっぱり、ハイポーションかぁ」
アドゥニスはハイポーションと知った途端に青い顔のまま項垂れてしまった。
何事だと首を傾げているブレイドだったのだが、そこに知った声が聞こえてきた。
「お兄ちゃーん!」
「あれ、リアナも来たのか」
リアナはブレイドがミリエラたちのところに戻ってきたのを見るとすぐに近づいてきていた。
ミリエラたちはビクッと体を震わせて振り向いていたのだが、当のリアナは何が起きたのかをブレイドに確認を求めてきた。
「お兄ちゃん、また何かやり過ぎたんでしょう!」
「やり過ぎたって、みんなを助けようと思っただけなんだが……」
ブレイドとリアナのやり取りを見ながら、ミリエラはまだリアナへの方が話し掛けやすいと判断して口を開く。
「その、アドゥニスを助けてもらったこと、本当に感謝しています。ただ、その……使ってもらったハイポーションの金額を払えるほど、蓄えがないのです」
「金額? いやいや、そんなもんいらな――」
「ハイポーションですって!?」
ブレイドがいらないと言おうとした途端、リアナが大声を上げながらブレイドを睨みつけてきた。
「えっと……何事でしょうか?」
「ハイポーションなんて高価な物を持っているなんて聞いてないんですけど!」
「……へっ? ハイポーションが、高価な物?」
まさかの言葉にブレイドの思考は一瞬止まってしまった。
ハイポーションはMSOの中ではどの都市でも購入ができる消耗品だ。
在庫もポーションと同じで100本あったのだから、これが高価な物であるはずがないと勝手に思い込んでいたのだ。
「……あー、お金とかいりませんよ? 本当に、別にお金に困ってないですし、使わないともったいないんで」
「だ、だが! ハイポーションは一本で家を建てられると聞いたことがある! 俺は一度もお目にかかったことがない高価なアイテムなんだぞ!」
「……一本で、家が建つのか、ハイポーションで?」
この世界の常識が分からなくなってきたブレイドは、何事も程々にしなければならないと肝に銘じることにした。
だが、今回は一人の命が懸かっていたのだから致し方ないだろう。
「いや、在庫もいっぱいあるし――」
「なんでいっぱいあるのよ! 聞いてないんだってば!」
「だって、アイテムボックスに入ってたんだから仕方ないだろう! 命が一つ助かったんだから良かったね、で終われないのかよ!」
「それは! ……まあ、そうだけどさ」
まだ言い足りなさそうなリアナだったが、命よりも大事なものはないことも理解しているのでそれ以上は何も言ってこなかった。
「あの、これがそんな高価な物だって知らなかったんです。俺が勝手に使ったわけですし、そんな押し売りするつもりもありませんから!」
「……だが……ハイポーションだぞ? ……本当にいいのか?」
「いいです、いいです! さっきも言いましたけど、ポーションも含めてまだ在庫もありますから」
何本、とまでは言わなかった。そこを言ってしまうと再びリアナから色々と言われることは目に見えていたから。
「……本当に、ありがとう。俺はアドゥニス、一応、鉄拳って異名を持っている」
「私は光剣のミリエラ。今回は本当にありがとう。私たちだけでは全滅、そしてマンティスが壊滅していたかもしれないわ」
ヴァニラ、ヒューズ、グレイズも自己紹介をしてくれたので、ブレイドとリアナも続けて行う。
その際、リアナは自分はまともだと、おかしいのはブレイドだけ念を押していたが。
「リアナ、酷い」
「お兄ちゃんと一緒にしないでよね!」
そんな兄妹のやり取りに一番最初に慣れてきたのはミリエラだった。
「そういえば、君たちは高名な冒険者ではないのか? ブレイドとリアナ、二人の名前は恥ずかしながら聞いたことがないのだが……」
「いや、俺たちは今から冒険者になるペーペーですよ」
「「「「「……えっ?」」」」」
まさか冒険者でもない、ただの子供に助けられたのかと驚きを隠せなかった五人。
「俺たちは冒険者になるためにマンティスまで来たんだ」
「お兄ちゃんのせいで大変な目に遭ったけど、ようやくゆっくりできるんですよ」
「あっ! でも、検問! なんでリアナは並んでいなかったんだよ!」
「だって、みんな逃げちゃったし、お兄ちゃんが心配だったのよ!」
ここで検問を心配している二人がおかしくなったミリエラは、一人だけ笑いだしてしまう。
その様子にぎょっとしたのは残る四人だったが、ブレイドとリアナは顔を見合わせて首を傾げている。
「うふふ、検問なら私がなんとかしましょう。大丈夫です、お二人は私たちの英雄ですから」
「うげー、止めてくださいよ。俺は新人冒険者になる予定の子供なんですから」
「お兄ちゃん、そんなこと言って殺気は異名が欲しいー! って言ってたくせに」
「あれは色々と積み上げた結果手に入れるものであってだなー」
スタスタと歩き出してしまったブレイドとリアナ、そしてミリエラ。
残された四人はしばらく呆けてしまったが、慌てて三人の後を追い掛けた。
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