国家騎士-6
レアアイテムを無償で提供するのは普通ではない。
破格の能力もそうだが、売却価格も同じく破格になるからだ。
ブレイドが手に入れた杖――バルブレイブルには広範囲に氷属性魔法を発動させる固有スキルが備わっており、凍結効果を相手に付与することが可能だ。
さらにバルブレイブルを媒介して放たれた魔法の効果を上方補正する効果もあるので魔法師からすると喉から手が出るほどほしいアイテムになっている。
実際、これを売却するとなれば最低でも100万ゴルの価格になるはずだ。
「そ、そそそそんなもの受け取れるわけないだろう!」
「お兄ちゃんはむやみやたらに変なことを言い過ぎだよ!」
「そうですぞブレイド殿! 冗談にしてはきつ過ぎます!」
「いや、冗談じゃないんだけどなぁ。一度見てみるか?」
「見てみるって、持っていないじゃないですか……んっ? そういえばブレイドたちの荷物はどこに?」
二人の荷物がどこにもないことに気がついたエリーザの問い掛けに、ブレイドは腕を前に突き出してアイテムボックスの中に手を入れた。
「んなっ!」
「ア、アイテムボックスだと!」
「国家騎士の間でも珍しいのか?」
「珍しいとかの問題ではありません! そんなものを持っているのは一国の王くらいなものですよ!」
「そうなのか?」
「いや、私に聞かれても分かるわけないでしょ!」
一番身近にいるリアナに聞いてみたもののバッサリいかれたものだから、ブレイドは苦笑する以外に取る手がなかった。
「ま、まあ、あるものは使わないとな。それで、その杖なんだけど……よっと!」
取り出されたバルブレイブルを見た途端、エリーザは背筋がゾワッとする感覚を覚えた。
七星宝剣を見た時ともまた違う感覚に冷や汗が止まらない。
「……ブ、ブレイド、それはなんだ?」
「なんだって、杖だけど? あっ、これ名前をバルブレイブルっていうのか」
「……な、なぜ普通に持っていられるんだ? それは、あり得ないぞ!」
「あり得ないって……リアナは何か感じるか?」
「ううん、何も感じないけど?」
「ダルリアンさんは?」
「いえ、私も何も感じませんな」
三人の答えを聞いていくと、エリーザは困惑の色を濃くしていく。
「……わ、私だけ?」
「なるほどね。ごめん、これはやっぱりあげられないみたいだな」
ブレイドはそう言いながらバルブレイブルをアイテムボックスに戻してしまう。
その直後から冷や汗も止まり、嫌な感覚が全てなくなった。
「……な、なんだったのだ、今のは」
「おそらく、バルブレイブルも
「そ、そうなのか? だが、あんなもの使えないぞ」
あのままバルブレイブルを目の前に出されていたらいずれエリーザは倒れていただろう。
それほど強烈に嫌な感覚――畏怖のようなものを感じていた。
「神の遺物には装備できるものとできないものがあるって聞いたことないかな」
「実際に神の遺物を見たのも初めてなので、私はありませんね。ダルリアンはどうですか?」
「いえ、私も聞いたことがありません」
「そうか。エリーザは七星宝剣を見ても嫌な感じではないんだろ?」
ブレイドは質問を変えて聞いてみる。
「は、はい。そちらには優しさというか、暖かなものを感じます」
「本人にとって心地よい感覚になるものは相性がいいとされているが、そうでないものは相性が悪い。バルブレイブルはエリーザにとって最悪の相性なのかもしれないな」
「そうですか。……まあ、こちらがそれを受取るわけにもいきませんから、それはそれでよかったのかもしれませんね」
「しかし、困ったなぁ」
「……何がですか?」
腕組みをしながら考え込むブレイドにエリーザもダルリアンも首を傾げている。
「いや、このままだと二人とも罰を受けるんだろう? 真っ当な国家騎士に罰が下って、腐敗している国家騎士がのほほんとしているなんて嫌じゃないか」
「……ふふふ、ブレイドがそのようなことを考える必要はありませんよ」
「でもなぁ」
「これは全て政権争いが招いたもの、そして私たちで解決しなければならない問題なのです。一個人であるブレイドを巻き込むことのほうが問題ですよ」
「隊長の言う通りです。他の騎士たちが変な真似をしないようにこちらでも気をつけておきますが……二人はもう行かれるのですか?」
ダルリアンの言葉を受けて、ブレイドとリアナは大きく頷いた。
「早いところ冒険者になりたいからな。カルディフにも冒険者ギルドがないんで大変だよ」
「そうですか。残念ですが仕方ありませんね」
「あの、お二人はどうするんですか? 魔窟はお兄ちゃんが封印しちゃってますけど?」
「我々は一度魔窟があった場所まで行き、この目で確認をしてから王都へ戻ります」
「ブレイド殿、リアナ殿、道中お気をつけて」
「お互いにな」
最後には全員が握手を交わすと、エリーザとダルリアンはカルディフへと戻っていく。
その姿を見送ったブレイドとリアナは一路マンティスへ向かい歩き始めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます