マイストーリーオンライン ~MSOの世界に転生したら~
渡琉兎
第一部:マイストーリーオンライン
プロローグ-1
「……な、なんじゃこりゃああああああぁぁっ!」
彼の第一声はまさかの絶叫だった。
何が起こったのか、それは彼にも分からない。
だからこその大絶叫。
――時を少しだけ遡ろう。
※※※※
大人気VRMMORPG【マイストーリーオンライン】――通称MSO。
五年ほど前にサービスを開始したMSOは徐々にプレイヤーが増え、スタートから一年で一〇万人、三年で五〇万人、五年が経った今では二〇〇万人にまで到達している。
メインストーリーは魔族が溢れ出す【魔窟】を【封印】することであり、最終目的は魔窟の出現から一〇〇年が経っても封印できずにいる【魔王の魔窟】を封印すること。
彼――
多くのプレイヤーがパーティを組んでメインストーリーの攻略に励む中、久木はソロプレイにこだわり攻略を進めていた。
理由についてはいくつかあるものの、一番の理由は経験値の配分にあった。
パーティを組んで魔族を討伐すると得られる経験値が等分されてしまうのに対して、ソロであれば全ての経験値を得ることができる。
ならばソロの方が効率がいいのでは、と思うのだがそうでもない。
メインストーリーの難易度はパーティプレイが推奨されており、難易度もパーティプレイに合わせて設定がされている。そのため、ソロプレイでは攻略自体が難しくなっていた。
ソロプレイをしているプレイヤーもいるが、それはごく少数。さらにその少数の中でも久木はさらに珍しい部類に入る。
サービス開始から今に至るまで、常にソロプレイなのだ。
最初はパーティを組みレベルを上げて、その上でソロプレイに切り替えるプレイヤーがほとんどの中で、久木は最初からソロプレイを貫いていた。
「……はぁ、ソロは楽だなぁ」
そんなことを口にしながら、久木は草原エリアを散策している。
草原エリアはゲーム初心者が通るエリアであり、今となっては一日の間でプレイヤーが二桁通るか通らないかといったエリアだ。
「風が気持ちいい……はず!」
VRゲームなので実際に風を感じることはできないのだが、そんな雰囲気を感じたくて草原エリアを歩いていた。
「メインストーリーも午前中で進めたし、今日はフリープレイでのんびりレベル上げでもするか」
MSOにはメインストーリーを進める以外にもいくつかの楽しみ方が存在する。
一つがサブストーリーというもので、メインストーリーに沿った形で別の話へ分岐したストーリーのことである。
攻略しなくてもメインストーリーは進むのだが、サブストーリーの中にはレアアイテムを手に入れることができるものもあるので多くのプレイヤーが積極的に攻略を狙っている。
そしてもう一つは久木が口にしたフリープレイである。
特に目的を持ってゲームを進めるわけではなく、ただログインをしてエリアを散策し、魔族を討伐してレベルを上げる程度のものだ。
レベルを上げるならサブストーリーを進めていても上がるのだからとフリープレイを積極的に楽しむプレイヤーはこれまた少ない。
しかし、フリープレイにもメリットは存在する。それが――
「……おっ! まさか草原エリアで隠しストーリーが出てくるとは思わなかったな」
フリープレイでしか見つけることができないもの、それが隠しストーリーである。
メインストーリーに関連しているわけでもなく、単純に強力な魔族が存在しているストーリーを攻略するもの。
その見返りとして、サブストーリーで手に入るレアアイテムよりもさらに性能の高いレアアイテムを手に入れることができる。
「今回は何が条件だったんだ? ……まあ、いいか」
隠しストーリーには出現条件が設定されている。
プレイヤーランキング100位以内だとか、一定のステイタス以上だとか、条件は色々とあるのだが今回の条件は【プレイヤーランキング1位を一ヶ月継続】である。
久木が1位になってからすでに三ヶ月近く経過しているので条件はとうの昔に達成していたのだが、草原エリアに足を踏み入れたのが久しぶりだったこともあり今に至っていた。
「さーて、今回は何が出るかなー」
多くのサブストーリーや隠しストーリーをクリアしてきた久木である。今回もクリアする気満々で目の前にポップアップしてきた赤い【DANGER】という文字に右手で触れた。
すると、視界にノイズが走り、砂嵐が耳朶を震わせてくる。
「あれ? いつもの隠しストーリーと違うな。……まあ、これも何かの演出だろう」
いつもなら風景の一部が長方形のパネルとなり回転しながら変わっていく。
しかし今回はノイズが視界を覆い隠すのと同時に風景が一変し、音も消失して異様な雰囲気を醸し出している。
地面から淡い光が放たれている空間は、見上げると漆黒が包み込んでいた。
ただならぬ雰囲気を感じ取った久木は別の隠しストーリーで手に入れた愛剣【七星宝剣】を抜き放ち現れるだろう魔族に備えることにした。
「……何も、出てこない?」
そう口にした直後だった。
――バサッ! バサッ!
上に広がる漆黒の中から魔族のものと思われる羽音が空間に響き渡り、ゆっくりとその姿を現した。
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