十九話――それでも平和な日々のお話その2
ブルム家を脅して、ソフィアとレーゲン・ブルムの縁談をなかったことにする。
結果から言えば、それはうまくいった。
医療都市メディシアを中心に広がるブルム領の次期領主、または、現事実上の領主たるレーゲン・ブルム。
そんな彼が、児童と言える俺に暴行を加え、縁談の話があがっているとはいえ、ソフィアに強姦紛いの所業を行おうとした事実を捉えた
俺が捉えた映像の効果は思った以上に効果絶大だった。
やはり次期当主のあんな無様が明るみになるのは相当まずいらしい。
半ば脅すような形だったものの、ソフィアとレーゲン・ブルムは破談。加えて、医療都市メディシアがロムル街で広がる疫病に対して施した処置の多くは、援助という形になった。つまり、カシがほとんど無くなった。
代わりに、あの
ソフィアから没収したモノを勝手に使って、それをさらに没収されたわけだ。
ソフィア姉さん、ごめんなさい。
その後は、取り立てるような問題も起こらず、俺たちの元にはまた平和な日々が戻ってきた。
変わったことと言えば、ソフィアの俺に対する態度が露骨になったくらいか。
まぁ、あれだけのことがあった後だし、俺もソフィアの気持ちを知ってしまっているから、色々と気恥ずかしい。
それに、ソフィアのことは好きだが、結婚とかそういう方向に行くのは違うんじゃないかと思ってしまう。
なので、ソフィアの告白に対する返事は保留にさせてもらってる。
たびたびごめんなさい、ソフィア姉さん。
まぁなんにせよ今確認すべきなのは、平和が戻ってきた、それだけだ。
◯
時が経つのは早い。
特にその日々が平凡で平和で楽しければ楽しいほど、時が経つのは早い。
気が付けば、俺の周りでちょろちょろと戯れていた妹のエレナは、九才になっていた。
そして俺は、十四才。
この世界では、男は十五才、女は十才から結婚することができる。
つまり、俺とエレナはあと一年もすれば、結婚することができるというわけだ。
そこで、一つ困った問題がある。
「えぇ……エレナちゃん。小さい頃からのその約束、ずーっと覚えていて、しかも本気にしちゃってるの?」
「あー、まぁ、うん」
屋敷の裏手にある日陰に腰をかけて、俺は幼馴染のアリアに相談をしていた。
議題は、妹のエレナのこと。
そして、何が問題なのかというと、エレナが俺と結婚する気でいるということだ。
自分で言っていて頭がおかしくなったんじゃないかと思うが、事実だ。
ことの発端は、先日行われたエレナの誕生日。
エレナは耳元で、俺だけに聞こえるようにこう言った。
「お兄ちゃんっ、約束まであと一年だねっ」
「ん、なにがだ?」
「なにって、結婚だよ、結婚。ちゃんと約束したでしょっ?」
どんなもでも信じて疑わない、純粋無垢な瞳と、嬉しさ満開の可愛い笑顔がそこにはあった。
当時、俺の頰を大量の冷や汗が流れたのは、言うまでもない。
だって普通、覚えてるとは思わないでしょ……。
さらにタチの悪いところを言えば、この世界では血の繋がりがあっても婚姻を結ぶことに問題はない。
エレナは、小さい頃からずっと俺にべったりだった。
そこでさらにもう一つタチの悪いところを述べると、俺の周りには同時に、アリアとソフィアが居た。
自分で言うのもなんだが、どうやら昔に彼女たちの危機を救ったこともあって、俺はアリアとソフィアに好かれているらしい。
鈍感系でもなんでもない俺は、自分が彼女たちに、割とマジで愛されていることを勘付いている。
そこで問題になるのが、アリアとソフィアの俺に対する態度が結構露骨だということ。
まだそれ相応の覚悟を決められないヘタレな俺は、アリアとソフィアの好意にハッキリとした答えを出していない。
ハーレムを楽しみたいというのもある。(二人いたらもうハーレムって言えるよね?)
だがそうすると、アリアとソフィアの態度がさらに露骨になる。
ボディタッチとかがすごく増えることになる。
自然とそばにいるエレナも、お兄ちゃん大好きなのでそれを真似る。
ここでタチが悪いのは、エレナは小さい時からずっとその光景を見ているので、それが普通だと思っていることだ。
詰まる所、エレナには俺に対する好意の
そこへ、「お兄ちゃん、来年になったら約束通り結婚しようね」と来たもんだ。
実際に結婚できる年齢を理解してそれを言っているのだから、確実に、冗談では済まない。
「どうしようか……」
「どうしようって、そりゃハッキリ言えばいいじゃない。あの時のアレは冗談でしたーって!」
どこか楽しそうな様子でアリアが言う。
「何年間もずっとそれを信じ続けてきた可愛い妹に、か?」
「だって、事実なんだからしょうがないじゃん。ウィルはエレナちゃんと結婚する気はないんでしょ?」
「いや、まぁ、今ところはそうなんだけど……ぉっ!?」
気づいたとき、アリアの顔が目の前にあった。
どうやら、押し倒されたようだ。
「ウィル、今ところってどういうこと?」
しまった……。
今のは軽率な発言だった。
アリアの真顔を間近で見て、俺はそのことを悟る。
どうにも最近、アリア、ソフィアもだが、嫉妬が激しいような気がする。
「べ、別に深い意味はないって!! 人生どうなるかわからないだろ? だから、そう言ってみただけで、そんな変な意味はないから!」
「……じゃぁ、あたしとウィルが結婚することもあるかもしれないってことだよね」
一度考え込むように目を閉じたあと、アリアがさらに顔を近づけてそう言う。
「ま、まぁ……そうだな」
「ほんとっ!? きゃーっ、もうウィルったらーっ」
アリアが俺に抱きついて、抑えきれないといった様子でそのままくるくる転がりだした。
「ちょっとアリア……酔っちゃうから俺を抱えたまま転がるのはやめて……」
「はーいっ、ウィルっごめんね?」
基本的には素直なんだけどなぁ……。
どうにも最近、引っかかることも多い。
「ねぇウィルっ」
「ん?」
「あたしね、ウィルのこと本当に好きなんだよ? もうすっごい好きっ」
「あ、あぁうん、ありがと。そう言ってくれると俺も嬉しい」
やっぱり、アリアにエレナのことを相談したのは間違いだったかな……。
「あっ、お兄ちゃんっ! アリアお姉ちゃんとなに遊んでるのーっ? エレナもはいるっ」
もうちょっと、一人で考えてみるか。
まだ一年もあるんだし。
屋敷の陰からひょこっと顔を出し、こちらに駆け寄ってきたエレナを見て、俺はそう思ったのだった。
「…………」
「どうした? アリア」
「ううんなんでもない、じゃあエレナちゃん、一緒に遊ぼうか!」
「うんそうだね、アリアお姉ちゃん――……」
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