六話――幼馴染に魔法を教えた話
「いい? このことは絶対に内緒だからね」
「うんっ、ぜったいにだれにも言わない、ほんとだもんっ!」
人差し指を突きつけて何度も念を押す俺に、アリアが辟易したように大声をだした。
だけどな。
まったく同じことを半年前に約束してそれを破った奴がいるんだよな。
俺のことだけど。
村の全体を囲みこむ防御結界の外、村に隣接する鬱蒼とした森。
その中に入ってすぐの真っさらな雪が積もる開けた場所で、俺とアリアは向かい合っていた。
ここは俺とソフィアが魔法の修行に使っているところで、規模こそ違えど村を囲んでいる防御結界と同質のモノが張られている。
防御結界とは、人間に害を為す生物、魔物を弾く便利なモノだ。
その分かなりややこしい構造をしていて、とてもじゃないが俺が扱える類の魔法じゃない。
ここにあるその結界は、天才ソフィアお姉ちゃんが構築したものだ。
ソフィアの凄さに改めて感心していると、しびれを切らしたようにアリアが俺を可愛くにらんでいた。
「アリアっ、ウィルみたいにウソつかないもんっ!」
確かにおっしゃるとおりで。
「わ、わかった。じゃあ始めよっか」
「うんっ」
ワクワクした目でアリアが大きく頷く。待ちきれなくてうずうずしてる。
まぁ、アリアはちゃんと交わした約束なら守るし、何だかんだ言って俺と幼少期を過ごしていることも手伝ってか年の割には聡い。
心配するようなことは何も起こらないだろう。
なんて、お気楽に考えるこの時の俺は、のちにあんな災難が訪れることを知る由もなかった。
◯
凍える寒さの中、くしゅんっと可愛いくしゃみを漏らしたアリア。
鼻水が垂れてることを教えてあげたほうがいいだろうか……。
すごく愛らしい図ではあるので、本人が気付くまで放っておくことにした。
「ねぇっ、どんなまほう教えてくれるのっ?」
弾むように言って、またアリアはくしゃみを漏らす。
あぁ、鼻水が……。
さすがに見てられなくなったので、服の袖でアリアの鼻元をこする。不思議そうな顔をするアリア。
そして俺の服についたのは美少女、いや美幼女の鼻水。
これは、男としてどうするべきか……。
相当変態的な思考が浮かんできそうだったので、意識をアリアに教える魔法にシフトする。
最初はこの寒さをしのげるように、火の魔法を教えようと考えたが、それは幼児にライターを渡す行為と変わらないことに気づき却下。
危険性が少なく、比較的簡単な風の魔法を教えることにした。
「じゃぁ、風の魔法にしよう」
「かぜっ!? あのびゅーってふくやつ?」
「そうそう、その風」
身振り手振りでわちゃわちゃと風を表現しているアリアに微笑ましさを感じながら、俺は魔法の構築を始める。
魔法の扱いは、簡単に言えばマナの行使。
体内外を流れる
流れる風をイメージして、チカラを込めた。するとそれに合わせて、俺の意思が通じる風が生成されていくのが分かる。
俺はその風を繰って、周囲に落ちていた落ち葉を吹き飛ばし、最後におまけとしてアリアの蒼髪をなびかせた。
アリアの瞳がキラキラしていた。
「今のっ、ウィルがやったのっ!?」
「うん、そうだよ」
「すごいっ! まほうすごいねっ!」
きゃーきゃー言いながらアリアが居ても立っても居られないように興奮する。
そこは俺がすごいって言って欲しかったな……。
まぁいいけど。いいんだけども。
かくして、俺とアリアのドキドキっ秘密の魔法特訓が始まったのであった。
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