閑話13-24 サクラ、ジョージとルイスに狼人族のドニの事情を伝える

-------------------------前書き-------------------------


副題の「13-24」は、この閑話が第十三章 エピローグ終了ぐらいという意味です。

また構成上、一部未来(本編より先)の情報があります。ご注意ください。


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『おかえりジョージ! いらっしゃいルイスくん』


『ただいまサクラ! まだ産まれてないかい? 体は大丈夫だった?』


『落ち着いてジョージ、大丈夫だから安心して。何かあったら連絡してるわよ』


『サクラさん、おじゃまします! いやあ、日本は楽しかった! いろいろ買ってきちゃったよ!』


 アメリカ、ロサンゼルス。

 ユージの妹・サクラとその夫のジョージが暮らす家。

 リビングにいたサクラと、帰宅したジョージ、ルイスが言葉を交わす。

 ユージ宅の周辺の土地の買収に関する打ち合わせと手続き、そして周辺のロケハン。

 それを名目にした日本観光。

 帰ってきた二人は、いまもハイテンションなままであった。



『それで、日本はどうだった? 郡司先生たちは何て?』


『うん、ちょっとのんびりしてたから急かしてきたよ。想像以上に反響あると思いますよって。それに……』


 チラッとルイスに目を向けるジョージ。呆れ顔である。

 ルイスはにんまりと笑っている。


『郡司さんに聞いてみたんだ! そしたら外国人も土地を取得できるっていうじゃないか! 調べてもらって、いけそうならボクも近くに土地を買って、家を建てることにしたから! ああ、大丈夫サクラさん、郡司さんたちが押さえようとしてる場所の外だから!』


 まくしたてるルイス。いつものことである。いや、いつもよりテンションが高い。


『え? ジョージ、大丈夫なの?』


『まあルイスは稼いでるから、お金は心配ないと思うけど……』


『大丈夫だよサクラさん、ジョージ! それにしても日本の土地は狭いのに高いねえ』


『今回の日本旅行がずいぶん楽しかったみたいでね……』


 ルイスと学生時代からの友人だったジョージ。

 そのジョージをしても、今回のルイスのテンションには疲れ気味であった。

 独身で、ハリウッドで活躍するCGクリエイター。

 貯まる一方のお金をドンと使うことにしたようだ。

 持てる者の余裕である。

 よっぽど日本が楽しかったのか、あるいは異世界に行くヒントを探すためか。


『そ、そっか。うん、まあルイスくんがいいならそれでいいんじゃないかな』


 引きつった笑顔で、まるで自分に言い聞かせるサクラ。


『いまは打ち合わせとかあるからムリだけど、パソコンがあってネットが繋がればたいていの場所で仕事できるしね! あ、ボクはそろそろ家に帰るから! 荷物と元のユージさんの家のまわりの写真を整理しないと! それじゃあサクラさん、体に気をつけてね!』


 そんな言葉を残し、ルイスは立ち上がってスタスタと外に向かう。

 マイペースなCGクリエイターである。

 どの世界でも、一流はどこかエキセントリックなものなのかもしれない。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 ユージが、王都の旅から戻って自宅に帰りついた。


 その日からサクラもジョージもルイスも、プロデューサーと脚本家の老夫婦も。

 アメリカ組は激動の日々だった。

 いや、何日にもわけてユージから少しずつ報告を受ける掲示板住人たちも激動の日々だったようだが。


 それでも掲示板住人の大半と違って、アメリカ組の場合は仕事なのだ。

 ユージへのインタビューをどうするか。

 新しい画像と動画をどう使うか。

 ドキュメント番組の構成は、撮影は、編集は。

 告知をどうするか、無数の放送局のどこに流すか、放送後の反響をどうするか。


 時には臨月間近で動けないサクラのため、ジョージとサクラの自宅で。

 時にはジョージがプロデューサー宅に出向いて。


 ユージが次の目的地へ旅立つ前に、せめて流れだけでも決めておきたい。

 そんな想いを抱えたジョージとサクラ、プロデューサーの働きにより、激動の日々が続く。



 そして。

 ユージがエルフの里に旅立つ日が近づいてきたある日のこと。


『た、大変だ! 大変だよジョージ、サクラさん!』


『どうしたルイス? そんなに慌てて』


『あ、ルイスくん、こんにちは』


 リビングに並んで座るサクラとジョージ。

 ジョージの手はサクラのお腹を撫でている。

 ラブシーンではない。

 そうであれば、ルイスの登場にもうちょっと焦るはずだ。

 二人は見られて興奮する特殊な趣味はないのだ。


 ジョージは、予定日が近づいて大きくなったサクラのお腹を撫でているだけであった。

 ようやく激動も落ち着いてきた日、ジョージはサクラとコミュニケーションを取っていたのだ。

 イチャついているだけともいう。


『こんにちはサクラさん、あ、体調は落ち着いてるみたいだね。ああ、そうじゃないんだ、いやそれも大事なんだけど、それより二人とも、今日のユージさんの報告は見た? その様子だと見てないみたいだね、ちょっと待っていま見せるから!』


 あいかわらずのマシンガントークの言葉を聞き流し、リュックからノートパソコンを取り出すルイスを見守る二人。

 手慣れた対処である。

 サクラもさすがに慣れてきたようだ。


 ノートパソコンを起動したルイスが、画像を開いてサクラとジョージに見せつける。


『ほら、見てくれジョージ! やっぱりいたんだよ! ボクは間違ってなかった!』


 勝ち誇ったように言うルイス。

 目を見開くジョージ。


『ウ、ウソだろルイス……』


 続いて動画を流すルイス。


『チラチラ映り込んでたけど、今日やっとユージさんが報告したみたいで、この画像と動画を上げてくれたんだ! ウソじゃないよジョージ、もちろん加工がないかチェック済みだ!』


『……ウェアウルフ』


 目を見張ったジョージがボソリと呟く。


 一気に報告するとめちゃくちゃになるから、少しずつ。

 クールなニートの指揮下に置かれたユージは、旅行の全行程をざっと説明した後、日をわけて一つ一つ詳細を報告していた。


 どうやらこの日は、ドニの物語を報告していたようだ。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



『……ってことみたい。どこかわからないところはあった?』


 ユージが書き込んだ日本語を訳して二人のアメリカ人に語ったサクラ。

 通じたかどうか二人に確認する。


 まあ確認するまでもなく、サクラの訳を聞いた二人は時に拳を握りしめ、顔を紅潮させ、滂沱の涙を流していたのだが。


『なんてことだ……ルイス……』


『ああクソ、ジョージ、これはバカげた脚本よりスゴイ! 事実は小説よりも奇なりってヤツだね!』


 Truth is stranger than fiction.

 英語圏でよく知られた一文を叫ぶルイス。

 作り物じゃないと思っているとはいえ異世界での出来事は真実なのかとか、この場合は「奇妙な」より「おもしろい」の方がふさわしいのでは、などというツッコミは野暮である。


『それでお兄ちゃんは、ドニさんでも使える武器を相談したいんだって。ルイスくんが前に描いた絵にあった爪とかいいんじゃないかって言ってる』


『ウルヴァリ』


『ジョージ! それ以上はダメ! 彼はこんなに毛深くないわよ!』


 何か言いかけたジョージの言葉を遮るサクラ。

 危ないところである。いやマジで。


 ルイスはなぜか大人しい。

 ジョージの発言を遮ったサクラがルイスを見やる。


『鉄の爪はいいとして……動くのは左腕と左手、それから右腕、肩、頭、両足か……動画を見るとスピードタイプなんだよな……あんまり重いのはダメか。いや、身体能力が上がるなら』


 ルイスはすでに自分の世界に没入していた。

 そのままタブレットとタッチペンを取り出して手を動かすルイス。

 コレも違う、ならこうだ、いやこれじゃダークヒーローっぽくない、などとブツブツ言っている。


『ルイスくん?』


『ああサクラ、この状態になったら放っておいた方がいいよ。しばらく話しかけないでおこう』


『そ、そうなんだ……』


『うん。あ、ボクも部屋に行ってパソコンでいろいろ調べたり考えてみるけど、サクラはどうする?』


『じゃあ私もついていこうかな』


『それじゃ二人で考えようか。おいで、ボクのレディ』


『ふふ、ジョージったら。よいしょっと』


 ジョージの手を取って立ち上がるサクラ。

 予定日間近のお腹はずいぶん重そうだ。

 そのままジョージと腕を組み、二人は部屋に消えていく。

 考え込むルイスをリビングに置いて。


 この後、二人は滅茶苦茶セッ……しない。

 サクラは妊婦であり、ジョージに特殊な趣味はない。

 まあ軽くキスはしたようだが。


 ともあれ。

 隻眼、隻腕、見た目は二足歩行する狼。

 狼男、あるいはウェアウルフ。

 そのストーリー、そして見た目。

 厨二病ならずとも、妄想をかき立てられる男である。


 狼人族の男・ドニの武器は、ジョージやルイス、掲示板の住人たちを巻き込んで検討されるのだった。


 一部、というかかなり悪ノリもあったようだが。



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