閑話集 2

閑話5-12 ユージの妹サクラ、夫のジョージと友達と動画について話す

-------------------------前書き-------------------------


副題の「5-12」は、この閑話が第五章 十二話目ごろという意味です。


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『おーい、ジョージ、サクラさん、こっちこっち!』


『ああルイス、お待たせ!』


『ルイスさん、こんばんは!』


 ロサンゼルスのレストランに大きな声が響く。どうやら今日はジョージとサクラが友人とディナーを楽しむようだ。


『いやあ、ひさしぶりだねルイス。忙しかったのかい?』


『ああ、ちょっと仕事が立て込んでいてね。この前ようやく片付いたからしばらくはオフなんだ。たいして面白くない仕事だったんだけど、やたらこだわるヤツらでね。たまったもんじゃないよまったく。こんな仕事ならよそに頼めって。ジョージとサクラさんはどうだい? 忙しいの? あ、ここはうまいステーキを食わせるんで有名なんだ。前に連れてきたことあったっけ? 話すより先に注文しようか。キューズ!』


 ジョージやサクラの返答も聞かず、片手を挙げて大きな声でウェイターを呼び出すルイス。どうやらずいぶんマイペースな人間のようだ。キューズってたぶんエクスキューズミーのことね、中学時代の英語の先生ならすぐ直されるわ、そんな思いを飲み込むサクラ。


『あいかわらずだね、ルイス。そんなに焦らなくてもステーキは逃げないよ。もう足はないからね!』


 大声で笑い合うアメリカ人男性二人。笑ったポイントは不明である。サクラは日本人の固有技能を発動させる。穏やかな微笑みアルカイックスマイルである。



 ビールを片手に、塊のステーキをやっつける三人。たしかにステーキが有名な店だけあり、美味しいようだ。美味しいようだが、さすがに量が多い。オーダーは1ポンドからというメニューは伊達ではない。明日は軽い食事にしなきゃ、そんなサクラの思いをよそに、二人の男は歓談を続けていた。


『それで、ルイス。あの動画は見てくれたかい? どう思う?』


『そうそうジョージ! なんだいあの動画は! サクラさんが翻訳した文章も見たけどスゴイことになってるじゃないか! なんでもっと早く教えてくれなかったんだ! あんなクソつまらない仕事なんかほっぽり出してこっちに集中したかったのに。どう思うかって? アメイジングだよ! ファッキンアメイジングだよ! おっと失礼。あれがCGかどうかだって? CGなわけないじゃないか! あれがCGだったら僕はいますぐ今のスタジオを辞めて作ったヤツに教わりに行くね! 特殊メイク? そっちは詳しくないからわからないけど、無理じゃないかなあ。血が出るシーンとかあっただろ? あそこも加工されてないんだ。特殊メイクとスナッフの組み合わせならあのシーンはできなくはないけど、魔法のシーンは無理だしね』


 畳み掛けるように話すルイスに、圧倒されるサクラ。ジョージは平気な顔で友達の言葉の要点を掴み、その勢いは受け流している。ジュニアハイスクール時代からの付き合いなのだ。もう慣れたものである。


『やっぱりそうか……。じゃあ、撮影場所なんかもわからない?』


『だから言っているじゃないかジョージ! あの動画は加工されたモノじゃないって! つまりあれに映っていることはすべて現実で、この世界のどこかで撮影して合成したり加工した映像じゃないんだよ。といってぜんぶCGで作られたわけでもない。現実なんだ! まあでもどこかの島や秘境には本当にあんな怪物や魔法があるかもしれないけどね。もしそうだったらいますぐ休暇を取らなきゃね! 君も一緒に行くだろ、ジョージ? おっと、その前にガンショップに寄っていかないとね!』


 なんとかルイスの早口な英語を聞き取ったサクラが、がっくりと肩を落とす。サクラとて、ユージの現状を信じていなかった訳ではない。それでも、実はこの世界のどこかなのかもしれないという一縷の可能性に望みを繋いでいたのだ。まあまだこの世界の秘境、という可能性は残っているが。


『ルイスが言うなら、本当にあの動画は加工されたものじゃないのか……』


 ジョージはジョージで、ようやくその現実を認識したようである。そう、ジョージの友達のルイスはCGクリエイター。その道のプロである。だからこそジョージはサクラの許可を取って、彼に動画を見てもらったのだ。


『それでジョージ、サクラさん……。動画はあれですべてなのかい? あの場所に行く方法はわからないのかい? やっぱり古びた衣装タンスとか不思議な本が必要なのかな? それに……』


 急に声を低め、ルイスが真剣なまなざしで二人に語りかける。

 応じるように身を乗り出すジョージとサクラ。


『それに、ゾンビはいるのかい?』


 ジョージの友達は、ジョージの友達であった。


 がっくりと視線を落とすサクラ。着信を告げるスマートフォンの震えが目に入る。


『あ、ごめんなさい、日本から電話みたい。ちょっと外すね!』


 そう言ってサクラが席を立ち、通話するため店のエントランスへ足を向ける。

 きっと電話を言い訳に、このあと続くゾンビ話から逃げたわけではないのだろう。きっと。


 ゾンビゾンビって、最近のゾンビ物なんてけっきょく人間同士が争うのがメインなだけじゃない、わかってないわねまったく。そんなことを呟くサクラ。


 どうやらすでに彼女も手遅れなようである。


「あ、もしもし恵美、うん大丈夫よ。どうしたの?」



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