第十一話 ユージ、アリスとのんびり開拓に取りかかる
行商人のケビンが去った二日後。
ユージとコタローは家の外、生垣が見える場所にいた。
「よーしアリス、いいぞー!」
「はーい、ユージ兄! いくよー!」
ユージが家の方へ呼びかけると、元気いっぱいのアリスの返事が聞こえてくる。
んしょんしょ、とアリスの声が聞こえ、しばらく待つと生垣の上から放物線を描いて水が飛んでくる。
「よし、家から水が届くのはこの辺までだな」
そう呟きながら、木々の間に目印となるザイルを張っていく。
「ありがとーアリス! もういいぞー」
家の敷地の中では、んしょんしょと言いながらアリスが脚立を降りている。手に持ったホースからはジャバジャバと水が出ていた。
そう、ユージは自給自足を目指し、まずは家から水が届く範囲を開拓しようとしているのだ。
家の東西南北すべてにザイルを張り、開拓するエリアを決めたユージ。ちなみに、北の予定地は狭くなっている。こちらはあまり木を切らず、あわよくば食べられる茸を栽培できないかと考えてのことだ。
「おお、けっこう広いなー。だいたい家から10メートルぐらいまで水は届くか。でもウチにもっと長いホースがあればなあ……。まあそれを言ったらチェーンソーの方が欲しいか……」
ないものねだりをするユージに、コタローがワンッと軽く吠える。あるものでがんばりましょ、と励ましてくれているようだ。
おー、わかってるよコタロー、がんばろうなーと話しかけながら頭を撫でるユージ。
水まき係だったアリスも、とてとてと走ってユージたちの下へやってきた。
「よーし、じゃあまずは木を伐っていくか! コタローはまわりの警戒を頼むな。アリスは……」
「アリスもおてつだいするー!」
おお、じゃあまずはアリスができそうなことを探そうなーと言いながら、ユージは開拓のために準備した道具を地面に広げる。
家にあったノコギリ、鉈、刈り込み鋏、高枝切り鋏、剪定はさみ、スコップ、ザイル、ピッケル、軍手。ケビンが置いていった大小の斧、鉈。
「よし! とりあえず木を伐り倒すところからだな! 木材にしたって乾燥させないと使えないみたいだし。アリスは……じゃあ俺が木を伐り倒したら、鉈で枝を払ってもらおうかな。できる?」
「うーん、アリスやってみる!」
「おお、えらいなーアリスは。危ないから、後ろの方で待っててな。いま俺がパパパーッと木を伐り倒してくるから!」
アリスのおてつだい宣言がうれしかったのか、張り切って伐採に向かうユージ。ちなみに、そう簡単に木は伐り倒せない。ここにはチェーンソーなどないのだ。
話が終わったと見て、コタローはさっそく周辺を見まわりに駆けていく。ごはんもかってやろうかしらとでも思っているのだろうか、いつもよりちょっと涎が多い。はしたないメスである。
まずはノコギリを使い、斜めに受け口を作っていくユージ。
これに失敗すると木がどこに倒れるかわからないため、慎重に刃を進める。
ちなみに前日、え、斧をガンガン打ちつけていけばいいんじゃないの? と書き込み、掲示板の住人を激怒させている。
危ういところであったが、事前に相談し、ネットで調べたことは進歩だったのかもしれない。
さらに受け口も追い口もノコギリで切る、というのも掲示板で提案されたが、こちらはこの世界のノコギリの有無と性能がわからず、いったん保留された。存在しない、品質が劣るとなった場合、日本製のノコギリを使いつぶしたくなかったのである。
ということで、慎重に進める必要がある受け口はノコギリ、追い口は斧でという手順になっていた。
木を伐るとなれば外せない歌を、節をつけて歌い出すユージ。
当たり前だが、アリスから合いの手は返ってこない。かなり後方、生垣のすぐ横に立ち、歌い出したユージをキョトンと見つめている。
森にユージの歌声が響き、時おりカーンカーンと斧を木に打ちつける音も響くことしばし。
ついに、メキメキと最初の一本が倒れる。
「よし、狙った方向に倒れた! いやー、やればできるもんだなー」
いい汗かいた、とばかりに
ちなみにここまでで一時間ほどかかっている。初めてのことゆえ仕方がないかもしれないが、それでもこの開拓計画の先は長そうである。
「じゃあアリス、一緒に枝を切っていこうか!」
「うん! アリスおてつだいするね!」
鉈を手に、二人で枝払いに取りかかるユージとアリス。
時々、とおー、えいっ! というアリスの掛け声が聞こえてくる。
一本の木を伐り倒し、枝を払い、ユージが上がった身体能力で持ち運べる長さにカットし終えた頃には、陽が傾きはじめていた。
よし、これでオッケーだ! とハイタッチを交わすユージとアリスの下に、ガサガサと音を立ててコタローが帰ってきた。
口にはしっかり山鳥をくわえている。
本日の収穫を足下に置き、切り倒した一本の木と喜んでいる二人を眺めるコタロー。
やれやれ、さきはながそうね、とでも言いたげに首を振っていた。
初めて異世界の成人に遭遇して森の魔法使い殿と呼ばれ、ニートから森の魔法使いへジョブチェンジしたつもりになっているユージ。
行商の約束を取り付け、生活の安定のため自給自足を目指して開拓もはじめた。
だが、快適な生活への道のりはまだまだ長そうであった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます