第四話 ユージの妹サクラ、日本での状況を知る

「それでアンタ、今日はどうするの?」


 衝撃の本人確認から一夜明け、朝食を食べ終わったサクラに恵美が問いかける。


「んー、お兄ちゃんのメールはどうせ午後か夜だから、今日はいろいろまわろうと思って。ホントに異世界かどうかわからないけど、電気とか水道とか生きてるんでしょ? 契約とか使用状況とか料金とか、今日は調べてみようと思って」


「ぐわー、おもしろそうなのに! 今日はパートで、終わっても幼稚園にお迎えだからなー。諦めるしかないか……」


 この女、興味本位で電気会社や水道局にまでついて行きたいようである。

 だが、彼女のおかげでお兄ちゃんと連絡が取れたのだ、とサクラは自分に言い聞かせ、イラッとする気持ちを落ち着かせる。


「レンタカーもあるし、一人で行動するわよ。私だって地元だったんだから。昨日はありがとねー」


「くっそー。また日本にいるうちに連絡ちょうだいね! 報告会よ!」


 なおも言い募る恵美に対し、バッとハグしてさっさと出発するサクラ。

 バーイ、などと軽く手を振っている。

 すっかりアメリカナイズされているようだ。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「北条さんですか!? 連絡どころか家族の方が来た! 課長、課長、あの北条さんですよ!」


 契約していた電気会社の事業所に入り、受付で北条の名前と住所を伝えると、応対してくれた女性はすさまじい勢いで上司を呼びに行った。

 戻ってきた女性に応接室に案内されるサクラ。そこに上司であろうおっさんが駆け込んでくる。


「北条さん……やっと会えた! ほんっとにもう、ハガキは届かない、電話してもダメ、直接行ったら家はない。ほんとどうしようかと思いましたよ」


 ビジネスマンの基本、名刺交換どころか名乗りもせずおっさんが話しはじめる。


「あの……状況がわからないんですけど……」


「状況!? 状況ですか! こっちはねえ、大変な思いをしたんですよ。いいですか北条さん、引越しされる際は電力会社にも連絡ください。それがなんです、連絡もせずに引越して、こちらから連絡は取れない。困って家に行ってみたら家がない。しかもどこの解体業者に頼んだんですか? 連絡もなしに電線切ってましたよ。ほんっとありえない。直接お伝えしたいんで使った解体業者教えてもらえませんかね? 下手したら死人が出てますよ。わかります? 私どもの担当がお宅にうかがったら、家はなく通電してる電線がぶらぶらしてたんです。大慌てで作業して。それを状況がわからないですって? ハハッ」


 真顔で乾いた笑い声を響かせるおっさん。お疲れのようである。

 だが、おっさんが説明した状況であれば、こうなるのも仕方ないだろう。


「そ、そうですか……。それでその、現在の使用状況とか料金とかは……」


 じゃっかん気圧けおされているが、この状況で謝らないサクラ。

 気質ではなく、訴訟大国アメリカでビジネスしているゆえのタフさである。

 謝ったら負けなのだ。

 精神論ではなく、社会的にも金銭的にも負けることがあるのだ。


「使用状況? 止まってますよそりゃ。わかります? 電線が風に揺れてたんですよ? こう、ブラーンブラーンってね。どうやって使うんです? お金ですか? 使用料金は全額いただいてますが、あとは法務の方から連絡させますね。必ず、必ず連絡が取れる電話番号を教えてください」


「わかりました。こちらが私の電話番号とメールアドレスです。こちらも繋がりますが、私含めて海外在住になりましたので、日本では代理人をたてる形でよろしいですか? 後日代理人に伺わせます」


「ああ、その方がありがたいですね。では、これが私の連絡先です」


 ようやく名刺を出すおっさん。

 一件目から大きなトラブルではあったが、サクラはなんとか状況を把握できたようである。


 ふう。

 車に戻り、ため息を吐くサクラ。

 なぜユージがいる家に電気が届いているのか。それを考えてのため息ではない。

 サクラは水道局とガス会社もまわる予定なのだ。


 このあと滅茶苦茶怒られた。


 いきなり切断された、事故が起きるところだった、お金については法務かそれに該当する部署から連絡するという同じ内容で。


 お兄ちゃんとやり取りするより、まずは弁護士とやり取りしなきゃ。

 そう心に誓うサクラであった。



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